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第一話
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『ヒナ。大きくなったらお嫁さんにしてやってもいいよ』
『えー?こーんなにちいちゃいのに旦那さんかぁー』
『すぐ大きくなるし。それに俺は強いんだからな』
『ふーん。じゃあ楽しみにしてるよ?』
その男の子はニヤリと笑った。
「ひなー!朝ご飯できたわよー!起きて―!」
「今行くー」
私は星永ひな。19歳。キラキラ大学生活を送っている真っ最中である。
いそいそと階段を下りて味噌汁の匂いが漂うリビングへ向かう。
「おはよー。あれお父さんは?」
「朝からボクシングしに行ったわよ。あんたも今日用事あるんでしょう?休日だっていうのに、だあれも家にいないんだから。ねぇ?みーちゃん」
分かってんのか分かってないのか、小さく鳴いた我が家の猫は朝ご飯にかぶりつく。
「しょうがないじゃん。今日は後輩たちに指導する約束しちゃってるし。いただきます!」
「はいはい。旦那はボクシング。娘は空手。私は何してればいいってのよー」
ぶつぶつ文句を言いながら鮭をほおばるお母さん。
その足元でれしそうに喉を鳴らすみみ。この子は去年から家族になった小さな小さな猫だ。
三毛猫なもんで『みみ』と名付けた。お母さんは『みーちゃん』なんて呼んでいるが。
「ったく、若いころは強そうでかっこよかったから結婚したのに。今でも月に三回は必ずボクシングに行くなんて聞いてないわよ」
「まあまあ。おかげでお父さんまだまだぴんぴんしてるんだし」
私はお母さんをなだめつつ味噌汁を飲み干す。
結婚かあ・・・。
そういえば、今朝もあんな夢を見た。
これは私がよく見る夢なのだが。
『ここどこ・・・?お母さーん!お父さん!どこー!!!』
めいっぱい叫んでも誰もいない。どこから間違えたのだろう。
9歳の時の私は、家族三人でお祭りに出かけた。可愛いピンクの浴衣を着せてもらって上機嫌だった。
途中でお母さんんが屋台に並び、お父さんと待っている間、お祭りをやっている公園の外にかわいいお面を売ってるキッチンカーを見つけた。
お父さんに言うまでもなく私はすきを見て駆け出したのだ。
お父さんに話している間にそのキッチンカーがいなくなっちゃうと思い込んでしまったから。
必死に向かったが、そこに車はなかった。焦ってふり返ったら、お祭りをしていた公園も無い。
気づいたらそこは、森だった。見渡す限り木。薄暗く、冷たい空気。
歩き出すこともできず、ただ立ちすくんだ。
『お母さんー!!』
ただ静かな空間に私の声だけがこだます。
どうして?なんで公園がなくなってるの・・・?
怖くてそれでも必死に声を張り上げていたその時だ。
後ろから気配を感じた。すぐさま振り向くと、見たことのない、真っ黒い何かがそこにいた。
『ひっ・・・!』
そのなにかが襲い掛かってくる。成す術もなくただ反射で目をつぶっていると、目の前で突然雄たけびが聞こえた。
驚いて目を開けると、小さな背中が私の前に立っていた。
『え・・・?』
そこにいたはずの黒い何かはもういない。代わりに湯気のような、黒い煙が揺らぎ、消えた。
目の前にいる、恐らく私を助けてくれたその子が振り返る。
綺麗漆黒の目をして、漆黒の髪をもつ、可愛らしい少年だ。
だが見た目に不釣り合いな鋭い剣を持ち、その表情は決して可愛くはない。
『なんでこんなところに一人でいるんだ!バカ!』
まさか罵倒されるとは思いもせず、私はぽかんとする。
そして、この異常な地帯と怖さ、とりあえず助かったと言う安堵に涙があふれ出した。
『おっ、おい!泣くからって許されると思うなよ!・・・おい!』
男の子はあたふたしたように私の前にかがみこむ。身長変わんないけどな、などと思いつつ私の涙は止まらない。
すると、少し遠くからまた声がした。
『殿下ー!どこ行っちまったんですかー!』
男の子はやれやれと首をかしげる。同行しているうちに声の主は近づいてきた。
赤い髪をしている少年だ。だが、歳は私と助けてくれた男の子より少し上に見えた。
『こんなところでなにしてるんすか―。研修期間中は一人でうろつくなとあれほど言われ・・・あれ?この子はどなたで?』
『知らない。不法侵入でもしたんじゃないか?』
『んなバカな!したくてもできる場所じゃないっすよここ。魔物が大量にうろつくんですから。まだタワー内じゃなくて良かったけど・・・ってマジでなんでここにいるんだ?』
『だから知らないって』
まもの・・・?でんか・・・?訳の分からない言葉が飛び交い、私は泣き止んだまま首を傾げる。
『しっかしどうすっかなぁ。とりあえず保護しなきゃですし、今夜はここまでにしましょうよ』
『へいへい』
赤髪の男は私にニッコリとほほ笑む。
『お嬢さん、出口まで送ってあげますからね。もう少し歩けそうかな?』
私はこくんと頷く。
『よーし偉い。殿下、行きますよー』
『分かったって』
そこから私は二人についていき、森のような場所を出た。
ゲートを通り、そこにいる警備員の方々に驚かれ、何個か部屋を通り過ぎ、たどり着いた先は、全く見たことのない街並みであった。
『お嬢さん、お家には帰れそうかな?』
私はあまりにも愕然とし言葉をこぼした。
『ここどこ・・・』
『え?』
『は?』
二人の驚く顔を横目にどうやらキャパオーバーの私はそのまま気絶してしまったらしい。
『えー?こーんなにちいちゃいのに旦那さんかぁー』
『すぐ大きくなるし。それに俺は強いんだからな』
『ふーん。じゃあ楽しみにしてるよ?』
その男の子はニヤリと笑った。
「ひなー!朝ご飯できたわよー!起きて―!」
「今行くー」
私は星永ひな。19歳。キラキラ大学生活を送っている真っ最中である。
いそいそと階段を下りて味噌汁の匂いが漂うリビングへ向かう。
「おはよー。あれお父さんは?」
「朝からボクシングしに行ったわよ。あんたも今日用事あるんでしょう?休日だっていうのに、だあれも家にいないんだから。ねぇ?みーちゃん」
分かってんのか分かってないのか、小さく鳴いた我が家の猫は朝ご飯にかぶりつく。
「しょうがないじゃん。今日は後輩たちに指導する約束しちゃってるし。いただきます!」
「はいはい。旦那はボクシング。娘は空手。私は何してればいいってのよー」
ぶつぶつ文句を言いながら鮭をほおばるお母さん。
その足元でれしそうに喉を鳴らすみみ。この子は去年から家族になった小さな小さな猫だ。
三毛猫なもんで『みみ』と名付けた。お母さんは『みーちゃん』なんて呼んでいるが。
「ったく、若いころは強そうでかっこよかったから結婚したのに。今でも月に三回は必ずボクシングに行くなんて聞いてないわよ」
「まあまあ。おかげでお父さんまだまだぴんぴんしてるんだし」
私はお母さんをなだめつつ味噌汁を飲み干す。
結婚かあ・・・。
そういえば、今朝もあんな夢を見た。
これは私がよく見る夢なのだが。
『ここどこ・・・?お母さーん!お父さん!どこー!!!』
めいっぱい叫んでも誰もいない。どこから間違えたのだろう。
9歳の時の私は、家族三人でお祭りに出かけた。可愛いピンクの浴衣を着せてもらって上機嫌だった。
途中でお母さんんが屋台に並び、お父さんと待っている間、お祭りをやっている公園の外にかわいいお面を売ってるキッチンカーを見つけた。
お父さんに言うまでもなく私はすきを見て駆け出したのだ。
お父さんに話している間にそのキッチンカーがいなくなっちゃうと思い込んでしまったから。
必死に向かったが、そこに車はなかった。焦ってふり返ったら、お祭りをしていた公園も無い。
気づいたらそこは、森だった。見渡す限り木。薄暗く、冷たい空気。
歩き出すこともできず、ただ立ちすくんだ。
『お母さんー!!』
ただ静かな空間に私の声だけがこだます。
どうして?なんで公園がなくなってるの・・・?
怖くてそれでも必死に声を張り上げていたその時だ。
後ろから気配を感じた。すぐさま振り向くと、見たことのない、真っ黒い何かがそこにいた。
『ひっ・・・!』
そのなにかが襲い掛かってくる。成す術もなくただ反射で目をつぶっていると、目の前で突然雄たけびが聞こえた。
驚いて目を開けると、小さな背中が私の前に立っていた。
『え・・・?』
そこにいたはずの黒い何かはもういない。代わりに湯気のような、黒い煙が揺らぎ、消えた。
目の前にいる、恐らく私を助けてくれたその子が振り返る。
綺麗漆黒の目をして、漆黒の髪をもつ、可愛らしい少年だ。
だが見た目に不釣り合いな鋭い剣を持ち、その表情は決して可愛くはない。
『なんでこんなところに一人でいるんだ!バカ!』
まさか罵倒されるとは思いもせず、私はぽかんとする。
そして、この異常な地帯と怖さ、とりあえず助かったと言う安堵に涙があふれ出した。
『おっ、おい!泣くからって許されると思うなよ!・・・おい!』
男の子はあたふたしたように私の前にかがみこむ。身長変わんないけどな、などと思いつつ私の涙は止まらない。
すると、少し遠くからまた声がした。
『殿下ー!どこ行っちまったんですかー!』
男の子はやれやれと首をかしげる。同行しているうちに声の主は近づいてきた。
赤い髪をしている少年だ。だが、歳は私と助けてくれた男の子より少し上に見えた。
『こんなところでなにしてるんすか―。研修期間中は一人でうろつくなとあれほど言われ・・・あれ?この子はどなたで?』
『知らない。不法侵入でもしたんじゃないか?』
『んなバカな!したくてもできる場所じゃないっすよここ。魔物が大量にうろつくんですから。まだタワー内じゃなくて良かったけど・・・ってマジでなんでここにいるんだ?』
『だから知らないって』
まもの・・・?でんか・・・?訳の分からない言葉が飛び交い、私は泣き止んだまま首を傾げる。
『しっかしどうすっかなぁ。とりあえず保護しなきゃですし、今夜はここまでにしましょうよ』
『へいへい』
赤髪の男は私にニッコリとほほ笑む。
『お嬢さん、出口まで送ってあげますからね。もう少し歩けそうかな?』
私はこくんと頷く。
『よーし偉い。殿下、行きますよー』
『分かったって』
そこから私は二人についていき、森のような場所を出た。
ゲートを通り、そこにいる警備員の方々に驚かれ、何個か部屋を通り過ぎ、たどり着いた先は、全く見たことのない街並みであった。
『お嬢さん、お家には帰れそうかな?』
私はあまりにも愕然とし言葉をこぼした。
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『え?』
『は?』
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