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別荘で生活を続けて一週間経った頃。
私の友達のエミリアが別荘に来た。

エミリアは私の妹のこともヴィルのことも知っている。だから、婚約破棄したことも当然知っている。

「大丈夫?」

彼女は私のことを心配してくれた。

「大丈夫……ではないけど、でも、ずっと塞ぎ込んでるわけにもいかないし」
「あのさ、ここの近くに私の従兄が住んでいるの。エウリコって伯爵なんだけどね」
「うん。その人がどうしたの?」
「リンリが良ければの話なんだけどね、一度会ってみない?」

エミリアなりに私のことを心配して、良い人を紹介しようとしてくれているらしい。

「ありがたいけど、今はそういう気分になれないの」

申し訳ないと思いつつ断った。
私はまだヴィルのことが好きで、なかなか他の男性と恋をするなんて考えられない。

「そう。それなら、しょうがないね。気が向いたら、いつでも言ってね。紹介するわ」
「うん。ありがとう」

私が礼を言うと、エミリアは「どういたしまして」と笑った。
良い友達を持ったなと思う。

その後、エミリアと世間話をし、夕方頃に彼女は帰って行った。




別荘に来て二週間。

だいぶ気持ちが晴れてきた私は、別荘の周りを散歩していた。
別荘の近くには広場があって、子供たちが遊んでいる。
微笑ましいなと思いながら、見ていると、

「元気ですよね」

後ろから男性の低い声がした。
振り返れば、私よりいくつか年上くらいの男性が立っていた。
身長が高くて、黒髪に黒縁メガネをかけている。

「子供たちのことですよ」

彼が子供たちの方を指差す。

「あ、ああ、そうですね」

私は突然話しかけられて、戸惑いながら返した。

「初めてお会いしますね」
「え、ええ。この近くに別荘があって、しばらく滞在してるんです」
「そうなんですか」

と言った後、彼はハッとしてように自己紹介を始めた。
聞き覚えのある名前だった。

「親戚にエミリアって子がいませんか?」
「ああ、いますよ。従妹でね」

彼はエミリアが言っていたエウリコだった。

「友達なんです。あ、私、リンリと申します」
「偶然ですね、リンリさん」

ニコッと笑って名前を呼ばれ、ドキッとした。
私はまだヴィルのことが好きなはずなのに。なぜ、ときめいたんだろう。
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