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一年:冬休み
第三十二話
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◇◇◇
「――……」
嫌な夢を見た。
あの日のこと、早く忘れたいのに。ときたまこうして夢に見る。
最近はあまり見なくなっていたんだけどなー……。絶対に卒アルのせいだ。
凪はまだ眠っていた。別々の布団で寝たはずなのに、なぜか俺にくっついている。いつの間に俺んとこに入ってきたんだ。
俺がぼんやり凪の寝顔を眺めていると、突然ドアが開いた。
「理玖~! 朝ごはんできたわよ~!」
「っ、勝手に部屋に入ってくんなあ!!」
咄嗟に凪を蹴り飛ばして、隣の布団に移動させたが……。母さんのあのニヤニヤ顔からして、同じ布団で寝ていたのがバレた気がする。クソォ……。
凪は寝起き早々「グハァ……ウアァ……」と痛みに苦しんでいた。どうやら俺の華麗な蹴りが見事みぞおちに入ったらしい。
母さんが部屋を出て行ったあと、凪に恨みがましい目で睨まれた。
「理玖ぅ……っ、何すんだよぉ……っ。うぐぁぅ……」
「ごめんって。でもお前が布団に潜り込んできたのが悪いからな」
「だって……エロいことできないんだから、せめてぴったりくっついて寝たいじゃん……」
気持ちは分かるが、困るもんは困る。
エロいことはできないものの、凪は俺の実家で過ごす時間を楽しんでいるようだった。こいつが実家に来てたった半日しか経っていないのに、すでに母さんや姉ちゃん、父さんにまで気に入られていた。なんじゃこの人たらし。
今日は大晦日だ。母さんと父さんはお餅作りに勤しんでいる。
キッチンで仲良く餅をこねこねしている両親に、凪が照れくさそうに声をかけた。
「あ、あの。俺も手伝いたいです」
凪の申し出に、母さんと父さんがキュンキュンしていた。
「えー!? 凪くん、おもち作り手伝ってくれるのぉ?」
「くぅ……! 理玖なんて一度も手伝ってくれたことないのに……!」
凪は頬を染め、こくこくと頷いた。
「んあーん! 凪くんほんと良い子だわぁーっ!」
母さんと父さんに挟まれて、凪が餅を丸めはじめた。流れで俺も餅を丸めるハメになった。
俺の両親と話しているときの凪は、同年代の子たちに一度も見せたことがない表情をしていた。
大人に褒められたくて頑張って、望んだとおりに褒められたときの、子供らしいあどけない笑顔。
俺と両親が会話しているところを見つめる、羨望の眼差し。
凪が本当に求めているのは、恋人でも友だちでもなくて、愛してくれる家族なのだと、そのときしみじみ実感した。
全てのもちを丸め終え、凪が次の手伝いを申し出た。しかし、両親はやんわりと断る。
「すっごくありがたいんだけど、そろそろ申し訳なくなってきちゃったわあ」
「理玖が『これ以上手伝いなんかしたくねえ』ってうんざりした顔をしているんだ。凪くん、理玖と遊んでやってくれないかな」
凪は少し残念そうな顔をしていた。まだ疑似親子ごっこを続けたいらしい。
俺も凪の気持ちを満たしてやりたいが……。父さんと母さんの気持ちを考えると、ちょっと難しい。そりゃ、これ以上お客さんに雑用させるのは気が引けるわな。
どうしたら凪を落ち込ませずに手伝いを諦めさせるかを考えて、ひとつの結論に辿りついた。
「凪。俺のわがままに付き合え」
「ん、なに?」
「新しい服買いたい。お前が選んで」
「えっ。俺が? いいの?」
「うん。俺、服分かんねえから」
凪は目をきらきらさせて俺にだきついた。おいやめろ!! 親の前だぞ!!
「あらまあ~」
ほら! 母さんがキュンキュンしてやがる!! 姉ちゃんがいなくてよかったな!? あいつがいたら鼻血出して倒れてたぞ!!
「俺が選んだ服着てくれんの!?」
「だからそう言ってんじゃん! 離れろ!!」
「うわー! 気合い入れて選ぶ!」
「高いのはやめてくれよ。そして離れろ今すぐに」
「任せろ!! 絶対に理玖に似合う服選ぶから!!」
それから俺たちはショッピングモールに行った。電車の中で調べまくっていた凪は、初見の場所のはずなのに真っすぐ目的地に向かった。
それから俺は着せ替え人形になった。試着した俺を見るたびに凪が感想を漏らす。
「うわー! すごい似合ってるよ理玖~!」
「やばっ。良すぎ。どうしよ。たまらん」
「はー……っ。なんでも着こなしちゃうの? 理玖はさぁ……」
「いい加減にして……。どれも似合ってたら選べないじゃん……」
と、試着するごとに凪が不機嫌になっていった。
「……で、俺はどれを買えばいいの……?」
そろそろ買う服を決めて欲しい。試着するの疲れた。
凪は俺をじっと見て、真顔で答える。
「全部って、無理?」
「ふざけてんのかお前。これ全部買ったら破産するわ」
「俺の小遣いからも出せば……」
「やめて!? 俺、お前に貢がれたくないんだが!?」
「はー……。どうしよ……。理玖はどれがいい?」
「えっ、結局俺が選ぶの……?」
と、最終的には俺が候補の中から一式を選んだ。
服を買い終え、帰ることにした。
ショッピングモールを出てすぐに、凪が立ち止まる。
「理玖……。ごめん、ちょっとここで待っててくれる?」
「え、どうした?」
「いや、あの……。理玖の家族に、なにか買いたくて」
「いいよそんなの。気ぃ遣うなよ」
「ううん。俺がプレゼントしたいんだ。ほんとに……感謝してて」
そんなに喜んでくれていたのか。泣きそうなくらい嬉しそうな顔しやがって。
「分かった。待ってる」
「うん。ありがと」
「高いのはやめろよ」
「はは。分かってるよ。ちょっとしたもの」
すぐ戻ってくると言って、凪は店内に戻っていった。
俺は外のベンチで待つことにした。
流れで凪を実家に連れてくることになったけど……一緒に帰省してよかった――
「え……」
――なんて考えていると、通行人が俺の前で立ち止まった。足元を見る限り男だ。怖かったので知らないふりをする。
「理玖……?」
名前を呼ばれた。俺を知っている人?
「お前、理玖だよな……?」
おそるおそる顔を上げ、俺は硬直した。
そいつは無遠慮に俺の前髪をかき上げ、目じりを下げる。
「やっぱり理玖だ」
「――……」
嫌な夢を見た。
あの日のこと、早く忘れたいのに。ときたまこうして夢に見る。
最近はあまり見なくなっていたんだけどなー……。絶対に卒アルのせいだ。
凪はまだ眠っていた。別々の布団で寝たはずなのに、なぜか俺にくっついている。いつの間に俺んとこに入ってきたんだ。
俺がぼんやり凪の寝顔を眺めていると、突然ドアが開いた。
「理玖~! 朝ごはんできたわよ~!」
「っ、勝手に部屋に入ってくんなあ!!」
咄嗟に凪を蹴り飛ばして、隣の布団に移動させたが……。母さんのあのニヤニヤ顔からして、同じ布団で寝ていたのがバレた気がする。クソォ……。
凪は寝起き早々「グハァ……ウアァ……」と痛みに苦しんでいた。どうやら俺の華麗な蹴りが見事みぞおちに入ったらしい。
母さんが部屋を出て行ったあと、凪に恨みがましい目で睨まれた。
「理玖ぅ……っ、何すんだよぉ……っ。うぐぁぅ……」
「ごめんって。でもお前が布団に潜り込んできたのが悪いからな」
「だって……エロいことできないんだから、せめてぴったりくっついて寝たいじゃん……」
気持ちは分かるが、困るもんは困る。
エロいことはできないものの、凪は俺の実家で過ごす時間を楽しんでいるようだった。こいつが実家に来てたった半日しか経っていないのに、すでに母さんや姉ちゃん、父さんにまで気に入られていた。なんじゃこの人たらし。
今日は大晦日だ。母さんと父さんはお餅作りに勤しんでいる。
キッチンで仲良く餅をこねこねしている両親に、凪が照れくさそうに声をかけた。
「あ、あの。俺も手伝いたいです」
凪の申し出に、母さんと父さんがキュンキュンしていた。
「えー!? 凪くん、おもち作り手伝ってくれるのぉ?」
「くぅ……! 理玖なんて一度も手伝ってくれたことないのに……!」
凪は頬を染め、こくこくと頷いた。
「んあーん! 凪くんほんと良い子だわぁーっ!」
母さんと父さんに挟まれて、凪が餅を丸めはじめた。流れで俺も餅を丸めるハメになった。
俺の両親と話しているときの凪は、同年代の子たちに一度も見せたことがない表情をしていた。
大人に褒められたくて頑張って、望んだとおりに褒められたときの、子供らしいあどけない笑顔。
俺と両親が会話しているところを見つめる、羨望の眼差し。
凪が本当に求めているのは、恋人でも友だちでもなくて、愛してくれる家族なのだと、そのときしみじみ実感した。
全てのもちを丸め終え、凪が次の手伝いを申し出た。しかし、両親はやんわりと断る。
「すっごくありがたいんだけど、そろそろ申し訳なくなってきちゃったわあ」
「理玖が『これ以上手伝いなんかしたくねえ』ってうんざりした顔をしているんだ。凪くん、理玖と遊んでやってくれないかな」
凪は少し残念そうな顔をしていた。まだ疑似親子ごっこを続けたいらしい。
俺も凪の気持ちを満たしてやりたいが……。父さんと母さんの気持ちを考えると、ちょっと難しい。そりゃ、これ以上お客さんに雑用させるのは気が引けるわな。
どうしたら凪を落ち込ませずに手伝いを諦めさせるかを考えて、ひとつの結論に辿りついた。
「凪。俺のわがままに付き合え」
「ん、なに?」
「新しい服買いたい。お前が選んで」
「えっ。俺が? いいの?」
「うん。俺、服分かんねえから」
凪は目をきらきらさせて俺にだきついた。おいやめろ!! 親の前だぞ!!
「あらまあ~」
ほら! 母さんがキュンキュンしてやがる!! 姉ちゃんがいなくてよかったな!? あいつがいたら鼻血出して倒れてたぞ!!
「俺が選んだ服着てくれんの!?」
「だからそう言ってんじゃん! 離れろ!!」
「うわー! 気合い入れて選ぶ!」
「高いのはやめてくれよ。そして離れろ今すぐに」
「任せろ!! 絶対に理玖に似合う服選ぶから!!」
それから俺たちはショッピングモールに行った。電車の中で調べまくっていた凪は、初見の場所のはずなのに真っすぐ目的地に向かった。
それから俺は着せ替え人形になった。試着した俺を見るたびに凪が感想を漏らす。
「うわー! すごい似合ってるよ理玖~!」
「やばっ。良すぎ。どうしよ。たまらん」
「はー……っ。なんでも着こなしちゃうの? 理玖はさぁ……」
「いい加減にして……。どれも似合ってたら選べないじゃん……」
と、試着するごとに凪が不機嫌になっていった。
「……で、俺はどれを買えばいいの……?」
そろそろ買う服を決めて欲しい。試着するの疲れた。
凪は俺をじっと見て、真顔で答える。
「全部って、無理?」
「ふざけてんのかお前。これ全部買ったら破産するわ」
「俺の小遣いからも出せば……」
「やめて!? 俺、お前に貢がれたくないんだが!?」
「はー……。どうしよ……。理玖はどれがいい?」
「えっ、結局俺が選ぶの……?」
と、最終的には俺が候補の中から一式を選んだ。
服を買い終え、帰ることにした。
ショッピングモールを出てすぐに、凪が立ち止まる。
「理玖……。ごめん、ちょっとここで待っててくれる?」
「え、どうした?」
「いや、あの……。理玖の家族に、なにか買いたくて」
「いいよそんなの。気ぃ遣うなよ」
「ううん。俺がプレゼントしたいんだ。ほんとに……感謝してて」
そんなに喜んでくれていたのか。泣きそうなくらい嬉しそうな顔しやがって。
「分かった。待ってる」
「うん。ありがと」
「高いのはやめろよ」
「はは。分かってるよ。ちょっとしたもの」
すぐ戻ってくると言って、凪は店内に戻っていった。
俺は外のベンチで待つことにした。
流れで凪を実家に連れてくることになったけど……一緒に帰省してよかった――
「え……」
――なんて考えていると、通行人が俺の前で立ち止まった。足元を見る限り男だ。怖かったので知らないふりをする。
「理玖……?」
名前を呼ばれた。俺を知っている人?
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おそるおそる顔を上げ、俺は硬直した。
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「やっぱり理玖だ」
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