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第1章【覚醒編】

第1章8話 [召喚(後編)]

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「そう言えばエリーのステータス見てなかったな。なんで自分の時にステータスの見方を教えてくれなかったんだ?」
「え?なんか恥ずかしくて~、私のも見たい?恥ずかしいけど、でも…良いよ、マリーなら…」

 エリーは恥ずかしそうに顔を赤らめて言う。何だか見る気が完全に失せた。

「また暇な時のでも見るよ。どうせ攻撃力も防御力も低そうだでHPも少なそうだし」
「ひどっ!想像で酷い言われよう!」

 怒っているのかと思ったがホッとしたような顔をしている。こんなことしてないで最後の召喚獣を召喚しよう。

「よし、今のところ戦力になるのが召喚されていないからな。次こそは戦える奴を『召喚!』」

 目の前の地面に魔法陣が描かれる。魔法陣が光りボフン!と白い煙が上がる。

「どうだ…?」

 白い煙が消えていくと、黒色と青色の毛色をした大型犬くらいの大きさの狼が佇んでいた。

「よっしゃ!きたー!完全に戦力の要になるでしょ!ありがとう!」

 嬉しくて抱きつこうとすると「グルルル!」と歯をむき出しにして唸られる

「怖っ!何でこんなに怒ってんの?!」
「そりゃそうでしょ信頼度まだ低いんだし。それより召喚した時のリアクションが私の時より良かったのなんで?」

 信頼度が低いとこんなに嫌われるのか?もしかして『家で友達に誕生日パーティーしてもらってる』時とか『妹の結婚式で手紙とか読んでる最中』に召喚したんじゃないのかと思うくらい怒ってるんだけど!

「これはアレをするしかない!入院中に見たアニメのワンシーン…獰猛なケモノを大人しくさせた上に懐かせたあのシーンをするしかない」
「どうする気?下手に近付くと危ないよ!」
「大丈夫だ!いくぞ…!」

 ゆっくりと狼に手を伸ばしながら近づいていく「グルルルル…」と歯をむき出して威圧してくる。『仕事が休みで久し振りに家で家族と寛いでいる』時に召喚してしまったんじゃないか…などと怒っている理由を考えながら歩み寄る。

「怖くない。大丈夫怖くないから…」

 優しく言いながら頭を撫でる。この方法で獰猛な黄色いケモノを大人しくさせていた青い服を着た女の子を思い出しながら頭を撫でる。「グルルルル…」とまだ唸りながら睨まれている。チラッとエリーを見ると、噛まれる瞬間を見たくないのか両手を目で隠している。いや!ちょっと指に隙間がある、本当は見たいのか?!

「大丈夫。きょ、きょわくないから大丈夫だよ」

 俺が怖くなってきた。頼む!噛まないで!いや実際は噛まれた後、我慢して「怖くないよ…」って諭すのが正解なんだけど…大型の狼に噛まれたらシャレにならない。噛まないでと願いながら頭を撫で続ける。すると「クゥ~ン」と剥き出しの歯を出した口を閉じ、目を細めて俺の胸に擦り寄ってくる。

「おお!やった!なんだなんだ!可愛いやつめ!」
「チッ」
「おい!舌打ち!やっぱり噛まれる瞬間見たかったのか!」

 優しく狼の頭やら色々な場所を撫で回す。この狼も毛がフワッフワだ!あとで顔を埋めよう!

「そんな真っ平らなところに顔埋めて楽しいのかな?」

 何てことを言うんだ…自分が少し大きいからって!にしても狼も本当に何が楽しいのか、今まで威嚇していたのが嘘のように俺の胸の中で甘えたようにスリスリと擦り寄っている。

「そうだ、ステータス見とこ」
  
 狼のステータスを念じて見る。

 ・ナイトウルフ   『No name』 Lv1/10  信頼度6  〈R5〉
  HP/ 800    STR/  300 VIT/200    AGI/300     
『闇に生きる狼。魔法で闇の壁を生み出すことが出来る。進化残り2回』
【アビリティ/ 5秒間につきHPを10消費して闇属性の壁を生み出すことができる】

「強っ!そんで信頼度高っ!」
「あのナデナデで信頼度上げるってマリー凄いね」

 本当に撫でて信頼度を上げたのなら俺の撫でるチカラ凄いな。

「あとは名前だな。俺を騎士のように守るような召喚獣になってほしいって願いを込めて名前は『ナイト』だ」
「スピカの時より決めるの早かったね」

 スピカの時は今の見た目からどう変わるか分からなかったし仕方ないだろ。それに強そうな召喚獣だったならナイトにしようと何となく決めていた。今だに俺に擦り寄っているナイトを引き離し召喚獣3体を横に並べる。

「俺は初心者で何も分からないし何回も死ぬかもしれない。そうならないように頑張るし、お前たちも俺が死なないようにサポート頼む。これから皆んな冒険よろしくな!」
「おー!分からないことがあればなんでも聞いて!私に全部頼ちゃって!」
「キュキュー!」
「ワンワンワン!!」

 よしっと、心の中で気合を入れて冒険への期待と不安を膨らませ出口の扉へと足を動かす。

「ねぇねぇ、そういえばマリーのステータスはどんなかんじか見たの?」
「………」

 完全に出鼻を挫かれた。でも実際に自分の強さが分からないのでステータスは確認した方が良いだろう。
 自分のステータスを表示するように念じる。
  
 マリー   Lv 1              Ranking--  《3000G》
 メインジョブ/召喚士 Lv1   サブジョブ/格闘家 Lv1      覚醒ジョブ/条件を満たした場合解放
  HP/100     MP/100   STR/50      VIT/50     DEX/50     AGI/25    INT/20     LUK/15          
 《武器》召喚士の腕輪 MP+70  
 《 装備》  
 頭/       
 胴体/召喚士のローブ  MP+30       
 腕/ 
 足/冒険者の靴 AGI+25       

 EXスキル【絶対防御/全ての武器防具を装備できる。ただし自分のステータス値はプラスされない】 
 加護【妖精女王の加護/あらゆる確率が関わるものに100%勝つ】 

「弱!!」
EXエクストラスキルのせいでステータスが足されない所為もあるけどね」

 絶対装備の野郎!今のところゴミスキルじゃないか!

「俺のステータスは分かった。もう冒険に行こう。みんな一旦帰ってもらうか」

 さすがに大きなウサギと狼を連れて街を歩くのは目立つからな。メニューを開き帰し方を探す。

「……」

 何故か不機嫌になっているエリーに聞いてみるか。

「エリー、召喚獣に帰ってもらう時ってどうするんだ?」
「……教えてもいいけど、私を帰さないって約束して」
「ああ、最初からエリーは帰す気なかったし」

 エリーの顔がパアァと笑顔になる。エリーがいないと今から何をして良いか分からないし帰さないに決まっているだろ。

「簡単だよ!戻れ!とか帰還しろ!とか念じれば召喚した召喚獣は帰ってくれるよ」
「なるほど、その前にスピカにナイト、次に召喚する時は敵の前に急に召喚するかもしれない。すまないが頼むぞ!」

 そう言いながら2匹の頭を撫でる。「キュキュー!」「ワウワウ!」と『任しておけ』と言わんばかりに吠える。

「よし!戻れ!」

 召喚獣2体の地面に魔法陣が描かれてシュンッと一瞬で消える。

「一応言っておくと、召喚獣はアイテムの『召喚石』っていう石から召喚されているから。召喚石だけは絶対に失くさないでね。って言っても売れないし他人に譲渡出来ないから失くせないんだけどね」

 なら言うなよっと言おうとするとエリーは続けて言う。

「でも唯一失くす方法があるの…それはPVPに負けた時。召喚士は自分の召喚石を賭けて闘うことができるの…だから賭けて戦って負けてちゃうと…」

 暗い顔をしてエリーが言う。

「バーカ、心配するなよ。3個しかない召喚石を賭けて戦うかよ。ほら!街に行って必要なもの買って冒険行こうぜ」
「うん!」
「っとその前に、エリー…」
「なに?どうしたの?」

 エリーの服装を見つめる。

「着替えようか」
「えー!なんでー!!」
「そんなハレンチな服装で街中を歩けないだろ!」
「そうかな?」

 エリーは不思議そうに自分の服装を眺める。

「仕方ないな~、マリーが目のやり場に困っちゃうから着替えてあげる」
「そういうことじゃないだけどな」

 エリーは空中でクルリと1回転する服装が変化する。服装は肩がこれでもかと出ている白いワンピースに変わっていた。

「そっちの方が良いな」
「そうかな?ありがと!」

 エリーは嬉しそうに飛び回る。良いぞっていうのは似合ってるって意味と布面積が増えた事に対しての意味である。

「よし!冒険に出発だ!相棒!」
「うん!!よ~し!しゅっぱ~つ!」

 テンションが上がって『相棒』なんて言ってしまった。相棒と言われてエリーもテンションが上がっている。
 マイルームの扉を開き外の世界へと歩き出す。
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