82 / 144
やだ、恥ずかしい
「エリカさん、昼食の後はマナ維持のためのモンスター退治をする予定となっています」
シバー少尉にそう言われてエリカはモンスター退治に出かけ、オーク6匹を倒して町へ戻ってきた。
(モンスター退治もずいぶん久しぶりだったわね)
モンスターを倒すと、その死体からマナ輸送体が放出されてハンターの体内に取り込まれるが、取り込まれたマナ輸送体は時間経過により徐々にハンターの体内から失われる。
したがって、長期間にわたりモンスター退治から遠ざかっていると、ベテラン・ハンターであっても常人と変わらぬ身体能力に戻り、魔法も使えなくなってしまう。 実戦に携わる軍人もそれは同じなので、モンスター退治は軍の訓練メニューの一部となっている。
(オーク一匹で、いくらだっけ? 2万ゴールド? なら12万ゴールドね)
軍人となった今も、モンスター退治で稼いだ金額はエリカの収入となる。 軍の給料と併せれば、エリカは立派な高額所得者だ。
モンスター退治から戻ったエリカは、南門から真っ直ぐに北上してハンター協会を目指す。 寄り道はシバー少尉に禁止されているが、何を寄り道とみなすかはエリカの判断に任されており、換金のためハンター協会に行くのは寄り道ではないとエリカは判断している。
エリカから少し離れて2人の軍人が続く。 護衛というか監視役である。 彼らがエリカの後を付いて来れるのは、エリカが指輪(発信器)を持たされているからだ。 以前エリカは指輪の携帯を拒んだが、《支配》される今では拒めるはずもなかった。
◇
協会ビルに入ったエリカは、窓口の向こうにマロン君の頭髪のブロンド色を認めて、近づきながらベルを鳴らした。
チーン。
座って書類仕事をしていたマロン君は、エリカのベルの音を聞いて顔を上げる。
「やあ、エリカさん」
いつも微笑みを絶やさないマロン君だが、いま彼の表情は堅かった。 その表情でエリカは、自分が《支配》されたことをマロン君が知っているのだと悟った。
(やだ、恥ずかしい...)
エリカは居たたまれなくなり、俯いて自分の足元を眺める。 自分が他人に支配される奴隷のような身に落ちたことをマロン君に知られて恥ずかしかったのだ。
早いところ換金を済ませて、この場を去ろう。 エリカはマロン君に換金を頼もうとベルを鳴らす。
チン。
その音を聞いたマロン君は驚いたように目を見開いた。
「エリカさん、自分を恥じちゃいけない。 恥じるべきはエリカさんを《支配》した軍のやつらです!」
彼はベルの音にほとんど表れてもいないエリカの羞恥を読み取ったのである。
マロン君の言葉にエリカの心は支えられた。
(...そう言われればそんな気がしてきた!)
エリカの瞳が力強さを取り戻す。
(マロン君、ありがとう)
マロン君の言葉は一階フロアに居合わせた他の職員やハンターたちにも聞こえていた。 マロン君の言葉の意味を理解した人々はしばし静まり返り、やがてざわめき始める。
「軍がエリカさんを《支配》だって?」「ファントムさんを?」「犯罪者扱いしてしまうとは」「なんてことを」「あたしにとばっちりが来たらどうすんのよ」「くそっ、オレも狙ってたのに」「軍やばいんじゃねーの?」「ミザル市がやばいよ」「軍を辞めたほうがいいかな」
エリカに向かって声を掛けて来る者もいる。
「私は悪くないので勘弁してください」「オレも無実です!」「わたしも悪くないですー」「鎮まりたまえー」「オレの靴を舐めてみろ」「軍が勝手にしでかしたことなんで」「ザルス共和国を代表して謝ります。 ごめんなさい」
エリカの監視役2人は協会ビルの入口近くにて、ケータイで誰かとお話し中だ。 上司にこの騒ぎを報告しているのだろう。
通話を終えた2人はツカツカとエリカのほうへやって来た。 マロン君やハンターたちが彼らに向ける視線は厳しい。
監視役は緊張した面持ちで言う。
「サワラジリ中尉、要件が済んだなら速やかに帰宅を」
チン(分かってるわよ)
マロン君から報酬を受け取ったエリカは建物の出口へと向かい、その後に監視役2人が続く。 フロアにいる人たちは、まだエリカに訴え続けている。
「くれぐれも祟らないでくださいね」「お願い、堪忍してッ」「我々人類はファントムさんの友人です。 一部の愚か者だけが...」
人々の訴えを背に受ながら、エリカは協会ビルを後にした。
シバー少尉にそう言われてエリカはモンスター退治に出かけ、オーク6匹を倒して町へ戻ってきた。
(モンスター退治もずいぶん久しぶりだったわね)
モンスターを倒すと、その死体からマナ輸送体が放出されてハンターの体内に取り込まれるが、取り込まれたマナ輸送体は時間経過により徐々にハンターの体内から失われる。
したがって、長期間にわたりモンスター退治から遠ざかっていると、ベテラン・ハンターであっても常人と変わらぬ身体能力に戻り、魔法も使えなくなってしまう。 実戦に携わる軍人もそれは同じなので、モンスター退治は軍の訓練メニューの一部となっている。
(オーク一匹で、いくらだっけ? 2万ゴールド? なら12万ゴールドね)
軍人となった今も、モンスター退治で稼いだ金額はエリカの収入となる。 軍の給料と併せれば、エリカは立派な高額所得者だ。
モンスター退治から戻ったエリカは、南門から真っ直ぐに北上してハンター協会を目指す。 寄り道はシバー少尉に禁止されているが、何を寄り道とみなすかはエリカの判断に任されており、換金のためハンター協会に行くのは寄り道ではないとエリカは判断している。
エリカから少し離れて2人の軍人が続く。 護衛というか監視役である。 彼らがエリカの後を付いて来れるのは、エリカが指輪(発信器)を持たされているからだ。 以前エリカは指輪の携帯を拒んだが、《支配》される今では拒めるはずもなかった。
◇
協会ビルに入ったエリカは、窓口の向こうにマロン君の頭髪のブロンド色を認めて、近づきながらベルを鳴らした。
チーン。
座って書類仕事をしていたマロン君は、エリカのベルの音を聞いて顔を上げる。
「やあ、エリカさん」
いつも微笑みを絶やさないマロン君だが、いま彼の表情は堅かった。 その表情でエリカは、自分が《支配》されたことをマロン君が知っているのだと悟った。
(やだ、恥ずかしい...)
エリカは居たたまれなくなり、俯いて自分の足元を眺める。 自分が他人に支配される奴隷のような身に落ちたことをマロン君に知られて恥ずかしかったのだ。
早いところ換金を済ませて、この場を去ろう。 エリカはマロン君に換金を頼もうとベルを鳴らす。
チン。
その音を聞いたマロン君は驚いたように目を見開いた。
「エリカさん、自分を恥じちゃいけない。 恥じるべきはエリカさんを《支配》した軍のやつらです!」
彼はベルの音にほとんど表れてもいないエリカの羞恥を読み取ったのである。
マロン君の言葉にエリカの心は支えられた。
(...そう言われればそんな気がしてきた!)
エリカの瞳が力強さを取り戻す。
(マロン君、ありがとう)
マロン君の言葉は一階フロアに居合わせた他の職員やハンターたちにも聞こえていた。 マロン君の言葉の意味を理解した人々はしばし静まり返り、やがてざわめき始める。
「軍がエリカさんを《支配》だって?」「ファントムさんを?」「犯罪者扱いしてしまうとは」「なんてことを」「あたしにとばっちりが来たらどうすんのよ」「くそっ、オレも狙ってたのに」「軍やばいんじゃねーの?」「ミザル市がやばいよ」「軍を辞めたほうがいいかな」
エリカに向かって声を掛けて来る者もいる。
「私は悪くないので勘弁してください」「オレも無実です!」「わたしも悪くないですー」「鎮まりたまえー」「オレの靴を舐めてみろ」「軍が勝手にしでかしたことなんで」「ザルス共和国を代表して謝ります。 ごめんなさい」
エリカの監視役2人は協会ビルの入口近くにて、ケータイで誰かとお話し中だ。 上司にこの騒ぎを報告しているのだろう。
通話を終えた2人はツカツカとエリカのほうへやって来た。 マロン君やハンターたちが彼らに向ける視線は厳しい。
監視役は緊張した面持ちで言う。
「サワラジリ中尉、要件が済んだなら速やかに帰宅を」
チン(分かってるわよ)
マロン君から報酬を受け取ったエリカは建物の出口へと向かい、その後に監視役2人が続く。 フロアにいる人たちは、まだエリカに訴え続けている。
「くれぐれも祟らないでくださいね」「お願い、堪忍してッ」「我々人類はファントムさんの友人です。 一部の愚か者だけが...」
人々の訴えを背に受ながら、エリカは協会ビルを後にした。
あなたにおすすめの小説
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~
さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。
キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。
弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。
偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。
二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。
現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。
はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
転生社畜、転生先でも社畜ジョブ「書記」でブラック労働し、20年。前人未到のジョブレベルカンストからの大覚醒成り上がり!
nineyu
ファンタジー
男は絶望していた。
使い潰され、いびられ、社畜生活に疲れ、気がつけば死に場所を求めて樹海を歩いていた。
しかし、樹海の先は異世界で、転生の影響か体も若返っていた!
リスタートと思い、自由に暮らしたいと思うも、手に入れていたスキルは前世の影響らしく、気がつけば変わらない社畜生活に、、
そんな不幸な男の転機はそこから20年。
累計四十年の社畜ジョブが、遂に覚醒する!!