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第1章【覚醒編】

第1章10話 [ダンジョン(前編)]

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 森の中に入ると木漏れ日が差し込み道がキラキラと輝いて綺麗だった。
 来る道中に外から見ているとジメジメしたイメージがあったので驚きである。

「綺麗だね~。森の中に入ると『ジメジメしてて何か出て来そうだな』とか言いたかったのにね」
「そんなこと言って、本当に出てきたらどうするんだよ」

 ふざけながら歩いていると、目の前に俺と同じくらいのサイズのゴブリンが1匹茂みから現れる。

「本当に出てきた」

 ゴブリンは本当に思っていたとおりの薄い緑色の肌をしたガリガリの鬼みたいなかんじだった。

「マリー!ゴブリンだよ!弱点は全属性で打撃も斬撃も全部効くよ!」
「弱点多いな!なんか可哀想だ!」

 とりあえず、様子見でナイトに戦ってもらおう。

「『召喚!』ナイト!」

 目の前の地面に召喚陣が描かれてナイトが召喚される。

「ナイト!召喚して早速だが攻撃だ!」
「グワウ!!」

 頭に思いっきり噛み付くと『パリーン』とゴブリンが粉々に砕ける。

「一撃かよ?!凄いぞ!ナイト!」
「ワンワン!」

 俺に駆け寄って来たナイトの頭を撫でる。

『170Gとゴブリンの牙×1を手に入れました』

 テキストウインドウが表示される。モンスターを倒せば報酬が貰えるようだ。アイテムとお金の稼ぎ方を大体理解した。

「スピカも進化させたいし戦闘に参加させてみるか」
「そうだね!」
「『召喚!』スピカ!」

 ナイト同様に召喚陣からスピカが召喚される。

「スピカを進化させるなら、先ずはマリーがゴブリンに掴みかかって動きを止めてる間にスピカに一撃だけ入れてもらってからナイトが倒せば経験値がマリーにもスピカにも入るよ」
「ゴブリンに掴みかかるのは嫌だな…それに攻撃されたら痛いんだろ?」
「マリーの年齢は10歳くらいでしょ?一応12歳以下だとゴブリンに殴られたくらいはデコピンを思いっきりおでこにされたくらいの痛みだよ」
「デコピンの痛さなんてデコピンする人間にもよるだろ」
「大丈夫!大丈夫!子どもが安心してプレイできるゲームだから!」

 心配だ…ならゴブリンよりも強いモンスターに攻撃されたら痛みはどれほどになるのだろう…。

「12歳以下は…ってことは年齢が上がると痛みは強くなってくのか?」
「うん、成人すると痛みのレベルを変えれて本当の怪我と同じ痛みにすることが出来るようになるよ。する人いないけど」
「そりゃそうだろ」

 わざわざそんなスリルを味わいたいと思うプレイヤーはいないだろう。

「ワウワウ!」
「どうした?」

 ナイトが前方に吠えるので確認するとゴブリンが茂みから1体出てきていた。

「ナイト!スピカ!作戦通りに行くぞ!」
「ワウ!」
「キュイ!」
「頑張~れっ!」

 俺がゴブリンの腕を掴んで動きを止める。STRは俺より弱いのか掴んでも振り解けずにいるがゴブリンが至近距離で「ギャアギャア」叫んできて凄く怖い。

「キュイー!」

 ゴブリンの足にスピカが体当たりで一撃入れるとナイトが噛み付いてを繰り返しながら数体ほどゴブリンを倒していく。戦闘に参加していないエリー以外のみんなのレベルが2つ上がった。

「マリー、このままダンジョンまで攻略するの?」
「ダンジョン?」

 ついさっき思い出した記憶にはダンジョンの記憶なんて無かったけどな。

「もしかして、ダンジョンって今回から実装されたのか?」
「そうだよ!前作の時はサクサク攻略出来過ぎたから今回からは3の倍数の大きな街にはダンジョンが設置されていて、ダンジョンの最奥にある『石』を手に入れないと次の街に入れないんだよ」

 なんだか結構手間だな…。また街に戻ってから来るのも面倒だし、負けても良いから1度チャレンジしてみるか!

「ダンジョン攻略やるか!」
「うん!でも最後のボスのハイオークを倒すにはレベルを4くらい上げないとだね」

 ダンジョンに行く道すがらゴブリンを倒していけば上がっていくだろ。楽観的に考えながらエリーのナビに付いて行き初のダンジョンへと歩みを進める。
 10分ほど歩いていると古い遺跡のような建物に到着する。ここに来るまでにゴブリンを何体も倒した甲斐もあり、エリー以外のみんなのレベルは4まで上がった。

「ここがダンジョンか?」
「そうだよ~!冒険者が1番最初に来るダンジョン。『森のダンジョン』」

 森のダンジョン。たしかに遺跡には木や苔が所狭しと生えている。でも森ってほど生えてはいない。森の中にあるから『森のダンジョン』なのだろうか?どうでもいいことを考えながらダンジョンに入って行こうと入り口に足を踏み入れる。

『シングルモードでよろしいですか?』

 テキストウインドウが目の前に表示される。

「シングルでいいよ。マルチモードだと今から来た知らない人と一緒になっちゃうから」

 エリーが助言してくれたのでシングルモードを『YES』にする。
 薄暗いダンジョンの中へと入って行くと所々に松明の灯りがあるお陰でダンジョン内は明るかった。

「なんだかジメジメした場所だね…何か出そうだよ」
「さっきも言ってたけど、その台詞ハマってんの?あとそこまでジメジメもしてないし!そんなこと言って何か出てきたらどうすんだよ…って、ここも出るモンスターはゴブリンなのか?」
「うん。このダンジョンはゴブリンも出るしゲームの敵キャラでお馴染みのスライムが出るよ」
「おお!スライムか!確かにゲームの敵キャラと言えばだな!」

 そのスライムが出るゲームをした記憶が無いんだけどな…。
 真っ直ぐな道をひたすら歩いていく。
 しかし、歩けど歩けど敵が全く現れない。
 ダンジョンに来る道中の方が敵が出てきたくらいだ。

「エリー、敵が全く出て来ないんだが‥」
「それなら何かゲームしながら行く?」

 いや、暇だから何かしようって誘ったわけじゃない。

「それじゃあ~ね~…『ありそうなカッコいい魔法の名前しりとり』しようよ!」
「そういうのいいから。黙ってモンスターに警戒しながら進もうぜ」

 エリーがゲームに誘ってくるが敢えて断っておく。もしもモンスターが急に現れたら対処出来ないからだ。
 万が一のこと考えて警戒していた方が良いに決まってる。

「え?負けるのが怖いの?もしかして苦手なお題だった?それなら、お題変えてあげようか?」
「そういう事じゃないけどさ」
「どうぞどうぞ、難しかったみたいだし変えてあげるよ?マリーが苦手なお題で勝っても嬉しくないし」

 なんだコイツ…大人なかんじを出しやがって腹立つ!まるで俺が駄々捏ねてるみたいじゃないか。
 あと顔も腹立つ…なんだその余裕な顔。

「やってやるよ!『ありそうなカッコいい魔法』だな!ダサかったら負けだし、本当にある技名を言っても負けだからな!」
「良いよ。どうせ私が勝つし!」

 フフンっという顔で余裕なかんじを出している。絶対に負けたくない!

「俺から先ず、しりとりの『り』で始めるぞ。り、リ~…『リターン・オブ・グラトロス!』」
「やるね!マリー、ありそうだけど絶対にないね。グラトロスって意味分かんないもん!次は『ス』だね、ス…ス…。え~と、ス?…『スロープ・イクイップメント・パラダイス!』」

 略すと『傾斜』で『準備』で『極楽』ってクソダサいな。これは初心者がよくやる、テンパって語呂で適当に言ってしまうってミスだな。

「はい!エリーの負けー!全然カッコ良くないし意味もダサい!」
「うわー!しまった!焦って語呂で適当に言っちゃった!もう1回!もう1回!」

 どうしようかと考えているとナイトが前方に吠える。少し離れたところを見ると小さな水溜りが3個ある。

「ナイト、あの水溜りがどうした?」

 聞いても「ウゥ~」と唸るだけだ。

「なあ、エリー。あの水溜りなんだけど…」
「…やっぱりあの時『ストーム・エクストリーム・グラビテーション』にしておけば…」

 エリーは今だに負けたことにショックを受けているようだ。水溜り?…待て。?水が一切ないダンジョン内で水溜りがあるのは怪しい。
 水溜り…水、そういえばスライムが出るんだったな。

「もしかしてスライムか…?スピカ、ナイト。近づいて出てきたら攻撃するぞ!」

  ナイトは「ワウ」と返事をする。恐る恐る近づいていくと水溜りがバシャバシャと動き出し、目が2つ現れスライムになっていく。

「ナイトは左!スピカは右を!俺は真ん中を攻撃する!いくぞ!」

 各自、分かれて攻撃する。ナイトは噛みついて1撃で倒し、俺もダンジョンに来る道中で覚えた『格闘家』のスキル【正拳突き】で一撃で倒す。スピカを見ると苦戦していたのでナイトが助太刀をして倒す。

「お疲れ、スピカ。ナイトもスライムに気付いてくれてサンキューな」

 2匹の頭を撫でる。ナイトは俺の胸に擦り寄ってきて甘えてくる。スピカもそろそろ進化するんじゃないのかと思いステータスを確認するとレベル4のままだった。もう少しで進化する気がするんだけ。あと1~2体くらいゴブリンを倒せば上がる気がするんだよな。

「見て!マリー!あの扉はダンジョンのボスがいる部屋だよ!」

 自分の世界に入ってしりとりの敗因を考えていたエリーが元に戻っていた。指差す方を見ると大きな扉があった。ここまで戦闘が1回だけって…。ボスまでに、あんまりレベル上げれなかったな。

「勝てるか分からないが挑んでみるか!それと、エリー。次に人の話を聞かなくなったら説教だからな」

「は~い」と軽い返事をされ、俺は初めての強敵に不安と楽しみが半々の気持ちで大きな扉を開ける。
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