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第1部
第77話 「ハエの速度」
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周囲を見回すマリカ。 世界がほとんど静止しているが、マリカは今さら驚かない。 高速モードを既に何度も体験しているから。 それよりもミツキの右肩が恐ろしいことになっている。 大量の出血で衣服が真っ赤にズブ濡れだ。
「大変!」 すぐに手当てしないと。
しかしゲレニカは、ゆっくりとではあるがマリカたちに拳銃を向けつつある。 これでは《治癒》の最中に撃たれてしまう。
マリカは激痛に耐えるミツキを抱えるようにして、ゲレニカが銃口を向けつつあるのと逆の方向へ数メートル歩いた。 ゲレニカの目には、マリカとミツキが視界から消え失せたように見えたことだろう。 これで《治癒》を使うのに十分な時間を稼げたはずだ。
マリカは深呼吸して《治癒》の呪文に精神を集中する。 そして詠唱。
「ワーラワン・レストース・メリトース・ダビノス!」
血に赤く染まるミツキの右肩が淡く白い光に包まれ、ミツキが恍惚の表情を浮かべる。 《治癒》に癒される感覚が心地よいだけでなく、彼は今マリカの愛を堪能しているのだ。
◇❖◇
呪文の放出が盛りを過ぎたとき、マリカはゲレニカのほうに目を向けてギョッとした。
(もうこっちに銃口が向いてる!)
ゲレニカは彼の視界の隅に瞬時に移動したマリカとミツキに驚異的な速度で反応し、銃口を向け直していた。 まだ弾丸が発射されないのは、ゲレニカが今度はしっかりと照準を合わせているからに他ならない。
(いけない、撃たれちゃう)
もういつ弾丸が発射されてもおかしくない。 だが、ミツキを癒す白色光はまだ収まっていない。
(仕方ないわね。 ちょっと乱暴だけど!)
マリカは《治癒》に陶酔するミツキを抱き寄せて地面に押し倒した。
それから間を置かずして、ゲレニカの銃から大きな音が聞こえ始める。 それは100倍に間延びした発砲音。 ゲレニカが拳銃を発射したのだ。
しかし、こうして地面に伏せていれば銃弾が当たることはない。 そのはずである。 安全を確信するマリカは興味津々でゲレニカの拳銃の銃口を注視する。
(ミツキの高速モードが100倍速だとすれば、銃弾の速度は1/100に遅くなるのよね? それってどんな速度なのかしら?)
マリカが見守っていると、銃口から小さな物体が出てきた。 弾丸である。 弾丸はハエが飛ぶような速度で、マリカたちのいる方向へ近づいて来る。 意外に遅いスピードだ。 はたき落とせそうにも思う。
(でも、触ると危ないんでしょうね。 あれに人を殺すだけの威力があるんだから)
周囲のすべてがほとんど止まって見える世界で尚ハエの速度なのだから、銃弾が秘めるエネルギーの量たるや恐るべきものである。
銃弾はマリカとミツキが立っていた場所を突っ切って、ハエの速度で遠くに飛んで行った。
「大変!」 すぐに手当てしないと。
しかしゲレニカは、ゆっくりとではあるがマリカたちに拳銃を向けつつある。 これでは《治癒》の最中に撃たれてしまう。
マリカは激痛に耐えるミツキを抱えるようにして、ゲレニカが銃口を向けつつあるのと逆の方向へ数メートル歩いた。 ゲレニカの目には、マリカとミツキが視界から消え失せたように見えたことだろう。 これで《治癒》を使うのに十分な時間を稼げたはずだ。
マリカは深呼吸して《治癒》の呪文に精神を集中する。 そして詠唱。
「ワーラワン・レストース・メリトース・ダビノス!」
血に赤く染まるミツキの右肩が淡く白い光に包まれ、ミツキが恍惚の表情を浮かべる。 《治癒》に癒される感覚が心地よいだけでなく、彼は今マリカの愛を堪能しているのだ。
◇❖◇
呪文の放出が盛りを過ぎたとき、マリカはゲレニカのほうに目を向けてギョッとした。
(もうこっちに銃口が向いてる!)
ゲレニカは彼の視界の隅に瞬時に移動したマリカとミツキに驚異的な速度で反応し、銃口を向け直していた。 まだ弾丸が発射されないのは、ゲレニカが今度はしっかりと照準を合わせているからに他ならない。
(いけない、撃たれちゃう)
もういつ弾丸が発射されてもおかしくない。 だが、ミツキを癒す白色光はまだ収まっていない。
(仕方ないわね。 ちょっと乱暴だけど!)
マリカは《治癒》に陶酔するミツキを抱き寄せて地面に押し倒した。
それから間を置かずして、ゲレニカの銃から大きな音が聞こえ始める。 それは100倍に間延びした発砲音。 ゲレニカが拳銃を発射したのだ。
しかし、こうして地面に伏せていれば銃弾が当たることはない。 そのはずである。 安全を確信するマリカは興味津々でゲレニカの拳銃の銃口を注視する。
(ミツキの高速モードが100倍速だとすれば、銃弾の速度は1/100に遅くなるのよね? それってどんな速度なのかしら?)
マリカが見守っていると、銃口から小さな物体が出てきた。 弾丸である。 弾丸はハエが飛ぶような速度で、マリカたちのいる方向へ近づいて来る。 意外に遅いスピードだ。 はたき落とせそうにも思う。
(でも、触ると危ないんでしょうね。 あれに人を殺すだけの威力があるんだから)
周囲のすべてがほとんど止まって見える世界で尚ハエの速度なのだから、銃弾が秘めるエネルギーの量たるや恐るべきものである。
銃弾はマリカとミツキが立っていた場所を突っ切って、ハエの速度で遠くに飛んで行った。
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