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第1部
第44話 「名案」
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籠を背負うのを中止して耳を澄ませていると、三叉路の道の1つから人がやって来る物音が聞こえてきた。
「本当ね。 人が来たみたい」
ミツキを落ち着かせようと、マリカは殊更にのんびりした口調でそう言った。
「4人だよ。 全員男だ」
マリカは振り向いて、自分の背後に潜むミツキに言う。
「もしものときは頼むわね?」
「ああ、任せとけ」
ミツキの居場所とは対照的に返事は頼もしい。
物音は近づき続け、やがて4人の男が山道から姿を現した。 4人とも背中に籠を背負い、弓を手にしている。
マリカとエライナを見た男たちが驚く。
「うお、女だ」
「なんていい女だ!」
「女だけか?」
マリカが予想していた通りの反応である。 マリカの傍らにはエライナもいるが、彼らの関心はマリカに集中している。 男たちはマリカの背後に隠れるミツキに気づかないようだった。
マリカは普通に挨拶をしてみた。
「ご機嫌よう。 あなたたちも食べ物を採りにいらしたの?」
男たちはマリカたちに近づきながら挨拶を返してきた。
「おう、ご機嫌よう」
「あんたら二人だけかい?」
「男はいねえのか?」
「なんならオレたちが」
すぐに襲い掛かって来る様子ではないが、マリカに異性としての興味を持っているのは明らか。 マリカが男連れでないと確認できれば襲い掛かって来るだろう。 そうなればマリカの背後から飛び出したミツキが男たちに襲い掛かり、殺すか気絶させるかするに違いない。 いまミツキは短刀を腰に帯びているから死人が出るのは確実だ。
彼らの生命を救うためマリカは告げる。
「男ならいるわよ。 とびきり危険なのが」
「どこにいるってんだ?」
それまで男たちはヨダレを垂らしそうなダラしない顔をしていたが、「危険」と聞いてヨダレを少しひっこめた。
「私の背後よ。 さあミツキ、出ていらっしゃい!」
ところがミツキは出てこなかった。 微発光した状態でマリカの背中にしがみついている。 ミツキの基準ではまだ、「もしものとき」ではなかった。
「出てこねえじゃねえか」
男たちは背伸びをするようにしてマリカの背中の後ろを覗き込んだ。
「お、たしかに誰かいるぜ。 まだガキだな?」
「なんだコイツ、光ってやがる」
微発光するミツキを見て、男たちの1人が顔色を変える。
「気を付けろ! こいつ、クイックリングだ!」
「クイックリング?」
「知らねえのか? 何日か前に流刑地に出没し始めたって話だ。 きのう何人もクイックリングにやられてんだぞ。 死人も出たって話だ」
そこでミツキがマリカの背中の後ろから顔を出した。
「そのクイックリングとは俺のことだな。 マリカを襲うつもりなら、お前らも同じ目に遭うぞ」
ミツキの微発光は収まっている。 ミツキは男たちが自分を恐れていると知って安心したのだ。
姿を現したミツキを見て、男たちは少し後ずさった。
「襲うつもりなんて端っからなかったさ。 なあ?」
「ああ。 別嬪さんがこんな森の中でどうしたんだろって思っただけだ」
「そうそう。 もう夕暮れが近いし、女の子だけだと危ないから町まで送って行ってあげようかと...」
男たちの弁解を聞くうちに、マリカの頭の中で1つの名案が浮かび始めた。
(町まで送ってくれる...? それには荷物を持つのも含まれるのよね?)
マリカは「町まで送って行く」と言ってくれた男を見据えて言う。
「私たちを町まで送ってくれるって本当かしら?」
男は慌てて答える。
「もちろんだよ。 なあ?」
「ああ。 女を守るのは男の務めだ」
さっきの弁解が嘘ではないことを示すため、男たちはマリカの要求に応えるしかなかった。
「本当ね。 人が来たみたい」
ミツキを落ち着かせようと、マリカは殊更にのんびりした口調でそう言った。
「4人だよ。 全員男だ」
マリカは振り向いて、自分の背後に潜むミツキに言う。
「もしものときは頼むわね?」
「ああ、任せとけ」
ミツキの居場所とは対照的に返事は頼もしい。
物音は近づき続け、やがて4人の男が山道から姿を現した。 4人とも背中に籠を背負い、弓を手にしている。
マリカとエライナを見た男たちが驚く。
「うお、女だ」
「なんていい女だ!」
「女だけか?」
マリカが予想していた通りの反応である。 マリカの傍らにはエライナもいるが、彼らの関心はマリカに集中している。 男たちはマリカの背後に隠れるミツキに気づかないようだった。
マリカは普通に挨拶をしてみた。
「ご機嫌よう。 あなたたちも食べ物を採りにいらしたの?」
男たちはマリカたちに近づきながら挨拶を返してきた。
「おう、ご機嫌よう」
「あんたら二人だけかい?」
「男はいねえのか?」
「なんならオレたちが」
すぐに襲い掛かって来る様子ではないが、マリカに異性としての興味を持っているのは明らか。 マリカが男連れでないと確認できれば襲い掛かって来るだろう。 そうなればマリカの背後から飛び出したミツキが男たちに襲い掛かり、殺すか気絶させるかするに違いない。 いまミツキは短刀を腰に帯びているから死人が出るのは確実だ。
彼らの生命を救うためマリカは告げる。
「男ならいるわよ。 とびきり危険なのが」
「どこにいるってんだ?」
それまで男たちはヨダレを垂らしそうなダラしない顔をしていたが、「危険」と聞いてヨダレを少しひっこめた。
「私の背後よ。 さあミツキ、出ていらっしゃい!」
ところがミツキは出てこなかった。 微発光した状態でマリカの背中にしがみついている。 ミツキの基準ではまだ、「もしものとき」ではなかった。
「出てこねえじゃねえか」
男たちは背伸びをするようにしてマリカの背中の後ろを覗き込んだ。
「お、たしかに誰かいるぜ。 まだガキだな?」
「なんだコイツ、光ってやがる」
微発光するミツキを見て、男たちの1人が顔色を変える。
「気を付けろ! こいつ、クイックリングだ!」
「クイックリング?」
「知らねえのか? 何日か前に流刑地に出没し始めたって話だ。 きのう何人もクイックリングにやられてんだぞ。 死人も出たって話だ」
そこでミツキがマリカの背中の後ろから顔を出した。
「そのクイックリングとは俺のことだな。 マリカを襲うつもりなら、お前らも同じ目に遭うぞ」
ミツキの微発光は収まっている。 ミツキは男たちが自分を恐れていると知って安心したのだ。
姿を現したミツキを見て、男たちは少し後ずさった。
「襲うつもりなんて端っからなかったさ。 なあ?」
「ああ。 別嬪さんがこんな森の中でどうしたんだろって思っただけだ」
「そうそう。 もう夕暮れが近いし、女の子だけだと危ないから町まで送って行ってあげようかと...」
男たちの弁解を聞くうちに、マリカの頭の中で1つの名案が浮かび始めた。
(町まで送ってくれる...? それには荷物を持つのも含まれるのよね?)
マリカは「町まで送って行く」と言ってくれた男を見据えて言う。
「私たちを町まで送ってくれるって本当かしら?」
男は慌てて答える。
「もちろんだよ。 なあ?」
「ああ。 女を守るのは男の務めだ」
さっきの弁解が嘘ではないことを示すため、男たちはマリカの要求に応えるしかなかった。
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