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第6話 神薙塔矢①-6
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かくして俺は、三年生となった今年の桜蘭祭で何かをしなければいけなくなったわけなのだが、反発する脳がそのことをすっかり忘れ去ってしまっていた。
「よく思い出させてくれたな、橘。お前に感謝する日が来るなんて驚きだよ」
「決まってないどころか忘れてるなんて、そっちの方が驚きだよ。このままじゃ神薙君、【眠れる屋上の貴公子】じゃなくて、【眠れる廊下の貴公子】になっちゃうよ」
「その異名はすごくどうでもいい。ていうか、なんで屋上が駄目になったら廊下で寝ると思ってるんだよ」
けらけらと笑う橘。その後ろで未だまともに喋ろうともしない日渡。橘は俺をからかいに来たのだろうが、日渡は一体何をしにここに来たのだろうか。橘と日渡がどれだけ仲が良いと言っても、本当に四六時中一緒にいるわけでもないだろうし、わざわざついて来なくてもよかっただろう――俺のためにも、お前のためにも。
「からかい終わったなら、もう戻ってくれないか。寝る時間がなくなるだろ」
「ごめんごめん。からかいに来たんじゃないんだよ、手伝おうと思って来たの。神薙君一人じゃ、さすがに大変だろうなと思って」
「手伝い? もしかして、日渡もか?」
「そうだよ。あと、力仕事もあるかもだから、男子ももう一人誘ってる」
正直なところ、手伝いの申し出は非常にありがたかった。橘が話題にしてくれなかったら出し物の準備を忘れてしまっていたぐらいに、俺一人では不安しかない。
だが、どうしたことか。橘やどこかの男子が手伝ってくれるのは構わないが、まさか日渡までも参加するとは――。学校では出来るだけ日渡を視界に映さないようにしてきたのに、一緒に活動をするとなるとあいつの姿を視認することは避けられないだろう。これから毎日眠れない日々が続くということか……。
「まずは、何をするか考えるところからだよねぇ。桜蘭祭まであと一週間しかないから急がないと」
桜蘭祭が行われるのが五月三十日。そして現在は、五月二十三日。どうせなら橘も、もっと早く声をかけてくれてもよかったのに、なんて助けられている側が心の中で文句を言ってみる。
「一応、してみたいことはあるんだ」
「――お! なになに?」
小さい頃、近所のデパートに行くと屋上でイベントをしていた。イベントの内容は全く覚えていないが、俺は例の女の子と一緒に風船をもらいに定期的にその場所へ行っていたのを覚えている。
帰り道に二人並んで風船から伸びる紐を持ち、ぷかぷかと浮かぶ風船を眺めた。そして家に着くと、二人同時に手に持っていた紐を放し、二つの風船を空中に解き放った。風に左右されて自然の中に消えていく風船を目で追いながら、その先にある空を二人で一緒に見上げるのがたまらなく好きだった。
「風船を、飛ばしたい。セレモニーの開幕式なんかでよくあるような、大量の風船を空に飛ばしてみたいんだ」
「よく思い出させてくれたな、橘。お前に感謝する日が来るなんて驚きだよ」
「決まってないどころか忘れてるなんて、そっちの方が驚きだよ。このままじゃ神薙君、【眠れる屋上の貴公子】じゃなくて、【眠れる廊下の貴公子】になっちゃうよ」
「その異名はすごくどうでもいい。ていうか、なんで屋上が駄目になったら廊下で寝ると思ってるんだよ」
けらけらと笑う橘。その後ろで未だまともに喋ろうともしない日渡。橘は俺をからかいに来たのだろうが、日渡は一体何をしにここに来たのだろうか。橘と日渡がどれだけ仲が良いと言っても、本当に四六時中一緒にいるわけでもないだろうし、わざわざついて来なくてもよかっただろう――俺のためにも、お前のためにも。
「からかい終わったなら、もう戻ってくれないか。寝る時間がなくなるだろ」
「ごめんごめん。からかいに来たんじゃないんだよ、手伝おうと思って来たの。神薙君一人じゃ、さすがに大変だろうなと思って」
「手伝い? もしかして、日渡もか?」
「そうだよ。あと、力仕事もあるかもだから、男子ももう一人誘ってる」
正直なところ、手伝いの申し出は非常にありがたかった。橘が話題にしてくれなかったら出し物の準備を忘れてしまっていたぐらいに、俺一人では不安しかない。
だが、どうしたことか。橘やどこかの男子が手伝ってくれるのは構わないが、まさか日渡までも参加するとは――。学校では出来るだけ日渡を視界に映さないようにしてきたのに、一緒に活動をするとなるとあいつの姿を視認することは避けられないだろう。これから毎日眠れない日々が続くということか……。
「まずは、何をするか考えるところからだよねぇ。桜蘭祭まであと一週間しかないから急がないと」
桜蘭祭が行われるのが五月三十日。そして現在は、五月二十三日。どうせなら橘も、もっと早く声をかけてくれてもよかったのに、なんて助けられている側が心の中で文句を言ってみる。
「一応、してみたいことはあるんだ」
「――お! なになに?」
小さい頃、近所のデパートに行くと屋上でイベントをしていた。イベントの内容は全く覚えていないが、俺は例の女の子と一緒に風船をもらいに定期的にその場所へ行っていたのを覚えている。
帰り道に二人並んで風船から伸びる紐を持ち、ぷかぷかと浮かぶ風船を眺めた。そして家に着くと、二人同時に手に持っていた紐を放し、二つの風船を空中に解き放った。風に左右されて自然の中に消えていく風船を目で追いながら、その先にある空を二人で一緒に見上げるのがたまらなく好きだった。
「風船を、飛ばしたい。セレモニーの開幕式なんかでよくあるような、大量の風船を空に飛ばしてみたいんだ」
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