眠り姫のキセキ

おりのめぐむ

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刻み始めた存在

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 活気に満ちたグラウンド。
 ジャージ姿の生徒たち。
 午後からの練習風景。

 私は保健医と共に片隅に。
 体育教師の説明を見守っていた。

「宮村さん、少しでも気分が悪かったら言ってね」

 保健医は厳しい顔で忠告する。
 担任から見張るように注意されたらしい。
 昨日の二の舞はゴメンだとかで。

 全校生徒が広がってラジオ体操を始める。
 そんな中、少し離れた位置で立ち尽くす先生が目に付く。
 屋上で一瞬だけ変えた表情が嘘のように今は無表情のまま。

 あの後、
 責めるでもなく問い詰めるでもなく、
『戻るぞ』の一言。

 鍵を掛けた後は何事もなかったかのように、
 姿を消した。

 初対面での切なげな瞳。
 倒れて病院まで運んでくれた一面。
 屋上での驚いたように叫んだ声。

 無表情で無口の中に隠されてる部分。
 見え隠れする断片に触れる感覚。

 ――私の中で何かが動き出す。
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