64 / 69
番外編-3 発情期
5
「そろそろ着く」って連絡が来たのに、なかなか駿が来ない。
事故に遭っていないといいけど、と思いつつ、何気なくベランダに出た。
「あ……」
マンションの下に駿がいた。
この前殴っていた電柱の前を行ったり来たりしている。電柱の前で立ち止まったかと思えば、また電柱に抱きついていた。でも、今回は頭突きはせず、ただ俯いた頭を電柱にくっつけていた。
こんな声が聞こえてきそう。
大丈夫、俺なら大丈夫だ、って。
……発情期オメガに会うのがよっぽど怖いんだ。
悪いことをしちゃったな。無理をさせてしまった。
「やっぱり来なくていいよ」ってチャットに打ち込んでいるときに、駿が「うしっ」とガッツポーズをした。
そして、マンションの中に入っていった。
古賀 直: やっぱり来なくていいよ
篠原 駿: ここまで来て帰れって!? ひどい!!
篠原 駿: 今エレベーター乗ってる!
篠原 駿: もうすぐ着く!
「……怖いくせに」
インターフォンが鳴るまでも、時間がかかった。
僕はこっそり、インターフォンのカメラで玄関先の様子を見た。
駿が立っている。険しい顔で、何度も深呼吸をしている。
それから、震える指でインターフォンを押すところが見えた。
「……はい」
《お待たせー! 入れてー!》
いつも通りの笑顔と、明るい声。
さっきまであんなに思いつめた顔をしていたのに。すごいな。
ドアごしに、僕は尋ねた。
「ほんとに大丈夫? 無理してるでしょ?」
《なにがー? 早く入れてよ! 俺、不審者みたいじゃん!》
「……」
僕はちょっとだけ、玄関のドアを開けた。
その瞬間、駿がヒュッと息を呑んだのが聞こえた。
「……入れる?」
「お、おう! ……あのさ、玄関のドア、ちょっと開けといていい?」
「どうして?」
「……助けがすぐ来れるように」
また僕の心配か。
「……ごめん、ドアは閉めときたいかな……。声聞かれるのやだし……」
「でも……。お、俺、たぶんラットになると思う……」
「うん」
「そしたら俺、何するか分かんねえ……」
「僕、駿に何されても大丈夫だよ。く、首輪も、ちゃんとしてるし」
駿はちらっと僕の首に目をやって、すぐに顔を背けた。
「……ほんとにちゃんと、ピル飲んでくれてた?」
「飲んでた」
「……俺のこと、きらいになんない?」
「ならないよ。なるわけない」
こんなに怖がっているのに、僕のためにここまで来てくれた人を、どうやって嫌いになればいいの?
むしろ――
「発情期の僕を見ても……僕のこと、きらいにならない……?」
「なるわけないだろ」
「僕……駿のペットじゃないよね……?」
「は? あー……首輪か……。違うに決まってんだろ。ナオは俺の恋人。ペットじゃないし、それは番防止の道具。夜道歩くときに反射バンド付けんのと一緒」
「ぷっ……。反射バンドと同じポジションなんだ」
「そそ。……で、そろそろ入っていい? 不審者と間違われる……」
「あっ……、うん。……ドアは閉めるし、鍵も閉めるからね」
「……ナオがそれで良いなら……」
ドアを大きく開けた瞬間、駿のフェロモンが部屋の中に流れ込んできた。
「あ……あ、あ……っ」
足がガクガクと震え、下半身が激しく反応する。おしりから大量の愛液が零れたのを感じた。
僕は駿を見上げた。
駿の呼吸は浅く、瞳孔が開いている。正気を失う寸前なのは、見て分かった。
僕は駿を引き寄せ、部屋に入れた。そしてドアに鍵を閉める。
これから起こることは、誰にも見られたくなかった。
きっと僕たちは、これから人間を捨てる。
事故に遭っていないといいけど、と思いつつ、何気なくベランダに出た。
「あ……」
マンションの下に駿がいた。
この前殴っていた電柱の前を行ったり来たりしている。電柱の前で立ち止まったかと思えば、また電柱に抱きついていた。でも、今回は頭突きはせず、ただ俯いた頭を電柱にくっつけていた。
こんな声が聞こえてきそう。
大丈夫、俺なら大丈夫だ、って。
……発情期オメガに会うのがよっぽど怖いんだ。
悪いことをしちゃったな。無理をさせてしまった。
「やっぱり来なくていいよ」ってチャットに打ち込んでいるときに、駿が「うしっ」とガッツポーズをした。
そして、マンションの中に入っていった。
古賀 直: やっぱり来なくていいよ
篠原 駿: ここまで来て帰れって!? ひどい!!
篠原 駿: 今エレベーター乗ってる!
篠原 駿: もうすぐ着く!
「……怖いくせに」
インターフォンが鳴るまでも、時間がかかった。
僕はこっそり、インターフォンのカメラで玄関先の様子を見た。
駿が立っている。険しい顔で、何度も深呼吸をしている。
それから、震える指でインターフォンを押すところが見えた。
「……はい」
《お待たせー! 入れてー!》
いつも通りの笑顔と、明るい声。
さっきまであんなに思いつめた顔をしていたのに。すごいな。
ドアごしに、僕は尋ねた。
「ほんとに大丈夫? 無理してるでしょ?」
《なにがー? 早く入れてよ! 俺、不審者みたいじゃん!》
「……」
僕はちょっとだけ、玄関のドアを開けた。
その瞬間、駿がヒュッと息を呑んだのが聞こえた。
「……入れる?」
「お、おう! ……あのさ、玄関のドア、ちょっと開けといていい?」
「どうして?」
「……助けがすぐ来れるように」
また僕の心配か。
「……ごめん、ドアは閉めときたいかな……。声聞かれるのやだし……」
「でも……。お、俺、たぶんラットになると思う……」
「うん」
「そしたら俺、何するか分かんねえ……」
「僕、駿に何されても大丈夫だよ。く、首輪も、ちゃんとしてるし」
駿はちらっと僕の首に目をやって、すぐに顔を背けた。
「……ほんとにちゃんと、ピル飲んでくれてた?」
「飲んでた」
「……俺のこと、きらいになんない?」
「ならないよ。なるわけない」
こんなに怖がっているのに、僕のためにここまで来てくれた人を、どうやって嫌いになればいいの?
むしろ――
「発情期の僕を見ても……僕のこと、きらいにならない……?」
「なるわけないだろ」
「僕……駿のペットじゃないよね……?」
「は? あー……首輪か……。違うに決まってんだろ。ナオは俺の恋人。ペットじゃないし、それは番防止の道具。夜道歩くときに反射バンド付けんのと一緒」
「ぷっ……。反射バンドと同じポジションなんだ」
「そそ。……で、そろそろ入っていい? 不審者と間違われる……」
「あっ……、うん。……ドアは閉めるし、鍵も閉めるからね」
「……ナオがそれで良いなら……」
ドアを大きく開けた瞬間、駿のフェロモンが部屋の中に流れ込んできた。
「あ……あ、あ……っ」
足がガクガクと震え、下半身が激しく反応する。おしりから大量の愛液が零れたのを感じた。
僕は駿を見上げた。
駿の呼吸は浅く、瞳孔が開いている。正気を失う寸前なのは、見て分かった。
僕は駿を引き寄せ、部屋に入れた。そしてドアに鍵を閉める。
これから起こることは、誰にも見られたくなかった。
きっと僕たちは、これから人間を捨てる。
あなたにおすすめの小説
当たり前の幸せ
ヒイロ
BL
結婚4年目で別れを決意する。長い間愛があると思っていた結婚だったが嫌われてるとは気付かずいたから。すれ違いからのハッピーエンド。オメガバース。よくある話。
初投稿なので色々矛盾などご容赦を。
ゆっくり更新します。
すみません名前変えました。
あなたの番になれたなら
ノガケ雛
BL
皇太子──リオール・エイリーク・エーヴェルは生まれて間もなく第二の性がアルファだとわかり、次期国王として期待されていた。
王族の仕来りで十歳を迎えるその年から、半年に一度訓練と称してオメガが用意され、伽をする。
そしてその訓練で出会ったオメガのアスカに恋に落ちたリオールは、番になってくれと願い出るのだが──。
表紙は七節エカ様です。
【登場人物】
✤リオール・エイリーク・エーヴェル
14歳 α
エーヴェル国皇太子
✤アスカ
18歳 Ω
エーヴェル国の平民
【完結】完璧アルファの寮長が、僕に本気でパートナー申請なんてするわけない
中村梅雨(ナカムラツユ)
BL
海軍士官を目指す志高き若者たちが集う、王立海軍大学。エリートが集まり日々切磋琢磨するこの全寮制の学舎には、オメガ候補生のヒート管理のため“登録パートナー”による処理行為を認めるという、通称『登録済みパートナー制度』が存在した。
二年生になったばかりのオメガ候補生:リース・ハーストは、この大学の中で唯一誰ともパートナー契約を結ばなかったオメガとして孤独に過ごしてきた。しかしある日届いた申請書の相手は、完璧な上級生アルファ:アーサー・ケイン。絶対にパートナーなんて作るものかと思っていたのに、気付いたら承認してしまっていて……??制度と欲望に揺れる二人の距離は、じりじりと変わっていく──。
夢を追う若者たちが織り成す、青春ラブストーリー。
そうだ課長、俺と結婚してください
藤吉めぐみ
BL
運命の番を信じるアルファ×運命なんか信じないアルファスペックのオメガ
社内、社外問わずモテるアルファの匡史は、一見遊んでいるように見えるが、運命の番を信じ、その相手に自分を見つけて欲しいという理由から、目立つように心がけ、色々な出会いの場にも顔を出している。
そんな匡史の働く職場に課長として赴任してきた池上。彼もアルファで、匡史よりもスペックが高いとすぐに噂になり、自分の存在が霞むことに不安を覚える匡史。
気に入らないという理由で池上に近づくが、なぜか池上から香りを感じて惹かれてしまい――
運命の番を信じるアルファと運命なんか信じないアルファ嫌いのオメガのオフィスラブです。
Ωの庭園
にん
BL
森 悠人(もり ゆうと)二十三歳。
第二性は、Ω(オメガ)。
施設の前に捨てられ、
孤独と共に生きてきた青年。
十八歳から、
Ω専用の風俗で働くしか、
生きる道はなかった。
それでも悠人は、
心の中にひとつの場所を思い描いている。
誰にも傷つけられない、
静かな庭園を。
これは、
そんな青年の物語。
人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます
七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。
歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。
世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。
気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。
あまく、とろけて、開くオメガ
藍沢真啓/庚あき
BL
オメガの市居憂璃は同じオメガの実母に売られた。
北関東圏を支配するアルファの男、玉之浦椿に。
ガリガリに痩せた子は売れないと、男の眼で商品として価値があがるように教育される。
出会ってから三年。その流れゆく時間の中で、男の態度が商品と管理する関係とは違うと感じるようになる憂璃。
優しく、大切に扱ってくれるのは、自分が商品だから。
勘違いしてはいけないと律する憂璃の前に、自分を売った母が現れ──
はぴまり~薄幸オメガは溺愛アルファ~等のオメガバースシリーズと同じ世界線。
秘密のあるスパダリ若頭アルファ×不憫アルビノオメガの両片想いラブ。
僕は人畜無害の男爵子息なので、放っておいてもらっていいですか
カシナシ
BL
僕はロローツィア・マカロン。日本人である前世の記憶を持っているけれど、全然知らない世界に転生したみたい。だってこのピンク色の髪とか、小柄な体格で、オメガとかいう謎の性別……ということから、多分、主人公ではなさそうだ。
それでも愛する家族のため、『聖者』としてお仕事を、貴族として人脈作りを頑張るんだ。婚約者も仲の良い幼馴染で、……て、君、何してるの……?
女性向けHOTランキング最高位5位、いただきました。たくさんの閲覧、ありがとうございます。
※総愛され風味(攻めは一人)
※ざまぁ?はぬるめ(当社比)
※ぽわぽわ系受け
※番外編もあります
※オメガバースの設定をお借りしています