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魔法付与
しおりを挟む「さあ、準備はいいかな? そう不安そうな顔をしなくてもいいよ。ボクの想像通りなら、これで問題ないはずさ。自信を持って駆け抜けてくれたまえ」
ミルフィの言葉が私の耳を通り抜けていく。
正直、自信なんか持てるはずない。今の私は変な顔をしていると思う。無理に笑おうとして頬が引き攣っているのがわかる。
「だ、大丈夫ですよ、アリスさん! 何かあっても後ろには私とアリーがいますから。応援しかできませんけど、頑張ってください……!」
「あ、ありがとうございます……」
マリーさんの優しさが私の心を和らげる。
それでも極度に緊張しているのは変わらない。
今私は、眩い光を纏ったただの長剣を持って、先頭に立っていた。
この長剣は、マリーさんによって浄化の魔法を付与されたものだ。
ミルフィが言うには、ゾンビやスケルトンに浄化は良く効くらしい。
確かに墓地ダンジョンにおいて、光魔法は威力が倍増すると言われている。
ただ、それは墓地に出現するのがレイスという幽霊だからであって、スケルトンやゾンビに効果があるなんて聞いたことはない。
何度も抗議したのに、ミルフィは聞き入れてくれなかったし……。
「あ、そろそろ限界だね。壁が崩壊するよ。アリス、走るんだ!」
「ひぇっ」
ミルフィに背中を叩かれ、私の体はビクッと跳ねる。
それと同時に私の足は反射的に走り出していた。
ミルフィの作った氷壁が崩壊し、溜まりに溜まっていた”侵略者”たちが津波のように押し寄せてくる。
あまりの数と迫力に、思わず足が止まりかけた。
「アリスさん!」
「……もうっ! こうなったらヤケよ!」
振り切れた私は、光る長剣を目の前に掲げ、”侵略者”の大群に突っ込んでいく。
本当にこんなものでどうにか――怯えていた私の予想と反して、”侵略者”たちは剣を避けるように道を開けた。
「へ? あれ……?」
「やっぱりボクの想像通りだね。大抵こういうタイプの敵は聖なる光を恐れるものさ。魔の者には聖なる力をぶつけるのが定石、ってね」
「いろいろと聞きたいことはあるけど、後にするわ。とにかく、これならいける! 突っ切るわ!!」
私たちは”侵略者”の大群の間を抜け、通路を進んでいく。
光る長剣が通り過ぎると、後ろから襲って来ようとするが、後ろは後ろでアリーさんの背に、同じように魔法付与した杖を背負ってもらっている。
後ろから襲おうとしたスケルトンナイトが、嫌そうに離れていく。
どうやら、ミルフィの作戦がとても効果的だったようだ。
……これなら、私が最初から頑張らなくても、マリーさんの光魔法でもっと楽に攻略できたのでは?
「……アリス、ときには回り道も大切だと思うんだ。人の成長は回り道の繰り返しだからね」
「誤魔化すんじゃないわよ。どうせ、忘れてたんでしょ?」
「……」
ミルフィが気まずそうに目を逸らす。
この使い魔にはあとでしっかりとお仕置きをしなければならないわね。
必死に弁解しようとするミルフィの様子に、マリーさんたちは苦笑していた。
「と、とにかくっ。この階層ももう楽に進めるようになったわけだ。どんどん進んでいこうじゃないか」
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