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第1章【覚醒編】

第1章6話 [召喚(前編)]

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 目を開けると木で作られた天井だった。

「ここは…?」

 ベットから起き上がり周りを見渡すと小さな机に椅子が2つと小さな窓…どうやらマイルームにログインしたようだ。 
 もしかするとログアウトした場所にログインするようになっているのかもしれない。
 マリアよ、どうして3つ目に教えてくれなかった…。

「よしっ!」

 ベットから立ち上がり気分を入れ替える。

「今から記憶を戻す冒険の始まりだ!早速俺のパートナーになる初めての召喚獣を召喚しよう!」

 テンションが上がりすぎて何故か大きめの声で独り言を言う。

「よしっ!……え~と、どうやって召喚するんだろう?そうだ!こういう時のメニュー画面だ!」

 メニューを慣れた手つきで開き、『召喚士』と『格闘家』という項目を見つける。『召喚士』を選択すると、召喚士のスキルは1つだけしかなかった。その1つだけのスキルが『契約召喚』だったのでこれだろうと思い選択する。

【召喚獣を契約召喚しますか?(残3回)〈YES/NO〉】

 YESを押すが何も起きない。

「あれ?何か間違ってるのか?」

 何度ボタンを押しても何も起きない。

「何でだ?『召喚!』」

 叫ぶと目の前の床に魔法陣が出現される。

「そうか、召喚って言わないといけないのか!」

 魔法陣が光り始める。

「す、すげぇ…これが召喚…」

 初心者の気持ち的には強そうなのが召喚されたら嬉しいな…。でも男心的に強くなくても見た目がカッコいいのが良いなぁなど考えていたら魔法陣から『ボフン!』と白い煙が勢いよく上がる。

「召喚された…!」

 ワクワクしながら見つめていると煙が消えていく。
 妖精…召喚された召喚獣の第1印象は正にそれだった。
 煙が晴れると背中に半透明の白色の4枚の羽根が生えており、大きさ15センチほどの小人が空中に浮かんでいる。
 現実世界では存在しないサラサラのピンク色の長い髪。前髪は切り揃えており頭の後ろ付いた大きな白いリボンが目立つ。
 白い肌には白い布がクロスしたビキニと短めのスカートと布の面積が少ない服を着ている。

「よし…。まあ…な。うん、あと2回あるしな。次こそは…!いくぜー!」

 メニューを開き、先程のように召喚士の項目を選択する。

「ちょっと!なんで無視するの?!」
「帰し方は…っと」

 どうやったら召喚獣は戻せるのだろうかとメニュー画面で戻す方法を探す。

「ちょっと私の帰し方を探さないで!!」
「……」
「なにその目は!!ありえないよ!一応言っとくけど私、妖精だよ!!妖精って、すんごいレアだからね!」

 やっぱり妖精だったのか。でも期待していたのと見た目が完全に的外れだったから、勢いあまって強制送還させるところだった。一応話を聞いてみよう。

「ごめん。つい思っていた召喚獣と違って冷たい態度とって…」
「やり…おし…」
「え?」

 なんかボソっと小さい声で何か言ったので聞き返す。

「やり直して!召喚して私が出てきたところのリアクションをもう1回やり直して!」
「えーと…つまり?」

 突然意味の分からないことを言う。

「私が今から『ボフン!』って口で言うから、あなたは私が召喚されたていで気の利いたことを言うの!分かった?」

 どうしてそんな小芝居をしないといけないんだと思ったが、最初に俺が冷たい態度をとってしまったのが悪いんだし仕方ないか…。

「…分かった」
「じゃあ、いくよ!ボフン!」
「うわーようせいだーすげー」
「はい!やり直し!このB級大根役者!棒読みにもほどがあるよ!ちゃんと心を込めて言って!本物の妖精に会った時ってそんな驚き方しないでしょ?」
「…ああ」

 酷い言われようだ。『これは俺のせいなんだ』と心の中で何度も唱えてイライラを抑え込む。次は100%で今回は言おうとしよう。

「よし、良いぞ」
「じゃあ、いくよ!ボフン!」
「うわー!妖精だー!!すげー!!」

 完璧だ。自分でも本当に目の前に妖精がいるんじゃないかと思ってしまうような芝居だ。

「はぁ~…なんか違うな~」
「はぁ?!」

 デカイ溜め息をされて呆れられる。早く冒険に行きたいのに、こんなしょうもない事で時間潰したくない。

「なんか在り来たりのセリフなんだよね~。もっと驚いてほしいし、私のテンションを上げることを言ってほしいの」
「…たとえば?」

 少しイラつきながら、フヨフヨと飛びながら腕を組んで偉そうにしている妖精に聞く。

「そうだな~、たとえば『ど、どひゃ~!よ、妖精様~!!あぶない!あまりにも可愛くて失神するところだった !こんな可愛い妖精様を召喚できるなんて私って本当に幸せ者だ~!!」

 リアクションをしながら凄い器用に動き回ってる。最後の『幸せ者だ~』のところはアキレス腱を伸ばす運動のような動きをしながら両手を天に万歳しながら叫んでいた。

「恥ずかしくないのか?」
「全然恥ずかしくない!これが本来の私を見たときのリアクションだから!はい、これやって!」

 なんて図太い神経してんだ…。恥ずかしいが仕方ない。心の中で『これは自分のせい』と何度も唱え、深呼吸を数回繰り返し覚悟を決める。

「よし!いつでも良いぜ」
「それじゃあ、いくよ!ボフン!」
「ど、どひゃ~!よ・妖精様~!!あ…あぶない!あまりにも可愛くて失神するところだった。こんな可愛い妖精を召喚できるなんて、俺って本当に幸せ者だ~!!」

 恥ずかしい!!動きまで全て見様見真似で再現したから余計に恥ずかしい!!現在の俺の体勢は天に万歳している状態だ。天に万歳っていうか妖精に対して万歳している。

「これで満足だろ?」
「う~ん、やっぱり『幸せ者だ~』のあとに『これで私の冒険は安泰だ~!』とも付け加えて『失神』も『失禁』に変えてもう1回やろうか」

 さすがに我慢の限界だ。

「それでは、妖精様。今から帰る方法を探すので少し待っていて下さい。そしてもう2度と会う事はないでしょう」
「わ~!ウソウソ!冗談だよ冗談!フェアリージョークだよ!」

 俺の右の人差し指にまとわり付く。柔らかく暖かい体温があることにドキッとする。

「分かったから離れろ!メニューから帰す方法探さないから!」
「ホントに…?離した瞬間に探さない?」

 ガッシリと全身を使って手の甲にしがみついている妖精を説得する。

「しないから。離してくれよ。まだお互いに自己紹介してないし、離してくれないと自己紹介出来ないだろ?」
「うん…。なら離す…」

 妖精はゆっくり指から離れて行き、机の上に着地する。

「私の前にあなたの自己紹介して」
「お、おう、俺はマリーだ。よろしくな」

 俺から先にするのかよっと思いながらも簡単に自己紹介する。

「私の名前は『エリー』ちなみに言っておくとレアリティは8だよ」
「レアリティ?」

 召喚士の説明にも書いてあったな、マリアに聞いておけばよかった。

「もしかしてこのゲーム初めましての人?」
「初めましての人…?ああ、初めてやるな」
「じゃあ説明するね。レアリティはマックス10だよ。でも伝説でレアリティ11とか12も存在するとかしないとか」
「てことは、エリーってめちゃくちゃレアじゃん!すっげー!エリーマジすげー!」
「それほどでもないよ~!私なんて普通の妖精だって~」

 すっごい照れてる。褒められるのが余程嬉しいようだ。
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