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トノサマ・ラットリング
翌日、エリカは再びジケルド大佐に軍司令部に呼び出された。 今日エリカは1人で来ている。 シバー少尉は家に置いてきた。
「連日お呼びだてして済みませんね、サワラジリ大佐。 さきほど立て続けに報告が2つ入りましてな。 これは是非ともサワラジリ大佐に相談せんといかんと思ったしだいです」
エリカは体調不良で心が暗いので言葉少なに尋ねる。
チン?(報告とは?)
「クーララ王国から援軍の要請がありました。 ザンス帝国がクーララに向けて、いよいよ進軍を開始したのです。 帝国軍の数は6万。 クーララ王国は砦を破棄させられているので、帝国軍は一切の抵抗にあわずクーララ領内を通過し4日後にクーララの首都に達する見込みです」
チン?(2つ目の報告は?)
「トノサマ・ラットリングが我がザルス共和国に発生していることが発覚しました」
チン...?(トノサマ...?)
「100年に1度生まれると言われるラットリングの変異種です。 トノサマは人よりも高い知能を持ち、各地のラットリングを呼び集めてラットリングの国を造ります」
チン?(ラットリングの国って?)
「当初は住居も塀も粗末な木製です。 しかし、何年も放置していると石造りの外壁を備える立派な町に発展します。 トノサマが治める国は文明が急速に進歩しますからな」
ジケルド大佐は説明を続ける。
「トノサマに率いられると普通のラットリングがラットリング・チーフ並の強さになります。 文明の進展にともない栄養状態が改善して体が大きく逞しくなるわけです。 歴史を紐解(ひもと)けば、ラットリングの国が人の町を滅ぼした記録も残っとります」
◇
ジケルド大佐の説明が一通り済単語んだようなので、エリカはジケルド大佐の「相談」の内容をマトメてみた。
チン(つまり、私にトノサマを倒して欲しいのね)
ところが返ってきたのは予想と異なる返事。
「いえ、サワラジリ大佐にはクーララ王国の援軍をお願いします」
エリカにはジケルド大佐の意図が分からなかった。 エリカにトノサマ退治を要請しないなら、どうして長々とトノサマの説明をしたのか?
チン?(じゃあ相談というのは?)
「実はですな、クーララ王国への援軍をサワラジリ大佐お1人にお任せしたいんです」
突拍子もないことを言われて、エリカは驚いた。
チン!?(わたし1人!? ソロで援軍ってこと?)
援軍が1人きりだなんて聞いたこともない。 呂布だって前田慶次だって宮本武蔵だって1人だけで援軍に出かけたことはない。 そのはずである。
「さようです。 ビッキー将軍も了承しています」
チン?(ビッキー将軍はなんと?)
「『サワラジリ大佐なら安心だ。ファントムさんの実力を内外に示すには、むしろ、そのほうが良かろう』とおっしゃっとりました」
チン?(わたし1人で、どうやって援軍するのかしら?)
いかにもナイーブな質問だが、エリカが軍事の素人であることを既に見抜いていたジケルド大佐は辛抱強く説明する。
「敵の指揮官を暗殺したり、敵の糧食に放火したりといったところです。 将と兵糧を失った敵軍は必ずや、戦意と統率を失い潰走します」
チン?(でも、当初は私が1万の兵を率いる予定だったんでしょ? それが私だけになっちゃって、本当に6万もの帝国軍を追い返せるのかしら?)
「あなたは自分の能力を過小評価しておられますな。 もっと自信を持って良いと思います。 ファントムさんは数万、いや数十万の兵力に匹敵するのですから」
◇
エリカは自分にソロで援軍をこなす能力があるのは納得したものの、自分1人で援軍に行かされることはイマイチ納得できていなかった。
(いいように軍に利用されてる気がして仕方がないけれど... これは疑心暗鬼なのかしら? 私ったら疑心暗鬼に陥りやすいから)
疑心暗鬼を解消するには、勇気を出して確認するのが一番である。 エリカは何気なさを装ってジケルド大佐に尋ねてみた。
チン?(それにしてもトノサマってそんなに手強いの? クーララに援軍を出す余裕がないほどに?)
「トノサマの国の鼠口は、現時点で500万匹と推定されとります。 これを殲滅するには5万の兵が欲しいところですが、ザルスの総兵数は4万なのです」
チン(足りてないじゃない)
「そうなんです」
チン?(どうするの?)
「頑張ります」
チン?(頑張るだけでOKなのかしら?)
「むろん冗談ですよ、はは。 いえ、もちろん頑張るのは本当ですが」
ジケルド中佐は真面目な表情になって言葉を続ける。
「ハンターに手伝ってもらうので、ご心配なく。 大勢のハンターが喜んで参加するでしょう。 ラットリングが姿を見せず収入が減っていたし、トノサマの出現に伴いラットリング退治の報奨金が上がりますからな」
チン?(報奨金が上がるの? いくら?)
「並ラットリングが3千ゴールドから5千ゴールドに増えると聞いとります。 チーフは... いくらだったかな」
(並ラットリング4匹でオーク1匹ぶんかー)
そこでふとエリカは疑問に思い、ジケルド大佐に尋ねてみた。
チン?(報奨金を値上げして大丈夫なの?そもそも誰が報奨金を出してるの?)
「おや、サワラジリ大佐はご存じなかったですか? 報奨金を出してるのは魔道具を製造しているメーカー各社と国です」
チン?(どうして魔道具メーカーが?)
「モンスターがマナ濃度低下の原因になるからですよ」
ジケルド大佐の話を聞くうちに、エリカは最近の体の重さの原因に気付いた。
(マナ輸送体が減ったせいだ!)
馬車の旅を続けている間、エリカは1匹もモンスターを退治してなかった。 それが原因で、体内のマナ輸送体が減っているに違いない。 体が重いのは身体能力が落ちていたからだったのだ。
「連日お呼びだてして済みませんね、サワラジリ大佐。 さきほど立て続けに報告が2つ入りましてな。 これは是非ともサワラジリ大佐に相談せんといかんと思ったしだいです」
エリカは体調不良で心が暗いので言葉少なに尋ねる。
チン?(報告とは?)
「クーララ王国から援軍の要請がありました。 ザンス帝国がクーララに向けて、いよいよ進軍を開始したのです。 帝国軍の数は6万。 クーララ王国は砦を破棄させられているので、帝国軍は一切の抵抗にあわずクーララ領内を通過し4日後にクーララの首都に達する見込みです」
チン?(2つ目の報告は?)
「トノサマ・ラットリングが我がザルス共和国に発生していることが発覚しました」
チン...?(トノサマ...?)
「100年に1度生まれると言われるラットリングの変異種です。 トノサマは人よりも高い知能を持ち、各地のラットリングを呼び集めてラットリングの国を造ります」
チン?(ラットリングの国って?)
「当初は住居も塀も粗末な木製です。 しかし、何年も放置していると石造りの外壁を備える立派な町に発展します。 トノサマが治める国は文明が急速に進歩しますからな」
ジケルド大佐は説明を続ける。
「トノサマに率いられると普通のラットリングがラットリング・チーフ並の強さになります。 文明の進展にともない栄養状態が改善して体が大きく逞しくなるわけです。 歴史を紐解(ひもと)けば、ラットリングの国が人の町を滅ぼした記録も残っとります」
◇
ジケルド大佐の説明が一通り済単語んだようなので、エリカはジケルド大佐の「相談」の内容をマトメてみた。
チン(つまり、私にトノサマを倒して欲しいのね)
ところが返ってきたのは予想と異なる返事。
「いえ、サワラジリ大佐にはクーララ王国の援軍をお願いします」
エリカにはジケルド大佐の意図が分からなかった。 エリカにトノサマ退治を要請しないなら、どうして長々とトノサマの説明をしたのか?
チン?(じゃあ相談というのは?)
「実はですな、クーララ王国への援軍をサワラジリ大佐お1人にお任せしたいんです」
突拍子もないことを言われて、エリカは驚いた。
チン!?(わたし1人!? ソロで援軍ってこと?)
援軍が1人きりだなんて聞いたこともない。 呂布だって前田慶次だって宮本武蔵だって1人だけで援軍に出かけたことはない。 そのはずである。
「さようです。 ビッキー将軍も了承しています」
チン?(ビッキー将軍はなんと?)
「『サワラジリ大佐なら安心だ。ファントムさんの実力を内外に示すには、むしろ、そのほうが良かろう』とおっしゃっとりました」
チン?(わたし1人で、どうやって援軍するのかしら?)
いかにもナイーブな質問だが、エリカが軍事の素人であることを既に見抜いていたジケルド大佐は辛抱強く説明する。
「敵の指揮官を暗殺したり、敵の糧食に放火したりといったところです。 将と兵糧を失った敵軍は必ずや、戦意と統率を失い潰走します」
チン?(でも、当初は私が1万の兵を率いる予定だったんでしょ? それが私だけになっちゃって、本当に6万もの帝国軍を追い返せるのかしら?)
「あなたは自分の能力を過小評価しておられますな。 もっと自信を持って良いと思います。 ファントムさんは数万、いや数十万の兵力に匹敵するのですから」
◇
エリカは自分にソロで援軍をこなす能力があるのは納得したものの、自分1人で援軍に行かされることはイマイチ納得できていなかった。
(いいように軍に利用されてる気がして仕方がないけれど... これは疑心暗鬼なのかしら? 私ったら疑心暗鬼に陥りやすいから)
疑心暗鬼を解消するには、勇気を出して確認するのが一番である。 エリカは何気なさを装ってジケルド大佐に尋ねてみた。
チン?(それにしてもトノサマってそんなに手強いの? クーララに援軍を出す余裕がないほどに?)
「トノサマの国の鼠口は、現時点で500万匹と推定されとります。 これを殲滅するには5万の兵が欲しいところですが、ザルスの総兵数は4万なのです」
チン(足りてないじゃない)
「そうなんです」
チン?(どうするの?)
「頑張ります」
チン?(頑張るだけでOKなのかしら?)
「むろん冗談ですよ、はは。 いえ、もちろん頑張るのは本当ですが」
ジケルド中佐は真面目な表情になって言葉を続ける。
「ハンターに手伝ってもらうので、ご心配なく。 大勢のハンターが喜んで参加するでしょう。 ラットリングが姿を見せず収入が減っていたし、トノサマの出現に伴いラットリング退治の報奨金が上がりますからな」
チン?(報奨金が上がるの? いくら?)
「並ラットリングが3千ゴールドから5千ゴールドに増えると聞いとります。 チーフは... いくらだったかな」
(並ラットリング4匹でオーク1匹ぶんかー)
そこでふとエリカは疑問に思い、ジケルド大佐に尋ねてみた。
チン?(報奨金を値上げして大丈夫なの?そもそも誰が報奨金を出してるの?)
「おや、サワラジリ大佐はご存じなかったですか? 報奨金を出してるのは魔道具を製造しているメーカー各社と国です」
チン?(どうして魔道具メーカーが?)
「モンスターがマナ濃度低下の原因になるからですよ」
ジケルド大佐の話を聞くうちに、エリカは最近の体の重さの原因に気付いた。
(マナ輸送体が減ったせいだ!)
馬車の旅を続けている間、エリカは1匹もモンスターを退治してなかった。 それが原因で、体内のマナ輸送体が減っているに違いない。 体が重いのは身体能力が落ちていたからだったのだ。
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