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満願成就
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その人はいつも、毎朝早くにお参りに来る。
お賽銭を入れ、柏手を打って熱心に拝んでいる。
バイトの私達は授与所の中でいかにも無関心な表情をしながら、あの人は何をお願いしているのだろうと各々想像して話し合う。
「前に縁結びのお守り買ってたじゃん? 恋愛成就かな」
「そうかもしれない。一応ここ、縁結び神社だからね」
やがて季節が一巡した頃、その人は安産お守りを買っていった。
「ほら、やっぱり縁結びだった。叶って結婚したんだ」
「でもさ、薬指に指輪無くなかった?」
「普段はつけないタイプなんでしょ」
その時はそれで納得したが、その人がそれからもずっとお参りに来て、十ヶ月経ってもお腹がふくらんでいないのを見て、私達は密かに首を傾げた。
もしや自分ではなく、他人のためにお参りしているのだろうか?
さらに季節が一巡し、ある日、その人は絵馬を買い求めた。
結婚と出産が叶ったことへのお礼を夫婦の名前と共に書き、それきり、その人がお参りに来ることはなくなった。
数ヶ月後、私達は絵馬に書かれた夫婦の名前を、一家心中事件の速報で目にすることになる。
お賽銭を入れ、柏手を打って熱心に拝んでいる。
バイトの私達は授与所の中でいかにも無関心な表情をしながら、あの人は何をお願いしているのだろうと各々想像して話し合う。
「前に縁結びのお守り買ってたじゃん? 恋愛成就かな」
「そうかもしれない。一応ここ、縁結び神社だからね」
やがて季節が一巡した頃、その人は安産お守りを買っていった。
「ほら、やっぱり縁結びだった。叶って結婚したんだ」
「でもさ、薬指に指輪無くなかった?」
「普段はつけないタイプなんでしょ」
その時はそれで納得したが、その人がそれからもずっとお参りに来て、十ヶ月経ってもお腹がふくらんでいないのを見て、私達は密かに首を傾げた。
もしや自分ではなく、他人のためにお参りしているのだろうか?
さらに季節が一巡し、ある日、その人は絵馬を買い求めた。
結婚と出産が叶ったことへのお礼を夫婦の名前と共に書き、それきり、その人がお参りに来ることはなくなった。
数ヶ月後、私達は絵馬に書かれた夫婦の名前を、一家心中事件の速報で目にすることになる。
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