飼い犬はなぜ殺された

かみき

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飼い犬はなぜ殺された

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飼っていた犬が殺された。
ネットに写真をあげる度にバズるぐらい可愛い犬だった。
犯人は既に逮捕されており、動機も明らかになっている。
曰く、自分もこの犬を使ってバズろうと企み、盗んだは良いが思ったような写真が撮れず、苛立って殺してしまったと。
飼い犬を守れなかった不甲斐なさ、喪った悲しみに襲われて大泣きに泣いた後、お悔やみのDMをくれたフォロワーさんのアドバイスを受けて遺骸を自宅の庭に埋め、墓標代わりに木を植えた。
数年経って木が大きく育ち、喪失の悲しみも薄らいできた頃、深夜の不審火によって木は燃やされた。
ほとんど形を留めていない黒焦げの残骸を見て、再び数年前の心の痛みがよみがえり、目から涙がポロポロと零れた。

「で、それがこの灰なのだね?」
依頼人は興味津々といった様子で灰の入った小瓶を取り上げ、栓を抜いて手近にあった枯れた盆栽に振りかける。
灰がキラキラと降りかかると、瞬く間に盆栽は生気を取り戻し、ぽん、ぽん、と薄紅色の花を咲かせた。
「よくやってくれた。今回の報酬だ、受け取ってくれ」
投げられた分厚い封筒をキャッチし、探偵は中身をあらためる。
花咲か爺さんの血筋が現在も続いており、その一部はあの有名な昔話と同じ能力を受け継いでいると依頼人から聞かされたのは十年ほど前のこと。
昔話と同じ条件を揃えれば能力が発動するということで、血筋に該当する複数人のうちから犬を飼っている人物を標的にし、金で買ったアカウントを使ってバズらせ、並行して思慮の浅い人間を唆して犬を殺させた。
次いで、お悔やみのDMを装って遺骸を庭に埋め、その上に木を植えるよう誘導する。
木を燃やして灰を取るのは自分一人で実行したが、思ったよりすんなりと事が進んだ。
探偵の脳裏に、お悔やみを送っても不自然でない程の仲を築くために、何度もやりとりを重ねた飼い主の顔が浮かぶ。
昔話に出てくる花咲か爺さんと似たような、正直で善良な人間だった。
「そんなだから何度も災難に遭うんだよッ」
湧き上がってきた罪悪感を振り払うように、探偵は小声で吐き捨てた。
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