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第2章 【仲間探し編(ミツハ)】

第2章18話 [敗北と記憶]

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「ん…」

 目を開けると、目の前にアカネが居た。

「……あれ?俺…負けたんじゃ?」

 俺は負けた筈なのに、コロッセオの中央でアカネの目の前に立っている。
 周りを見るとエリーがいなかった。

「ああ、負けたよ。一回死んで、さっき復活したんだよ」
「っ…」

 やっぱり負けたんだよな…。心の中がモヤモヤする。

「そっか…。ま、まあレベル14のアカネにここまで善戦したんだ!凄いことだよな!」

 俺は無理やりに明るく笑う。ちゃんと笑えてるかな…?

「ああ、そうだ。私相手に善戦したんだ、落ち込むな!あと、これやるよ」

 アカネの手には小さな杖と銀色の腕輪があった。

「え?俺、負けたぞ?」
「こんな凄いスキル貰ったんだ。タダでというのは悪いからな」
「…分かった、ありがと!俺からも約束通り、回復薬を渡すよ」

 お互い交換し終える。

「よし!戻るぞ」
「ああ」

 アカネがメニューを触ると目の前が歪み、アカネと会った場所に戻る。

「それじゃあな、フレンド申請しておいたから登録しておいてくれ」

 アカネは手を振りながら歩いて行く。
 俺とミツハだけが残る。

「ミツハ、わざわざ貸してくれたのにゴメンな…」
「な、何を言う!謝ることなんてない!マリーは凄かった!ホントに凄かった!だからもっとさ…」
「ありがとな…。そうだよな!レベル14のアカネを瀕死寸前まで追い込んだんだ!凄いことだよな!」
「そうだとも!マリー!」

 ミツハにまで気を使わせてしまっている。
 そんなに今の俺って落ち込んだ顔してんのかな。

「これ返しておくよ…」

 ミツハに借りていた賢者の腕輪を返す。

「うん」
「……ミツハ。悪いんだけど、1人でマイルームで反省したいから…あとでまた連絡するよ」
「分かった、連絡待ってるよ」
「それじゃ…!」

 俺は宿屋まで走る。途中、色々な人が見てくるが気にせず走る。
 急がないと目から涙が零れ落ちそうになるからだ。
『宿屋 ガマンし亭』に入る。

「ハァハァ……」

 マイルームに入り呼吸を整える。

「ハァ…ハァ…ううっ…うあああああああ!!!」

 悔しくて涙が出る…。ベットに駆け寄り、何度もベットを殴る。

「うっ、うう…あの時!影をもっと上手く使って呪文を唱えれないようにすれば!!あの時!影で一撃でも攻撃を入れていれば!!あの時…!」

 何度も何度も後悔する。初めてプレイヤーに負けた事も悔しい!
    だが、それ以上にミツハに気を使わせた自分にも腹が立つ!
 ナイトやスピカ、エリーにも申し訳がなかった。
 何度も何度も色々な事がグルグルと頭の中で考えてしまう。
 その度、涙が出る。
 以前、暗黒騎士で負けた記憶を


 俺は…暗黒騎士は強い敵に頑張れば勝てた敵に負けてしまった時、悔しくて街で家の壁を殴っていた。

「クソッ!クソ!クソ!どうして!あの時、呪文を使わなかった…!」

 何度も悔しくて壁を殴る。

「ねぇ!イライラするのも分かるけど、他の人が怖がるからやめてくれない?」

 横から突然声をかけられ見れば、真っ赤な軍服を着て軍服よりも真っ赤な髪をした女の子が立っていた。

「『火炎帝』か…どっか行け。今は誰とも話したくない…」
「バカなの?何でアンタの言うこと聞かないといけないの?それに、ここを通る人が怖がるからやめてって言ってんの」
「……」

 火炎帝の立っている奥の方で人が見ていた。
 俺は冷静になり殴るのをやめ、火炎帝に向き直る。

「……はぁ。悪かったな…」
「分かればいいのよ。にしても、アンタがこんなにイライラしてるの初めて見たわ。誰かに負けたの?」
「いや…、この前、お前と行った氷の巨像にソロで挑んだら負けたんだ…」
「バカね、氷の巨像は暗黒魔法とは相性悪すぎでしょ?それをソロで行くなんて」

 自分でも分かっている、無謀だってことに。
 でも意外と善戦で勝てそうだったんだよ、だからこそ悔しい。

「分かってるよ…」
「…そ。じゃあ、女の子を怖らがらせたバツでご飯奢って」
「はぁ?」
「早く行くわよ!こんな、可愛い女の子を怖らがせたんだから当然でしょ!ほら!」

 火炎帝は俺の腕を引き、歩き出す。
 俺はいつの間にか負けたことなど、どうでも良くなっていた。

「…よし!行くか!セリカ!」
「おっ!調子戻ったな、ユーゴ!よしゃ!食うぞー!」



 俺の昔の仲間との記憶か…?仲間がいたのか?

「ふ…」

 悔しい気持ちが少し和らいだ。
 エリーを召喚しよう。謝りたいし、エリーのテンションで元気にしてもらおう。

「『召喚』エリー」

 魔法陣が現れ、エリーが召喚される。
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