お嬢様、流刑地に送られ婚約も破棄。でも最強になったら、ザマぁとかどうでも良くなってた

好きな言葉はタナボタ

文字の大きさ
33 / 123
第1部

第32話 「多少の罪悪感は我慢しなくちゃ」

しおりを挟む
マリカはミツキを連れて自宅へ戻って来た。 自宅と言うと語弊ごへいがある。 猶予期間の3日間を過ごすために与えられた家だし顔役が代替わりしてもいるから、この家をマリカのものと呼べるかどうか疑わしい。 それでもマリカは流刑地で夜露よつゆをしのげる場所をここしか知らなかった。

「ねえマリカ、いつまで俺の手を握ってるの?」

ミツキの疑問はもっともだ。 家の中に入っても、マリカはまだミツキの手をぎゅっと握りしめている。

「あなたが私との約束を果たすまでよ?」

「約束?」

「わかってるでしょ?」

そう言ってマリカはミツキを引き寄せ、背後から抱きしめる。 鼻腔びくうをくすぐるスモモの香りに、マリカは思わずミツキの頭に鼻をうずめる。

「フルーティーな良い香り」

「マリカもいい匂いだよ」

ミツキにはマリカの放つ女の子の匂いが、とてもかぐわしく感じられる。

「そう? 早速だけど、あなたのお肉をかじらせてもらっていいかしら?」

マリカはミツキの手を握っていないほうの手をミツキの胸に回し、ミツキの体をがっちりホールド。

「ダメに決まってる!」

ミツキは悲鳴を上げてマリカの抱擁から逃れようとするが逃れられない。 ミツキはマリカよりも非力だった。

腕の中でもがくミツキの耳元でマリカはささやくように言う。

「約束したじゃない。 私があなたを解放したから、次はあなたが私にお肉をくれる番。 クイックリングの素早さがあんなにスゴイとは思わなかった」

「約束してない!」

たしかに約束には至らなかったかもしれない。 でも、クイちゃんを解放してしまった以上、ここで齧っておかないと逃げられてしまう。 クイちゃんに取引を押し付ける形になったのは気がとがめるけれど、スピード・プリンセスになるためですもの。 多少の罪悪感は我慢しなくちゃ。

「そうだったかしらっ!」

雄々おおしく叫びながら、マリカはミツキの服の袖をまくることに成功した。 力ずくで我意がいを押し通すのは、これまで襲われるばかりだったマリカにとって新鮮な体験であった。

「大人しくなさい! 食べたらすぐに治してあげるから」

クイちゃんはフルーティーな香りがするし、肌もぷりぷりで美味しそう。 これなら私にも無理なく食べられる。 クイちゃんの肌をプツリと噛み切ればほど良い酸味と爽やかな甘みの果汁が溢れ出てきそうにさえ思える。

「イヤだ!」

「お願い。 ちょっとだけ我慢して頂戴!」

そう言うなり、マリカはミツキの腕にかぶりついた。

「痛いっ! マジで痛いから!」

マリカの犬歯がミツキの肌をプツリと噛み破ると、マリカの口中に血の味が広がる。 マリカは顔役のナイフに肉を切り取られたミツキの傷口を思い出した。 どれだけ美味しそうに思えても、ミツキの肉は人の肉と同じなのだ。

しかし、血の味ぐらいでへこたれてはいられない。 マリカはここを先途せんどと一生懸命に肉を噛み切ろうとする。 しかし、お肉は思っていた以上に柔軟性に富んでいて一向に噛み切れない。 その間もミツキの悲鳴は激しくなるばかり。 痛い痛いとミツキがわめき続けるのに耐え切れず、とうとうマリカは噛むのを止めてしまった。

ミツキの腕から口を離し、今しがたまで噛んでいた部分を見ると、そこにはマリカの歯型が深く刻み込まれ血が流れ出している。

(私はスピード・プリンセスになれないの...)

呆然ぼうぜんと落ち込むマリカの腕の中からミツキが逃げ出し、マリカをなじる。

「すごく痛かったぞ!」

「...ごめんなさい」

「無理やり俺を食べようとするなんて見損なったよ! マリカはそういうことをしない人間だと思ってた!」

「...」

マリカは返事をする気力もなく床に座り込んだ。 マリカは己の弱さゆえに、この流刑地で男に蹂躙じゅうりんされる人生を歩むのだ。 マリカにもっと胆力があればミツキの肉を噛みちぎれていた。 自分をおとしめミツキの気持ちを無視してまで我意を押し通したのに、その我意を貫徹かんてつできなかった。

うつむくマリカの顔から一滴のしずくが膝の上に落ちる。 自己憐憫れんびんの涙である。 絶望的な状況にある私。 無力な私。 情けない私。 私はなんて哀れなの。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する 

namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。  転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。  しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。  凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。  詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。  それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。  「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」  前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。  痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。  そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。 これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。

処理中です...