【完結】【R18BL】彼女いない歴=年齢の俺、オネエに恋を学ぶことになりました

ちゃっぷす

文字の大きさ
33 / 69
第四章

第三十一話 しおれた花の背中

しおりを挟む
 四限の授業が終わったあと、俺はヘアサロン〝Ciel〟に立ち寄った。
 店内に入ると、スタッフの一人が駆けつける。

「あれっ? 睦くん今日予約入ってたっけー?」
「あ、いえ。これ、差し入れに……」
「わ、ありがとう~! 伊吹呼ぼうか?」
「だ、大丈夫ですか……? 忙しくは……?」
「カラー中だけど、ちょっとくらいだったら大丈夫だよー!」

 卑怯だと自分でも思う。伊吹さんに選択の余地をほとんど与えなかったんだから。
 でも……そうでもしないと会ってくれないだろうから。

 しばらくして、伊吹さんが足音も立てずにやってきた。
 いつもなら、俺が来たって知ったら嬉しそうにバタバタ走ってくるのにな。

「むっちゃん……」
「……こんにちは」
「……」

 伊吹さんの顔が見れない。
 俺は俯いたまま、コンビニ袋を差し出した。

「これ、差し入れ……」
「……ありがと」
「……」
「……」

 おかしいな。話したいことがいっぱいあったはずなんだけど。言葉がなんにも出てこねえや。
 とにかく会えて嬉しくて、でも距離感が開いてしまったことが痛いほど伝わって、嬉しいと同じくらい切ない。

「……じゃあ、お客さん待ってるから。行くわね」
「……」

 Sugar Velvetのみんな。俺、頑張っただろ。
 二回も既読無視されたのに、店まで会いに行ったんだぜ。
 褒めてほしい。誰か俺を褒めてくれ。

 頑張った俺を褒めてよ、伊吹さん。


 背を向けて歩く伊吹さんに、俺はこっそり目を向けた。
 伊吹さんは振り返らない。振り返ってくれない。無機質な言葉だけ残して――

「……っ、」

 俺は伊吹さんの手首を掴んだ。
 男は背中で語るとはよく言ったものだ。

「……伊吹さん」
「……」
「泣いてます?」

 ほんのり項垂れた頭。丸まって、いつもより小さくなった背中。口元に手を当てているであろう弱々しい手。
 その全身が、俺に「引き留めて」って訴えているような気がした。

「俺がなんでここに来たか分かります?」
「……どうせバーの子たちにでもそそのかされたんでしょ」

 ぐっ……。ちょっと図星。
 でも、違うって今なら言える。

「会いたかったんです」
「……」
「俺が、会いたかったんです」

 俺は無意識に鞄の中に手を突っ込んでいた。ミラさんにもらったカードを握りしめるために。

「俺、このままなんて、いやですよ……」
「……じゃあ、終わりにしましょ。あたしのことは忘れてちょうだい」
「何言ってるんですか……?」

 引き留めてほしそうだった。それは俺の勘違いだった? 俺の願望がそう思い込んでしまっただけ?

「伊吹さんは終わりにしたいんですか? 俺とはもう会いたくない?」
「……ええ、そうよ」
「そうですか……」

 俺はそっと手を離した。
 暗がりに隠れようとする伊吹さん。彼の背中に、俺は言った。

「それならちゃんと話しましょうよ。終わりにするとしても、最後に話したいです」

 俺にはまだこの手を引っ張る力はないかもしれない。
 でも、精一杯、足掻いてやる。

「俺、伊吹さんち行って待ってます。どうしても俺と話したくないなら……そのときは、帰らないでください」
「……」
「安心してください。こんなキモいことするの、今日だけです。……すみません」

 それだけ言って、俺は店を出た。
 無性に走りたくなって、人ごみの中を走りまくって。
 コンビニの裏でしゃがみこんで、泣いた。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?

灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。 オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。 ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー 獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。 そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。 だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。 話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。 そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。 みたいな、大学篇と、その後の社会人編。 BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!! ※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました! ※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました! 旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」

一軍男子と兄弟になりました

しょうがやき
BL
親の再婚で一軍男子と兄弟になった、平凡男子の話。

生意気オメガに疲弊する

夕暮れ時
BL
両親に許嫁として紹介されたのは、貧乏家庭に住むオメガの同級生であり、顔合わせもせずいきなり同居生活開始!!。しかし、実際に会ってみれば相性は最悪、なにをするにも文句を言われその生意気っぷりに疲弊しそうになるが、生活を続けるうちに可愛く見えてくるようになり______、

人気アイドルが義理の兄になりまして

BL
柚木(ゆずき)雪都(ゆきと)はごくごく普通の高校一年生。ある日、人気アイドル『Shiny Boys』のリーダー・碧(あおい)と義理の兄弟となり……?

平凡な僕が優しい彼氏と別れる方法

あと
BL
「よし!別れよう!」 元遊び人の現爽やか風受けには激重執着男×ちょっとネガティブな鈍感天然アホの子 昔チャラかった癖に手を出してくれない攻めに憤った受けが、もしかしたら他に好きな人がいる!?と思い込み、別れようとする……?みたいな話です。 攻めの女性関係匂わせや攻めフェラがあり、苦手な人はブラウザバックで。    ……これはメンヘラなのではないか?という説もあります。 pixivでも投稿しています。 攻め:九條隼人 受け:田辺光希 友人:石川優希 ひよったら消します。 誤字脱字はサイレント修正します。 また、内容もサイレント修正する時もあります。 定期的にタグ整理します。ご了承ください。 批判・中傷コメントはお控えください。 見つけ次第削除いたします。

可愛いがすぎる

たかさき
BL
会長×会計(平凡)。

僕の恋人は、超イケメン!!

八乙女 忍
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

弟がガチ勢すぎて愛が重い~魔王の座をささげられたんだけど、どうしたらいい?~

マツヲ。
BL
久しぶりに会った弟は、現魔王の長兄への謀反を企てた張本人だった。 王家を恨む弟の気持ちを知る主人公は死を覚悟するものの、なぜかその弟は王の座を捧げてきて……。 というヤンデレ弟×良識派の兄の話が読みたくて書いたものです。 この先はきっと弟にめっちゃ執着されて、おいしく食われるにちがいない。

処理中です...