エリカに手を出すな!

おりのめぐむ

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POUND5 スイカの逆襲

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「もう、引率はご免だからね!」

 有紀ちゃんは私たちをマンション前に降ろすとさっさといなくなってしまった。

「エリカ、行こう」

 優馬くんはスイカ片手に私を引っ張るとエントランスの方へと向かう。

「あ、ちょっと待ってよ! 優馬くん!」

 揚葉ちゃんが後ろの方で声を上げているけど聞こえていないように歩いていく。
 
「優馬くん、いいの?」

 そう声をかけたけどあっという間にエントランスの中に入ってしまった。

 あの後、有紀ちゃんの怒りのボルテージが上がり、中途半端のまま帰宅することになった。
 優馬くんに抱きつきながら砂まみれで泣いている私に割れたスイカと誰もいない状況。
 事情を知った有紀ちゃんは早々に女の子3人を捕まえ、車内では延々と説教が続いた。
 優馬くんも車に乗ってからはずっと無言を貫き、そして今に至るってわけで。
 気まずい空気の中、玄関先に辿り着いてしまった。

「優馬くん、ごめんね」

「……何でエリカが謝るんだよ。オレがエリカから離れてたのが一番悪かった」

「だって私が失敗しちゃったから迷惑かけたんだよ。そもそも似合わない水着から間違いだったかも」

「違っ、似合わなくない!」

 顔を背けながら優馬くんは声を張り上げた。

「とにかく離れたのが悪かった! それにオレがこんなにしたし」

 優馬くんの抱えていたスイカは中途半端に割れてところどころに砂が混じっている。
 後で知ったけどこの原因は男の人に投げつけた結果によるもの。

「ゴメン。もう、食べれないよな?」

 落ち込んだ様子で優馬くんはスイカを見つめた。

「そんなことないよ。食べられる部分は充分残ってるし」

 元々は海でみんなと食べるために用意したものだったけどこうなればせっかくだから工夫してみようかな。
 
「それじゃあ、優馬くん。またあとでね」

 大丈夫とにっこり笑ってお別れすると早速キッチンに向かう。
 確かフルーツ缶も炭酸水もあったもんね。材料を確認し、一安心。
 いろいろあって疲れたし、すっきりした気分でリフレッシュできたらいいな。
 そう願いを込めて作った後は冷蔵庫で冷やして、お風呂に入った。


「まあ、何なの? おしゃれなパーティーみたいね、凪さん」

「ホント! せっかくだからセレブな感じで鑑賞しましょうよ、遥さん」

 お母さんはグラスカップを両手に抱え、杉本さんと共にテレビのあるリビングのソファーへと移動した。
 私と優馬くんはいつものダイニングテーブルで向かい合う。
 テーブルの中央にはドーンとフチがギザギザに切り込まれたスイカが居座っている。
 あの中途半端に割れていたスイカの砂をしっかりと落とし、不格好な割れの部分を利用してちょうどいい感じにカットし、中身がぐちゃぐちゃでも細かくくり抜き、フルーツ缶でかさ増しして最後には炭酸水で仕上げる。
 割れたスイカでも全く問題ない、フルーツポンチの出来上がり!
 あの破損からは考えられないほどお母さんたちも認めるとってもオシャレな仕上がりになりました。

「はい、優馬くんもどうぞ」

 グラスカップに注いだフルーツポンチを差し出すと驚いた顔を見せる。

「……エリカってすごいな」

「優馬くんには敵わないよ。こんな重いの投げたんだよね?」

 優馬くんはバツが悪そうに顔を逸らしてカップに口をつけた途端、ケホケホとせき込む。
 
「シュワシュワし過ぎ!」

「スイカが怒っちゃったのかな?」

 顔を真っ赤にした優馬くんと笑い合ってやっと二人で楽しめた気がする。
 初めての海は失敗しちゃったけど、今度は一緒に泳げるといいな。
 こんな頼りない私だけど、これからも彼氏としてよろしくね、優馬くん。

(第5話・完/24/01/25)
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