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第七章
五十四話 ちんこor伊吹さん
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マリちゃんが帰ったその日の夜、俺はBar Sugar Velvetに行った。
誘われてもいないのにSugarに顔を出すのははじめてだったので、常連客が驚いていた。その日はジュン姐とミラさんがいた。
俺はカウンター席に座り、思いつめた顔で話を切り出す。
「みなさんに相談したいことがあります……」
ママもジュン姐もノリノリだ。ミラさんは無反応を装いながらも、意識をこちらに全集中させたのが分かった。
「俺……やっちまいました……」
「何をやっちまったのよぉー!? 早く教えなさいよ!!」
ジュン姐に急かされ、俺は言葉を続ける。
「実は昨晩、クラスメイトの女の子と……その……」
「えーーーー!? まさかあんたっ……あんたっ……!」
「……えっちなことを、してしまいました……」
「この浮気者ぉぉぉぉ!!」
「ぴえぁっ……」
ジュン姐の強烈な平手打ちをくらい、俺はよろけた。だが、今はこの痛みでさえありがたい。
「伊吹というものがありながらっ……! あんたはっ、あんたってヤツはぁぁ……!! だからオトコなんてキライなのよ!! この不潔!!」
「すみませんんんん……」
「逮捕よ逮捕!! ママ! 警察呼んで!!」
ミラさんがつかつかと俺の元に来た。
そして、冷や水を俺の頭にぶっかけた。
「……」
「バカ」
「すみません……」
そこに止めに入ったのは、ママだ。
「あんたたち、落ち着きなさい。まずは事情聴取をしないと。……睦くん? その子とはどこまでしたの?」
「……手コキされて、おっぱい揉んで、キスしました……」
それを聞いたジュン姐が目をしばたいた。
「あら。それだけ? なーんだ!」
しかしミラさんは顔をしかめたままだ。
「なにが〝それだけ〟? 充分重罪だよ。ママ、警察呼んで」
ママがスマホを取り出した。え、マジで警察呼ぶ気?
「仕事終わったらSugarに来てちょうだい」
……たぶん、伊吹さんに電話したな。
ママはいつもの柔らかい表情のまま、俺に話しかけた。
「この子の処遇は伊吹本人に決めてもらいましょ。あたしたちは裁ける立場じゃないわ」
俺が悲愴な顔つきでママを見上げると、ママは目尻を下げた。でも、目は笑っていない。
「あなたがしたことは伊吹を裏切る行為よ。恥を知りなさい」
「はい……」
「でも、ここに来たのは正解ね。真実を伊吹に打ち明けるか打ち明けまいか、悩んでいたからここに来たんでしょう?」
「はい」
「あたしはね、なんでもかんでも真実を打ち明けるのが優しさだとは思っていない。優しい嘘だってあるし、知らないほうがいい真実もある」
「……」
「でも……伊吹はどんな真実でも知りたい子なの。だから、むっちゃんの口から話してあげて」
「……はい」
本当のことを話すのがこわい。失望されて、別れを切り出される可能性はおおいにありえる。
別れたくない。そう思うと、なんとか真実を言わずに乗り切れないかと考えてしまう。
でも、ママがそう言うなら、俺は話す。話さなきゃいけない。保身のための嘘は、ついちゃだめだ。
数時間後、伊吹さんが姿を現した。
「きゃ~、むっちゃんもいるじゃない! やっほー!」
「……こんばんは」
「……なにかあったの? どうしたの、みんな神妙な顔して……」
ママが俺の隣にカクテルを置く。
「伊吹、ここに座って。むっちゃんから、話があるって」
「……」
伊吹さんの表情が一変して、深刻になった。
俺はとつとつと、昨晩のできごとを打ち明けた。伊吹さんの顔を見ることができない。なぜか俺が泣きそうになってくる。きっと泣きたいのは伊吹さんのほうだろうに。
「……ごめんなさい」
最後に深く頭を下げると、その上から冷や水が降ってきた。……本日二回目か。
「浮気者」
「すみません……」
「この……浮気者っ……!」
「……」
伊吹さんがキッとママを見上げる。
「ママ。外科医呼んで。この子のちんこ切り落としてもらうから」
「ひっ……」
か細い悲鳴を上げた俺に、伊吹さんがにっこり笑いかける。
「だってソレ、もういらないでしょう? あたしとするだけだったら必要ないもんね? それとも、なに? 女の子ともしたいから、切られたくないの?」
「いえっ……違いますっ……そういうんじゃないですっ……」
「じゃあ切ってもいいわよね」
「……はい……(?)」
ママがどこかに電話をかけた。
え、俺、マジでちんこ切られるの? 俺のかわいいドーベルマンが? うそ……
俺は伊吹さんに縋りつき、必死に懇願した。
「すみません! ほんとにすみません! もう二度としませんから! ちんこだけは……!!」
「あらー。なんでそんなにちんこに執着するの? いらないでしょ、そんな不届き者」
「ごめんなさい……! どうか、どうかぁぁぁ……!」
「じゃあ、あたしと別れる?」
「えっ……」
伊吹さんが俺の手を振り払い、冷たい目で睨みつける。
「そんなにちんこが惜しいなら、あたしと別れれば?」
ちんこか伊吹さん。究極の二択。
俺、今晩どっちかを手放さないといけないの?
「……どっちも無理です……」
「あら。ワガママな子。そんなワガママが通用すると思う?」
「無理です……! すみません……! ちんこ切られたくないし、伊吹さんとも別れたくない……!!」
伊吹さんは値踏みするような表情で俺を見下ろしたあと、俺に顔を近づけた。
「女の子のおっぱい、気持ち良かったでしょう」
「……」
「女の子とのキス、さぞドキドキしたんじゃない?」
「……」
「女の子のほうがよかったんじゃない? それなのに、どうしてあたしに固執するの?」
俺は顔を上げ、か弱く首を横に振った。
「キスされても、ドキドキしなかったんです……」
「……」
「正直に言うと、おっぱいは気持ちよかったし、手コキも気持ち良かったです。でも……キスは全く、気持ちよくなかったです」
それから俺はきゅっと目をつむる。
「実は、そのあとマリちゃんに〝付き合おう〟って言われました。でも……そんな気、全く起きなかったんです……!」
伊吹さんにこれだけは言わせてほしい。
「性欲と恋愛は違うって、伊吹さん言ってましたよね。それ、俺やっと分かったんです……。違います、全然……」
伊吹さんはため息を吐き、カクテルを一口飲んだ。
「むっちゃん、あたしのこと好き?」
「好きです」
「恋愛として?」
「それは……まだ分からないですけど、でも、たぶんそう……」
「……」
「少なくとも、性欲だけじゃないです……!」
伊吹さんが寂しそうに微笑んだ。
「あたしには柔らかいおっぱいはないわ。それでも?」
「関係ないです……」
「そう」
伊吹さんが立ち上がり、ママに話しかけた。
「ママ。どこに電話してたの?」
「ん? あらやだ。警察でも外科医でもないわ。ただの友だち」
よかったー……。
「あたしとむっちゃんは帰るわ。お代はむっちゃんの奢りね」
「はい」
ジュン姐がニヤニヤしながら尋ねた。
「お仕置きするの?」
「ええ。たっぷりとね」
「あら~。楽しんで~♡」
伊吹さんに半ば引きずられ、俺は店を出た。
向かった先は俺んちだった。
「しっかり上書きしないとね」
と言って、伊吹さんが指の関節をポキポキ鳴らした。
誘われてもいないのにSugarに顔を出すのははじめてだったので、常連客が驚いていた。その日はジュン姐とミラさんがいた。
俺はカウンター席に座り、思いつめた顔で話を切り出す。
「みなさんに相談したいことがあります……」
ママもジュン姐もノリノリだ。ミラさんは無反応を装いながらも、意識をこちらに全集中させたのが分かった。
「俺……やっちまいました……」
「何をやっちまったのよぉー!? 早く教えなさいよ!!」
ジュン姐に急かされ、俺は言葉を続ける。
「実は昨晩、クラスメイトの女の子と……その……」
「えーーーー!? まさかあんたっ……あんたっ……!」
「……えっちなことを、してしまいました……」
「この浮気者ぉぉぉぉ!!」
「ぴえぁっ……」
ジュン姐の強烈な平手打ちをくらい、俺はよろけた。だが、今はこの痛みでさえありがたい。
「伊吹というものがありながらっ……! あんたはっ、あんたってヤツはぁぁ……!! だからオトコなんてキライなのよ!! この不潔!!」
「すみませんんんん……」
「逮捕よ逮捕!! ママ! 警察呼んで!!」
ミラさんがつかつかと俺の元に来た。
そして、冷や水を俺の頭にぶっかけた。
「……」
「バカ」
「すみません……」
そこに止めに入ったのは、ママだ。
「あんたたち、落ち着きなさい。まずは事情聴取をしないと。……睦くん? その子とはどこまでしたの?」
「……手コキされて、おっぱい揉んで、キスしました……」
それを聞いたジュン姐が目をしばたいた。
「あら。それだけ? なーんだ!」
しかしミラさんは顔をしかめたままだ。
「なにが〝それだけ〟? 充分重罪だよ。ママ、警察呼んで」
ママがスマホを取り出した。え、マジで警察呼ぶ気?
「仕事終わったらSugarに来てちょうだい」
……たぶん、伊吹さんに電話したな。
ママはいつもの柔らかい表情のまま、俺に話しかけた。
「この子の処遇は伊吹本人に決めてもらいましょ。あたしたちは裁ける立場じゃないわ」
俺が悲愴な顔つきでママを見上げると、ママは目尻を下げた。でも、目は笑っていない。
「あなたがしたことは伊吹を裏切る行為よ。恥を知りなさい」
「はい……」
「でも、ここに来たのは正解ね。真実を伊吹に打ち明けるか打ち明けまいか、悩んでいたからここに来たんでしょう?」
「はい」
「あたしはね、なんでもかんでも真実を打ち明けるのが優しさだとは思っていない。優しい嘘だってあるし、知らないほうがいい真実もある」
「……」
「でも……伊吹はどんな真実でも知りたい子なの。だから、むっちゃんの口から話してあげて」
「……はい」
本当のことを話すのがこわい。失望されて、別れを切り出される可能性はおおいにありえる。
別れたくない。そう思うと、なんとか真実を言わずに乗り切れないかと考えてしまう。
でも、ママがそう言うなら、俺は話す。話さなきゃいけない。保身のための嘘は、ついちゃだめだ。
数時間後、伊吹さんが姿を現した。
「きゃ~、むっちゃんもいるじゃない! やっほー!」
「……こんばんは」
「……なにかあったの? どうしたの、みんな神妙な顔して……」
ママが俺の隣にカクテルを置く。
「伊吹、ここに座って。むっちゃんから、話があるって」
「……」
伊吹さんの表情が一変して、深刻になった。
俺はとつとつと、昨晩のできごとを打ち明けた。伊吹さんの顔を見ることができない。なぜか俺が泣きそうになってくる。きっと泣きたいのは伊吹さんのほうだろうに。
「……ごめんなさい」
最後に深く頭を下げると、その上から冷や水が降ってきた。……本日二回目か。
「浮気者」
「すみません……」
「この……浮気者っ……!」
「……」
伊吹さんがキッとママを見上げる。
「ママ。外科医呼んで。この子のちんこ切り落としてもらうから」
「ひっ……」
か細い悲鳴を上げた俺に、伊吹さんがにっこり笑いかける。
「だってソレ、もういらないでしょう? あたしとするだけだったら必要ないもんね? それとも、なに? 女の子ともしたいから、切られたくないの?」
「いえっ……違いますっ……そういうんじゃないですっ……」
「じゃあ切ってもいいわよね」
「……はい……(?)」
ママがどこかに電話をかけた。
え、俺、マジでちんこ切られるの? 俺のかわいいドーベルマンが? うそ……
俺は伊吹さんに縋りつき、必死に懇願した。
「すみません! ほんとにすみません! もう二度としませんから! ちんこだけは……!!」
「あらー。なんでそんなにちんこに執着するの? いらないでしょ、そんな不届き者」
「ごめんなさい……! どうか、どうかぁぁぁ……!」
「じゃあ、あたしと別れる?」
「えっ……」
伊吹さんが俺の手を振り払い、冷たい目で睨みつける。
「そんなにちんこが惜しいなら、あたしと別れれば?」
ちんこか伊吹さん。究極の二択。
俺、今晩どっちかを手放さないといけないの?
「……どっちも無理です……」
「あら。ワガママな子。そんなワガママが通用すると思う?」
「無理です……! すみません……! ちんこ切られたくないし、伊吹さんとも別れたくない……!!」
伊吹さんは値踏みするような表情で俺を見下ろしたあと、俺に顔を近づけた。
「女の子のおっぱい、気持ち良かったでしょう」
「……」
「女の子とのキス、さぞドキドキしたんじゃない?」
「……」
「女の子のほうがよかったんじゃない? それなのに、どうしてあたしに固執するの?」
俺は顔を上げ、か弱く首を横に振った。
「キスされても、ドキドキしなかったんです……」
「……」
「正直に言うと、おっぱいは気持ちよかったし、手コキも気持ち良かったです。でも……キスは全く、気持ちよくなかったです」
それから俺はきゅっと目をつむる。
「実は、そのあとマリちゃんに〝付き合おう〟って言われました。でも……そんな気、全く起きなかったんです……!」
伊吹さんにこれだけは言わせてほしい。
「性欲と恋愛は違うって、伊吹さん言ってましたよね。それ、俺やっと分かったんです……。違います、全然……」
伊吹さんはため息を吐き、カクテルを一口飲んだ。
「むっちゃん、あたしのこと好き?」
「好きです」
「恋愛として?」
「それは……まだ分からないですけど、でも、たぶんそう……」
「……」
「少なくとも、性欲だけじゃないです……!」
伊吹さんが寂しそうに微笑んだ。
「あたしには柔らかいおっぱいはないわ。それでも?」
「関係ないです……」
「そう」
伊吹さんが立ち上がり、ママに話しかけた。
「ママ。どこに電話してたの?」
「ん? あらやだ。警察でも外科医でもないわ。ただの友だち」
よかったー……。
「あたしとむっちゃんは帰るわ。お代はむっちゃんの奢りね」
「はい」
ジュン姐がニヤニヤしながら尋ねた。
「お仕置きするの?」
「ええ。たっぷりとね」
「あら~。楽しんで~♡」
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