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第1部
第19話 「飲み込んじゃった」
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「人の形をしたのを食べるのはちょっとな...」
マリカにとっては好都合なことに、男たちはクイックリングの肉を食べることに積極的ではないようだった。 素早くなることの意味を理解していないのか、クイックリングの肉の効果を信じていないのか。
(誰もいらないなら私が食べても文句は出ないはずだけど...)
しかし、お嬢さま育ちのマリカが人肉を食べると言い出すのはいかにも不自然だ。 気が触れたと思われるか、何かを企んでいると勘ぐられるのは避けられない。
行動に迷うマリカの傍らから不意に顔役が歩み出た。 見れば、彼は片手に抜き身のナイフを握っている。 顔役の不穏な動きにマリカの心臓が不安を奏でる。
(まさかクイックリングの肉を!?)
顔役が稲妻のごとき素早さを身に付ければ鬼に金棒。 誰にも手出しできない絶対的な専制君主として流刑地に君臨するだろう。
(やめて、お肉を食べないで...)
マリカの願いも空しく、顔役はクイックリングの服の袖をずり上げると無造作にナイフで上腕の肉を切り取った。 クイックリングの肉を食べるつもりなのだ。
クイックリングはウリタケの毒で全身が麻痺しているため、肉を切り取られても呻き声一つ上げない。 ただ、黄金色の激しい光は顔役が肉を切り取るときには何故か止んでいた。
まばゆい光が収まった今、クイックリングである少年の容姿がはっきりと分かる。 汗ばんだ額に貼り付く亜麻色の頭髪。 整った目鼻立ちに、引き締まった精悍な顎、白い肌にバラ色の頬。 いわゆる美少年だ。 面食いのマリカが目の色を変えるレベルの美形である。
だが、現在のマリカの注意はクイックリングの容姿よりも肉に集中している。 顔役が切り取ったクイックリングの肉片を口に運ぶのを見て気が気ではない。
(あのお肉を横取りする? この距離なら奪えるかも。 でも顔役さんは機敏だし、奪うのに失敗したら...)
顔役はマリカの行為を裏切りとみなし、現在は最高潮にあるマリカへの評価を著しく下げるだろう。 高評価の反動でマリカを憎み始めるかもしれない。
色々と考えたせいでマリカの緊張はいっそう高まってしまった。 握りしめた両手の平は汗で湿り、両足は針金が入っているかのように固く緊張している。
(ダメ、こんなことじゃ俊敏に動けない)
マリカが緊張を解こうと自分の心と闘ううちに、顔役は血のしたたる肉片を口に放り込み咀嚼を始めてしまった。 くちゃくちゃ、もぐもぐ。 顔役は感想を述べもせず、無言で咀嚼を続ける。 やがて顔役の喉がごくりと動き、肉片を嚥下した。
(ああ、飲み込んじゃった... もう私は顔役さんの女になるしかないのね。 醜怪な大男に夜な夜な組み敷かれ、男の機嫌を損ねないようビクビクしながら過ごす毎日。 そんな生活に私は耐えられるのかしら)
マリカにとっては好都合なことに、男たちはクイックリングの肉を食べることに積極的ではないようだった。 素早くなることの意味を理解していないのか、クイックリングの肉の効果を信じていないのか。
(誰もいらないなら私が食べても文句は出ないはずだけど...)
しかし、お嬢さま育ちのマリカが人肉を食べると言い出すのはいかにも不自然だ。 気が触れたと思われるか、何かを企んでいると勘ぐられるのは避けられない。
行動に迷うマリカの傍らから不意に顔役が歩み出た。 見れば、彼は片手に抜き身のナイフを握っている。 顔役の不穏な動きにマリカの心臓が不安を奏でる。
(まさかクイックリングの肉を!?)
顔役が稲妻のごとき素早さを身に付ければ鬼に金棒。 誰にも手出しできない絶対的な専制君主として流刑地に君臨するだろう。
(やめて、お肉を食べないで...)
マリカの願いも空しく、顔役はクイックリングの服の袖をずり上げると無造作にナイフで上腕の肉を切り取った。 クイックリングの肉を食べるつもりなのだ。
クイックリングはウリタケの毒で全身が麻痺しているため、肉を切り取られても呻き声一つ上げない。 ただ、黄金色の激しい光は顔役が肉を切り取るときには何故か止んでいた。
まばゆい光が収まった今、クイックリングである少年の容姿がはっきりと分かる。 汗ばんだ額に貼り付く亜麻色の頭髪。 整った目鼻立ちに、引き締まった精悍な顎、白い肌にバラ色の頬。 いわゆる美少年だ。 面食いのマリカが目の色を変えるレベルの美形である。
だが、現在のマリカの注意はクイックリングの容姿よりも肉に集中している。 顔役が切り取ったクイックリングの肉片を口に運ぶのを見て気が気ではない。
(あのお肉を横取りする? この距離なら奪えるかも。 でも顔役さんは機敏だし、奪うのに失敗したら...)
顔役はマリカの行為を裏切りとみなし、現在は最高潮にあるマリカへの評価を著しく下げるだろう。 高評価の反動でマリカを憎み始めるかもしれない。
色々と考えたせいでマリカの緊張はいっそう高まってしまった。 握りしめた両手の平は汗で湿り、両足は針金が入っているかのように固く緊張している。
(ダメ、こんなことじゃ俊敏に動けない)
マリカが緊張を解こうと自分の心と闘ううちに、顔役は血のしたたる肉片を口に放り込み咀嚼を始めてしまった。 くちゃくちゃ、もぐもぐ。 顔役は感想を述べもせず、無言で咀嚼を続ける。 やがて顔役の喉がごくりと動き、肉片を嚥下した。
(ああ、飲み込んじゃった... もう私は顔役さんの女になるしかないのね。 醜怪な大男に夜な夜な組み敷かれ、男の機嫌を損ねないようビクビクしながら過ごす毎日。 そんな生活に私は耐えられるのかしら)
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