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6つの命令
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ガブリュー大佐はしばらくの沈黙ののち口を開いた。
「...ヒロサセ少尉のことはとりあえず置いておこう。 メカジキ少尉、サワラジリの《支配》は完全に済んでいるのか?」
「サワラジリに基本ルールがちゃんと伝わっているかを確認しましょう」
大佐にそう答えたメカジキ少尉はエリカの座る椅子のほうに向き直り指示を出す。
「サワラジリ、さっき私が伝えた6つの命令を復唱してみろ」
(私が復唱してもあんたには聞こえないでしょうが)
エリカはそう思ったが、術者の命令は絶対だ。 麻痺薬のせいで不自由な口を懸命に動かして、エリカは6つの命令を復唱し始める。
「し、しとつ... か、かってに...」
そこでシバー少尉がメカジキ少尉にアドバイスをする。
「ファントムさんに復唱させても私たちには聞こえないわ。 紙に書かせればどうかしら?」
その間にもエリカは復唱を続ける。 復唱を中止せよという指示が出ていないからだ。
「がいちゅちゅつしては...な」
メカジキ少尉はシバー少尉の提案を受け入れる。
「では、サワラジリさっきの6つの命令を紙に書け」
◇
シバー少尉がテーブルの上にエリカのノートとペンを置き、エリカのためにノートを開いた。
ノートにはエリカがこれまでに筆談で書いた文章が残っている。 最近はベルでコミュニケーションが間に合うことが増えたから、あまりノートを使わない。 最新の書き込みは今日の午後にシバー少尉に向けて書いたメッセージで、次のようなものだった:
『なにが意地悪なの?』
『さっきトンカツ屋で二人前食べたから。 ゴハンもドンブリに3杯も食べちゃった』
そのメッセージを見た瞬間、エリカの両目に涙が溢れ出た。 何時間か前に自分が書いたメッセージに心の深い部分を揺さぶられ、何が悲しいのかも分からないまま涙がポロポロとこぼれ始める。
(今日の午後の私は呑気で良かったな。 今日の午後と今とですごく変わっちゃった。 まさか自分が《支配》されるなんて。 こんな... こんなことされるなんて...)
溢れた涙はポタポタとノートに落ちてページを濡らす。 けれど命令は可能な限り速やかに実行しなくてはならない。 エリカは涙が落ち続けるページに6つの命令を書き始めた。 乱雑な字である。 もともと字が下手なエリカが痺れて思うように動かない手で書くものだから、いま彼女が書く字は誰にも読解できない代物だった。
エリカは時間をかけて6つの命令を書き込み、手の甲でノートをガブリュー大佐のほうに押しやった。
「お、ようやく書き終えたか。 なんだこれは、ひどい字だな。 それに、なんだ? ノートが濡れてるじゃないか」
メカジキ少尉もノートを見てコメントする。
「こうも汚らしい字では内容を読み取れませんが、6行あるので6つの命令は伝わっているようですね」
シバー少尉だけはノートを濡らすのがエリカの涙であることに気づき、エリカが泣いたことに少なからずショックを受けた。
(エリカさんが泣くなんて!)
「...ヒロサセ少尉のことはとりあえず置いておこう。 メカジキ少尉、サワラジリの《支配》は完全に済んでいるのか?」
「サワラジリに基本ルールがちゃんと伝わっているかを確認しましょう」
大佐にそう答えたメカジキ少尉はエリカの座る椅子のほうに向き直り指示を出す。
「サワラジリ、さっき私が伝えた6つの命令を復唱してみろ」
(私が復唱してもあんたには聞こえないでしょうが)
エリカはそう思ったが、術者の命令は絶対だ。 麻痺薬のせいで不自由な口を懸命に動かして、エリカは6つの命令を復唱し始める。
「し、しとつ... か、かってに...」
そこでシバー少尉がメカジキ少尉にアドバイスをする。
「ファントムさんに復唱させても私たちには聞こえないわ。 紙に書かせればどうかしら?」
その間にもエリカは復唱を続ける。 復唱を中止せよという指示が出ていないからだ。
「がいちゅちゅつしては...な」
メカジキ少尉はシバー少尉の提案を受け入れる。
「では、サワラジリさっきの6つの命令を紙に書け」
◇
シバー少尉がテーブルの上にエリカのノートとペンを置き、エリカのためにノートを開いた。
ノートにはエリカがこれまでに筆談で書いた文章が残っている。 最近はベルでコミュニケーションが間に合うことが増えたから、あまりノートを使わない。 最新の書き込みは今日の午後にシバー少尉に向けて書いたメッセージで、次のようなものだった:
『なにが意地悪なの?』
『さっきトンカツ屋で二人前食べたから。 ゴハンもドンブリに3杯も食べちゃった』
そのメッセージを見た瞬間、エリカの両目に涙が溢れ出た。 何時間か前に自分が書いたメッセージに心の深い部分を揺さぶられ、何が悲しいのかも分からないまま涙がポロポロとこぼれ始める。
(今日の午後の私は呑気で良かったな。 今日の午後と今とですごく変わっちゃった。 まさか自分が《支配》されるなんて。 こんな... こんなことされるなんて...)
溢れた涙はポタポタとノートに落ちてページを濡らす。 けれど命令は可能な限り速やかに実行しなくてはならない。 エリカは涙が落ち続けるページに6つの命令を書き始めた。 乱雑な字である。 もともと字が下手なエリカが痺れて思うように動かない手で書くものだから、いま彼女が書く字は誰にも読解できない代物だった。
エリカは時間をかけて6つの命令を書き込み、手の甲でノートをガブリュー大佐のほうに押しやった。
「お、ようやく書き終えたか。 なんだこれは、ひどい字だな。 それに、なんだ? ノートが濡れてるじゃないか」
メカジキ少尉もノートを見てコメントする。
「こうも汚らしい字では内容を読み取れませんが、6行あるので6つの命令は伝わっているようですね」
シバー少尉だけはノートを濡らすのがエリカの涙であることに気づき、エリカが泣いたことに少なからずショックを受けた。
(エリカさんが泣くなんて!)
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