ヒロインの、はずですが?

おりのめぐむ

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王立貴族学院 一年目

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 まるでキャンパスのような広い空間。
 洋館のような建物が点々といくつか並び、所々に木々が植わっている。
 案内図でもあれば大方見当がつく集合場所。
 なのに、はい、完全に迷ってます。
 ここは王立貴族学院と呼ばれるキングマーク王国内の15~18歳の貴族子息令嬢が通わなければならない学校敷地内。
 そこへ真新しい制服に身を包んだわたしこと、シャルロット・ラぺーシュ伯爵令嬢が入学式にやってきた訳で。
 あ、伯爵令嬢といってもつい1年前まではパン屋の娘として育っていたという平民上がりのエセ貴族令嬢。
 つまりはお母さんが貴族で平民のお父さんと駆け落ちして産まれ堕ちた子ってこと。
 両親が亡くなってそれを知ったお爺様が引き取ってくれたという身の上。
 そこから1年間の付け焼き刃で無理矢理身につけた貴族所作は不完全。
 だけど、王国の忠誠を意味する上でも貴族と名のつくものは通わなければいけないというから仕方がない。
 ま、何だかんだで貴族だからと強制的に在籍させられるところらしい。
 とにかく何のコネも顔見知りもないエセ貴族である元平民が純血統のお貴族様と肩を並べて仲良くとは考えられない環境下に置かれるのである。
 おまけに同学年にはキングマーク王国の第二王子やその婚約者、と、関係者諸々が入学されるという情報。
 
 ……ってなんか、どこかで聞いたことあるような。
 
 金色の蔦模様が襟縁に縫われ、右胸には盾のような紋章がある紺色のブレザーとワンピースを身にまとい、いかにも新入生である佇まい。
 クリーム色の肩までの髪に伯爵家譲りの淡いピンクの瞳。
 美人というよりは可愛らしいがあっている容貌。
 ほんわかとした空気感と愛らしさに見知った顔とは全く異なった姿でビックリ。
 自分の姿に驚いたというからにはそう、前世の記憶があるというおまけ付き。
 といってもこの記憶が戻ったのはつい先程。
 入学式のある講堂に向かう途中、突然めまいがしていつの間にかこんな場所に彷徨ってた時に。
 カラフル感といい、貴族だとかブレザーのコスプレ感とか中途半端な西洋観といい、あり得ない状況。

 ここまでくるとピンとくるよね? 
 そう、どこかで見知った情報が頭を過ぎるってこと。
 
 愛らしい風貌の元平民らしいわたしが王族関係の人たちの通う学校に入学、でもって校内を迷子中。
 この手のハプニングはおそらくイベントといわれる出来事で誰かと出会うきっかけパターン。
 
 つまり、いわゆるゲームっぽい世界に転生してるってことが疑わしい。
 う~ん、これは困った。実に困ったよ。
 敷地内の林っぽい場所をウロウロしながらこの状況に頭を悩ませる。
 あ、迷子の状況もだけど、今現在身に降りかかっている状況も、ってことで。

 よくある転生話。けど、可愛らしい風貌と元平民という肩書。 
 客観視するからしてどう考えてもわたしはヒロイン的ポジションは考えられる。
 この手のゲームは前世で妹がプレイしているのを眺めてだけでよくは知らない。
 キャラがどうのこうのイベントがどうのと騒いでいるのをはたから聞きかじった程度。
 ただ、対象者を選び、相手に対して好感度を上げて両想いにするっていうのが攻略方法だ。
 その対象ってのが大体が王子様、宰相系、騎士系という主軸にプラスアルファで5人程度が主流。
 それぞれ出会ってルートが決まり、そのためにイベントをクリアしていくパターンが定番。
 で、状況的に今はその序盤の出会いイベントに巻き込まれているに違いないはず。

 困ったと悩ませるのはその攻略だ。
 いわゆる恋愛ゲームなんだろうけど、正直苦手の部類に入る。
 そう、前世でも全く恋愛には無縁の生活を送ってきたから。
 悪いけど、恋より食い気の方が勝っていた。
 まあ、妹は2次元にハマってたけどさ。
 まさか死んでから強制的に巻き込まれるとは思いもしない。

 うん、だったらそういったことに一切関わらず、学校生活を送るに限るってことで。
 地味に目立たず、騒がず、大人しく。
 ……ってわたしの身の上、エセ貴族ってヤバくない?
 産まれた時からのお貴族様と並んだ途端、ボロが出たらヤバい気もするけど。
 変に目立たないよう、とにかく極力努力しよう。
 平穏な学校生活を過ごすために!
 まずは誰にも出会わず抜け出そう!

「よっしゃー!」

 そう気合を入れ直し、とりあえずこの状況を打破しようと拳を上げる。
 その時、背後でガサガサと音がし、目線で追うとちらりと人影が映る。

 うん? もしかして出会いイベントが?!
 ヤバイ! ここでがっつり会ってしまったらフラグが立っちゃうとか?
 だ、だ、だ、大丈夫、まだ顔見てない。
 このまま方向を変えて逃げ出せばいける!! はず……!

 そう決めて不自然なまでにギギギ……と顔の方向を変える。
 でもって脱兎のごとく逃げ出そうとしたその時。

「ま、待ってください!」

 焦ったような甲高い声が響いた。
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