コミュ障、異世界転生で存在消失す ～透明人間はスローなライフも思いのままでした～

もうアカンのちゃうんかな？

夕闇が迫り暗くなりゆくセーフハウスでただ１人、アリスは物思いにふけっていた。 当初は大量殺人のショックで呆然ぼうぜんとしていたが、目の前の死体がかたずけられてからはショックも薄らいで、自分と廃屋との縁の深さについて考えていた。 なんとなれば、この元セーフハウスも今や廃屋であるからだ。

アリスはこれまでの経緯を思い返す。

頼りにしていたエリカを軍に《支配》され、寝場所がなくて困っていたアリスを助けてくれたマロン君はハンター協会をクビになり、チョコレート・ケーキの甘い罠に引っかかって《支配》されそうになったところをクーララ王国の人たちに助けられたと思ったら、今度はその人たちが殺された。

まるで自分が周囲の人を巻き込んで破滅に向かい突き進んでいるようだ。

（もう... アカンのちゃうんかな？）

アリスはこの世界を見捨てた。

前世で自殺したときと同じである。

ただし、今回見捨てたのは半分だけ。

（そろそろ軍に殴り込みに行かな... アカンのちゃうんかな）

アリスは誰にも知覚されないファントムさんだし、ミスリル製の長剣だって持っている。 前世と違って戦える武器がある。 アリスは半分だけ自暴自棄になって凶暴性を剥き出しにすることにしたのだ。

アリスは眦まなじりを決すると、元セーフハウスの玄関の鍵を開けて外に出た。 そして立入禁止のロープの下をくぐって街路に出ると、誰にともなく宣言する。

「目指すは軍庁舎や！」