【完結】【BL】気付いてないのは篠原だけだよ。【オメガバース】

ちゃっぷす

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第一章

第二十三話

 次の日の昼休み。
 鴨橋と食堂に向かっているときだった。

「……ん?」
「どした? 急に立ち止まって」

 かすかにだが、ナオの匂いがする。
 おかしいな。今日は休みのはずなんだけど。
 ……気になる。

「悪い、鴨橋。先行っててー」
「おー」

 匂いを辿っていくと、匂いがだんだんはっきりしてきた。
 確信した。ナオ、学校に来ているんだ。

(にしてもこの匂い……全然アレ治まってねえんじゃねえの……!?)

 こんなオメガフェロモンだだ漏れで学校に来たら、猿アルファに何されてもおかしくねえぞ、おい……!

「この上か……」

 屋上へ続く階段からむわむわと匂ってくる。

(頭クラクラしてきた……)

 しっかりしろ、俺。理性は絶対に捨てんなよ? ここでやらかしたら全てが終わる。

 俺は足音を忍ばせ、ゆっくりと階段を上がった。
 姿を見る前に、ナオの声が聞こえてきた。

「……だって、会いたかったんだもん……」
「だからって、こんな状態で来たらダメでしょ……」

 息が止まった。
 ナオと真人の声だ、これ。
 しかも内容が……

「っ……」

 階段の踊り場の隅に、ナオはいた。
 ……真人と抱き合っている。
 真人の背中に埋もれて、ナオの姿はほとんど見えない。見えるのは、真人の背中に回している腕だけだ。

 呆然と立ち尽くしていると、真人が振り返った。
 真人は驚いた様子もなく、「ごめん」と軽く手振りをする。

「篠原。あっち行ってて。君なら分かるでしょ、直の状態」
「……」

 分かっている。俺はあっちに行ったほうがいい。絶対に、そうするべきだ。
 なのに――

 いやだ。苦しい。こんなのいやだ。

 そんな気持ちで頭がいっぱいで、ナオのことを考える余裕が、俺にはなかった。

 会いたかったのか? 真人に会いたくて、そんな状態で学校に来たのか?
 俺には聞かせないような、ダダッ子みたいな甘えた声を出して。
 自分から腕を回して、離れたくないってしがみついて……

 どうしてその相手が、真人なんだ?

「……俺じゃダメ?」

 そんなダセェ言葉が口から突いて出た。

 その瞬間、ナオが苦しそうにうめき声をあげた。

「お、おい、大丈夫か……!? ……あ、俺がいるせいか……。……悪い。もう、戻るから……」

 踵を返したとき、ナオに呼び止められた。

「待って……!」

 だが、すぐに真人に止められる。

「ダメだって、直……。あとで俺からちゃんと説明しとくから。今の状態はほんとにまずい」
「で、でも……っ」
「アルファは力が強いんだ……。何かあったら、俺でもたぶん止められないし」

 別になんにもしねえよ……と、言い切れないのが悔しいところだ。

 俺はそのまま食堂に行き、鴨橋とメシを食った。

「大丈夫か? なんか顔死んでるけど」
「別に……」

 話す気にもなれねえことがあったもんでな。


 ◇◇◇

 放課後、靴箱のところで真人に待ち伏せされていた。
 素通りしようとしたが、真人に肩を掴まれる。

「ちょっと待って」
「……悪い。今、あんたと話す気にならない」
「三分だけ付き合って」
「……」

 無理。
 俺は真人の手を振り払い、歩き出した。

 真人が俺のうしろをついてくる。しかも、勝手に話しはじめた。

「あのあと、早退したから」
「……」
「たぶん明日も休むと思う。アレ、ぶり返したみたいだ」
「……」

 無視を決め込んでいると、うしろで真人が吐息混じりの笑みを漏らした。

「直は、俺のことを恋愛対象とは見てないよ」
「……じゃあ、お前は?」
「……」

 次は、小さすぎて聞こえないレベルの、力のない乾いた笑い声を出す。

「そんなの、もうとっくに通り越してるよ」
「……?」
「俺と直はそういうんじゃないよ。兄弟みたいなもん」

 今、真人はどんな顔をしているんだろう。
 気になって、俺は振り返った。

 真人はいつも通りの表情だった。だが、ちょっとだけ寂しそうだった。

「……世話、焼きすぎたかな」

 なんて、ほんのり後悔の滲む声で言っていた。

 何も言えずにいると、真人が俺の背中を叩いた。

「最近の直は、俺の前でずっと篠原の話をしてるよ」
「……」
「今日、直が会いたかったのも、お前だし」
「……」
「お前、直が俺に会いたがってると思った? ばーか。俺と直は家が隣なんだよ。学校行かなくても、すぐ会える」
「……あんたさ、そんなこと言ってて辛くないの?」

 真人はかたまり、俺をベシベシ叩いていた手を力なく下ろす。

「辛くない。むしろ、嬉しいよ」
「は? なんで?」
「直が、やっと――」

 そう言いかけて、真人は口をつぐんだ。

「……いや、言わない。いつか教えてやる」
「なんだよ、それ」
「あと、勘違いするなよ。俺はもう、直のことをそういう目で見てないから」

 〝もう〟ねえ……

「ちなみに俺、彼女いるし」
「は!? いるのかよ!!」
「いるよ、普通に」
「それを早く言えよ!!」
「じゃ、そろそろ彼女と会う時間だから。じゃあな」

 そう言って、真人は来た道を戻っていった。
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