3 / 59
3
しおりを挟む
「相変わらずわたくしたちを小バカにしてお出ましのようね。ローザ」
ツンとすました顔でこちらをチラリと見た後、声をかけてきたのは義母。
赤茶色の髪をアップし、深いエメラルドのような瞳を扇の隙間から射るように覗かせる。
妖艶な顔立ちに合わせるように凹凸を誇張する派手なドレスに身を包み、長椅子のソファーに腰かけていた。
その横には幼さと可憐さを持ち合わせた顔立ちの義妹の姿。流行りのドレスを纏い、一瞬驚いたように見開いた深い青緑色の瞳はすぐに様子を伺うような視線を投げかけた。
中央のソファーには眉間にしわを寄せるいつも気難しい顔をした父。
三人からの視線を一身に浴びている空気。知らぬ間に指先が冷たくなる。
見慣れた光景がそこにあった。
「……遅れて申し訳ありません」
咄嗟に口から飛び出した言葉が条件反射のように出ている。
カーラが急がせたのにも拘らず、既に皆は揃っていた。
指定された時間を適当に伝えられ、故意に失敗させられるのはよくあったと思い出す。
「ルシードより尊大と思っているものね。あの侍女長と同じく」
聞きなれた言葉。義母の発言はいつも嫌悪していると主張していた。
初対面の時から顔を合わせようともせず、すぐに私を離れに追いやると自分の娘であるアラベルを優遇していた。
その証として顔合わせの機会があれば見せつけるようにアラベルに真新しいドレスや宝飾品を宛がった。
そして両親の間にアラベルが立ち並ぶ姿。それが当然のように繰り広げられる。
私が受け入れてもらえなかった位置を何度も見せつけられていた。
伯爵家の担い手は自分たちなのだと。
父は義母が強請れば何事もないように受け入れた。特に義母が着飾ることには迷いがない。
母には果たさなかったことに対して義母には尽くすばかりの状況。
後継者としての私は役立たずで支えることすら出来ず、足手まとい。
何も言えず、ただ見ていることしかできない。
いくらカーラが主張しても血統だけではどうにもならなかった。
このどうしようもない関係を改善したかった。私は明らかにグランシア家で爪弾きにされていた。
もともと父から冷遇されていたせいもあるが再婚してからもっと酷くなったのも判らなかった。
私が後継としての頼りなさを払拭して伯爵家に尽す成果を上げなければと思っていた。
歩み寄ることにより、努力を怠って血統を主張しているという勘違いを解きたかった。
ただ円満に伯爵家を一緒に支えていきたいと切望しただけ、と。
そんな私の思いが通じない理由など考えもしなかった。
義母であるマチルダ・グランシア伯爵夫人は元々は酒場で有名な給仕だったらしい。
妖艶な美しさと魅惑的な体つきで一番の売り上げを誇り、評判高い魔性の美女。
その美貌ゆえ、様々な男性を虜にし、子爵家の次男だった父もその一人だった。
恋仲となった二人の間に突然、母からの縁談が持ち掛けられ、引き裂かれたらしい。
義母はその後、老齢のシーカー男爵に見初められ後妻となり、義妹であるアラベルが産まれた。
時を経て偶然パーティーで再会を果たし、互いが独り身となった後、再婚に至った。
この事情は母を侮辱していたと憤慨したカーラから秘密裏に聞かされて知る。
そんな関係性があったからか、母の血をひいた私を最初から嫌っていたと理解できた。
けれどこのことが判ったのは、確か……。
そう思考を巡らせた途端、こめかみ辺りに激痛が走った。
ツンとすました顔でこちらをチラリと見た後、声をかけてきたのは義母。
赤茶色の髪をアップし、深いエメラルドのような瞳を扇の隙間から射るように覗かせる。
妖艶な顔立ちに合わせるように凹凸を誇張する派手なドレスに身を包み、長椅子のソファーに腰かけていた。
その横には幼さと可憐さを持ち合わせた顔立ちの義妹の姿。流行りのドレスを纏い、一瞬驚いたように見開いた深い青緑色の瞳はすぐに様子を伺うような視線を投げかけた。
中央のソファーには眉間にしわを寄せるいつも気難しい顔をした父。
三人からの視線を一身に浴びている空気。知らぬ間に指先が冷たくなる。
見慣れた光景がそこにあった。
「……遅れて申し訳ありません」
咄嗟に口から飛び出した言葉が条件反射のように出ている。
カーラが急がせたのにも拘らず、既に皆は揃っていた。
指定された時間を適当に伝えられ、故意に失敗させられるのはよくあったと思い出す。
「ルシードより尊大と思っているものね。あの侍女長と同じく」
聞きなれた言葉。義母の発言はいつも嫌悪していると主張していた。
初対面の時から顔を合わせようともせず、すぐに私を離れに追いやると自分の娘であるアラベルを優遇していた。
その証として顔合わせの機会があれば見せつけるようにアラベルに真新しいドレスや宝飾品を宛がった。
そして両親の間にアラベルが立ち並ぶ姿。それが当然のように繰り広げられる。
私が受け入れてもらえなかった位置を何度も見せつけられていた。
伯爵家の担い手は自分たちなのだと。
父は義母が強請れば何事もないように受け入れた。特に義母が着飾ることには迷いがない。
母には果たさなかったことに対して義母には尽くすばかりの状況。
後継者としての私は役立たずで支えることすら出来ず、足手まとい。
何も言えず、ただ見ていることしかできない。
いくらカーラが主張しても血統だけではどうにもならなかった。
このどうしようもない関係を改善したかった。私は明らかにグランシア家で爪弾きにされていた。
もともと父から冷遇されていたせいもあるが再婚してからもっと酷くなったのも判らなかった。
私が後継としての頼りなさを払拭して伯爵家に尽す成果を上げなければと思っていた。
歩み寄ることにより、努力を怠って血統を主張しているという勘違いを解きたかった。
ただ円満に伯爵家を一緒に支えていきたいと切望しただけ、と。
そんな私の思いが通じない理由など考えもしなかった。
義母であるマチルダ・グランシア伯爵夫人は元々は酒場で有名な給仕だったらしい。
妖艶な美しさと魅惑的な体つきで一番の売り上げを誇り、評判高い魔性の美女。
その美貌ゆえ、様々な男性を虜にし、子爵家の次男だった父もその一人だった。
恋仲となった二人の間に突然、母からの縁談が持ち掛けられ、引き裂かれたらしい。
義母はその後、老齢のシーカー男爵に見初められ後妻となり、義妹であるアラベルが産まれた。
時を経て偶然パーティーで再会を果たし、互いが独り身となった後、再婚に至った。
この事情は母を侮辱していたと憤慨したカーラから秘密裏に聞かされて知る。
そんな関係性があったからか、母の血をひいた私を最初から嫌っていたと理解できた。
けれどこのことが判ったのは、確か……。
そう思考を巡らせた途端、こめかみ辺りに激痛が走った。
3
あなたにおすすめの小説
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
能ある妃は身分を隠す
赤羽夕夜
恋愛
セラス・フィーは異国で勉学に励む為に、学園に通っていた。――がその卒業パーティーの日のことだった。
言われもない罪でコンペーニュ王国第三王子、アレッシオから婚約破棄を大体的に告げられる。
全てにおいて「身に覚えのない」セラスは、反論をするが、大衆を前に恥を掻かせ、利益を得ようとしか思っていないアレッシオにどうするべきかと、考えているとセラスの前に現れたのは――。
乙女ゲームの正しい進め方
みおな
恋愛
乙女ゲームの世界に転生しました。
目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。
私はこの乙女ゲームが大好きでした。
心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。
だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。
彼らには幸せになってもらいたいですから。
公爵家の養女
透明
恋愛
リーナ・フォン・ヴァンディリア
彼女はヴァンディリア公爵家の養女である。
見目麗しいその姿を見て、人々は〝公爵家に咲く一輪の白薔薇〟と評した。
彼女は良くも悪くも常に社交界の中心にいた。
そんな彼女ももう時期、結婚をする。
数多の名家の若い男が彼女に思いを寄せている中、選ばれたのはとある伯爵家の息子だった。
美しき公爵家の白薔薇も、いよいよ人の者になる。
国中ではその話題で持ちきり、彼女に思いを寄せていた男たちは皆、胸を痛める中「リーナ・フォン・ヴァンディリア公女が、盗賊に襲われ逝去された」と伝令が響き渡る。
リーナの死は、貴族たちの関係を大いに揺るがし、一日にして国中を混乱と悲しみに包み込んだ。
そんな事も知らず何故か森で殺された彼女は、自身の寝室のベッドの上で目を覚ましたのだった。
愛に憎悪、帝国の闇
回帰した直後のリーナは、それらが自身の運命に絡んでくると言うことは、この時はまだ、夢にも思っていなかったのだった――
※月曜にから毎週、月、水曜日の朝8:10、金曜日の夜22:00投稿です。
小説家になろう様でも掲載しております。
妾の嫁入り
クマ三郎@書籍&コミカライズ3作配信中
恋愛
古川家当主の妾の子として生まれ育った紫乃は、母を早くに亡くし、父の本妻とその息子から虐げられて暮らしてきた。
二十歳になった紫乃は、ある日突然深川の名家水無瀬家へ行くように命じられる。
紫乃に与えられた役目は【妾】として生きること。
てっきり父より年上の男の妾になるのだと思っていた紫乃だったが、相手は水無瀬家の嫡男瑛久であるという。
瑛久には既に妻がいたが、夫妻はどうにもできない不幸を抱えていた。
少しずつ心を通わせていく瑛久と紫乃。
しかし瑛久の妻蒔子は次第に心を壊していく──
社員旅行は、秘密の恋が始まる
狭山雪菜
恋愛
沖田瑠璃は、生まれて初めて2泊3日の社員旅行へと出かけた。
バスの座席を決めるクジで引いたのは、男性社員の憧れの40代の芝田部長の横で、話した事なかった部長との時間は楽しいものになっていって………
全編甘々を目指してます。
こちらの作品は「小説家になろう・カクヨム」にも掲載されてます。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる