僕と勇者

ぽこ 乃助

文字の大きさ
12 / 19

しおりを挟む
 一時間ほどが経って、打ち据えることに疲れ果てた村人たちはその場にへたりこんだ。僕は這いずりユーリカの下から出て、彼女の身体を支えた。彼女は大量の血を流していたけれど、顔色は僕よりも良いように見えた。僕が声をかけると、彼女は平然と返事をする。

 血だらけになった身体のまま、ユーリカは何事もなかったかのように立ちあがった。よく見ると、時間が経って固まった血液は多いが、新しく流れているものはない。僕が不思議そうに見つめていると、ユーリカは「治癒魔法だよ」と教えてくれた。どうやら彼女は、既に魔法によって自身を癒していたようだった。

 ユーリカは村人たちの側まで歩いて行くと、腰間の鞘に手をかけた。村人たちは息を呑み、中には悲鳴を上げて這いずり回る者もいた。
 彼等は恐怖から逃れようと意識を失い始めた。伝播して、次々と村人たちが意識を失い倒れ始める。意識を保っていては逃れない現実から、彼等は必死に逃げ始めた。

 僕には分かる。ユーリカは、剣を抜くつもりなどない。彼女は、あれだけの仕打ちを受けてなお、誰も傷つけようとはしていない。
 僕はそんな彼女を、優しい、とは思えなかった。
 
 ユーリカは腰の留め具を外して、剣を鞘に入れたまま放り投げる。投げられた剣は苦渋の色を漂わせながら地に落ちて、意識を保っていた数人の村人の前に差し出された。村人たちは困惑して、互いに顔を見合わせた。誰もユーリカの意図を理解できない。けれど、僕は出来た。

「その剣は、私に敵意がないことの証明です。これで、私にはなんの武器もありません。どうか、私を理由にアラムを傷つけるのをやめていただけませんか」

 村人たちは一斉に、転がった剣に飛びついた。手に持った村人が全速力で走り出し、脇道に入る。どこか、見えない所で家の扉が開く音がした。

 ユーリカは僕の方を向いて、笑顔を見せた。その笑顔は、無理矢理形作られた、人形よりも不自然極まりなかった。彼女の身体は震えだして、口角が歪む。僕は起き上がり、彼女を抱き締めたいと思った。けれど、身体は動かなかった。痛みが鮮明に、身体中を駆け巡る。

 村人たちは解散して、場には僕とユーリカだけが残った。ユーリカは僕に治癒魔法をかけてくれて、僕は身体の自由を取り戻した。意識も、はっきりとしている。

「ユーリカ、まだどこか痛むのかい?」

 ユーリカの震えは止まらない。むしろ、ひどくなっているようだった。顔は青ざめて、歯は上下がぶつかりかたかたと音を立てている。さっき見た村人の中に、同じようにしている者がいた。

「何に、怯えているの?」

 ユーリカは深呼吸した後、ゆっくりと言葉を発する。

「随分と長い間、凄惨な戦いの場で生きてきたんだ。だから、剣がないとすごく不安になってしまうんだよ。剣は、私にとってお守りみたいなものなんだ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生先はご近所さん?

フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが… そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。 でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

処理中です...