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第1部
第32話 「多少の罪悪感は我慢しなくちゃ」
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マリカはミツキを連れて自宅へ戻って来た。 自宅と言うと語弊がある。 猶予期間の3日間を過ごすために与えられた家だし顔役が代替わりしてもいるから、この家をマリカのものと呼べるかどうか疑わしい。 それでもマリカは流刑地で夜露をしのげる場所をここしか知らなかった。
「ねえマリカ、いつまで俺の手を握ってるの?」
ミツキの疑問はもっともだ。 家の中に入っても、マリカはまだミツキの手をぎゅっと握りしめている。
「あなたが私との約束を果たすまでよ?」
「約束?」
「わかってるでしょ?」
そう言ってマリカはミツキを引き寄せ、背後から抱きしめる。 鼻腔をくすぐるスモモの香りに、マリカは思わずミツキの頭に鼻をうずめる。
「フルーティーな良い香り」
「マリカもいい匂いだよ」
ミツキにはマリカの放つ女の子の匂いが、とても香しく感じられる。
「そう? 早速だけど、あなたのお肉を齧らせてもらっていいかしら?」
マリカはミツキの手を握っていないほうの手をミツキの胸に回し、ミツキの体をがっちりホールド。
「ダメに決まってる!」
ミツキは悲鳴を上げてマリカの抱擁から逃れようとするが逃れられない。 ミツキはマリカよりも非力だった。
腕の中でもがくミツキの耳元でマリカは囁くように言う。
「約束したじゃない。 私があなたを解放したから、次はあなたが私にお肉をくれる番。 クイックリングの素早さがあんなにスゴイとは思わなかった」
「約束してない!」
たしかに約束には至らなかったかもしれない。 でも、クイちゃんを解放してしまった以上、ここで齧っておかないと逃げられてしまう。 クイちゃんに取引を押し付ける形になったのは気が咎めるけれど、スピード・プリンセスになるためですもの。 多少の罪悪感は我慢しなくちゃ。
「そうだったかしらっ!」
雄々しく叫びながら、マリカはミツキの服の袖をまくることに成功した。 力ずくで我意を押し通すのは、これまで襲われるばかりだったマリカにとって新鮮な体験であった。
「大人しくなさい! 食べたらすぐに治してあげるから」
クイちゃんはフルーティーな香りがするし、肌もぷりぷりで美味しそう。 これなら私にも無理なく食べられる。 クイちゃんの肌をプツリと噛み切れば程良い酸味と爽やかな甘みの果汁が溢れ出てきそうにさえ思える。
「イヤだ!」
「お願い。 ちょっとだけ我慢して頂戴!」
そう言うなり、マリカはミツキの腕にかぶりついた。
「痛いっ! マジで痛いから!」
マリカの犬歯がミツキの肌をプツリと噛み破ると、マリカの口中に血の味が広がる。 マリカは顔役のナイフに肉を切り取られたミツキの傷口を思い出した。 どれだけ美味しそうに思えても、ミツキの肉は人の肉と同じなのだ。
しかし、血の味ぐらいでへこたれてはいられない。 マリカはここを先途と一生懸命に肉を噛み切ろうとする。 しかし、お肉は思っていた以上に柔軟性に富んでいて一向に噛み切れない。 その間もミツキの悲鳴は激しくなるばかり。 痛い痛いとミツキがわめき続けるのに耐え切れず、とうとうマリカは噛むのを止めてしまった。
ミツキの腕から口を離し、今しがたまで噛んでいた部分を見ると、そこにはマリカの歯型が深く刻み込まれ血が流れ出している。
(私はスピード・プリンセスになれないの...)
呆然と落ち込むマリカの腕の中からミツキが逃げ出し、マリカをなじる。
「すごく痛かったぞ!」
「...ごめんなさい」
「無理やり俺を食べようとするなんて見損なったよ! マリカはそういうことをしない人間だと思ってた!」
「...」
マリカは返事をする気力もなく床に座り込んだ。 マリカは己の弱さゆえに、この流刑地で男に蹂躙される人生を歩むのだ。 マリカにもっと胆力があればミツキの肉を噛みちぎれていた。 自分を貶めミツキの気持ちを無視してまで我意を押し通したのに、その我意を貫徹できなかった。
うつむくマリカの顔から一滴のしずくが膝の上に落ちる。 自己憐憫の涙である。 絶望的な状況にある私。 無力な私。 情けない私。 私はなんて哀れなの。
「ねえマリカ、いつまで俺の手を握ってるの?」
ミツキの疑問はもっともだ。 家の中に入っても、マリカはまだミツキの手をぎゅっと握りしめている。
「あなたが私との約束を果たすまでよ?」
「約束?」
「わかってるでしょ?」
そう言ってマリカはミツキを引き寄せ、背後から抱きしめる。 鼻腔をくすぐるスモモの香りに、マリカは思わずミツキの頭に鼻をうずめる。
「フルーティーな良い香り」
「マリカもいい匂いだよ」
ミツキにはマリカの放つ女の子の匂いが、とても香しく感じられる。
「そう? 早速だけど、あなたのお肉を齧らせてもらっていいかしら?」
マリカはミツキの手を握っていないほうの手をミツキの胸に回し、ミツキの体をがっちりホールド。
「ダメに決まってる!」
ミツキは悲鳴を上げてマリカの抱擁から逃れようとするが逃れられない。 ミツキはマリカよりも非力だった。
腕の中でもがくミツキの耳元でマリカは囁くように言う。
「約束したじゃない。 私があなたを解放したから、次はあなたが私にお肉をくれる番。 クイックリングの素早さがあんなにスゴイとは思わなかった」
「約束してない!」
たしかに約束には至らなかったかもしれない。 でも、クイちゃんを解放してしまった以上、ここで齧っておかないと逃げられてしまう。 クイちゃんに取引を押し付ける形になったのは気が咎めるけれど、スピード・プリンセスになるためですもの。 多少の罪悪感は我慢しなくちゃ。
「そうだったかしらっ!」
雄々しく叫びながら、マリカはミツキの服の袖をまくることに成功した。 力ずくで我意を押し通すのは、これまで襲われるばかりだったマリカにとって新鮮な体験であった。
「大人しくなさい! 食べたらすぐに治してあげるから」
クイちゃんはフルーティーな香りがするし、肌もぷりぷりで美味しそう。 これなら私にも無理なく食べられる。 クイちゃんの肌をプツリと噛み切れば程良い酸味と爽やかな甘みの果汁が溢れ出てきそうにさえ思える。
「イヤだ!」
「お願い。 ちょっとだけ我慢して頂戴!」
そう言うなり、マリカはミツキの腕にかぶりついた。
「痛いっ! マジで痛いから!」
マリカの犬歯がミツキの肌をプツリと噛み破ると、マリカの口中に血の味が広がる。 マリカは顔役のナイフに肉を切り取られたミツキの傷口を思い出した。 どれだけ美味しそうに思えても、ミツキの肉は人の肉と同じなのだ。
しかし、血の味ぐらいでへこたれてはいられない。 マリカはここを先途と一生懸命に肉を噛み切ろうとする。 しかし、お肉は思っていた以上に柔軟性に富んでいて一向に噛み切れない。 その間もミツキの悲鳴は激しくなるばかり。 痛い痛いとミツキがわめき続けるのに耐え切れず、とうとうマリカは噛むのを止めてしまった。
ミツキの腕から口を離し、今しがたまで噛んでいた部分を見ると、そこにはマリカの歯型が深く刻み込まれ血が流れ出している。
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「すごく痛かったぞ!」
「...ごめんなさい」
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