詰め合わせ箱

サカタ毒林檎

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無知

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「そんなこと、言ってたっけ。」
誰に問う理由でもなく、肯定するためにわざと口に出した疑問に、馬鹿の瑛が答えた。
「おい、樹~、言ってただろ~。壬生ちゃんが、珍しく。」

壬生ちゃんと言うのは、俺らの数少ない女友達の一人だ。瑛と俺、樹の幼馴染みと言い換えることも出来る。

僕には、記憶がない。それも、『壬生』に関することだけ。壬生と瑛、そして俺は、幼馴染みということや、壬生が何か言っていたことは情報として覚えているのだが、顔や声、性格髪の長さなど、壬生自身のことについては全く覚えていないのだ。壬生が事故で所謂、植物人間状態になっているのは、いつからだったか。最期に俺は、何の話をしたのか。何をしたのか。全くわからない。

「瑛、壬生は、最期、何て言ってたんだっけ。」
こんなにも、驚いた顔をする瑛は、初めて見た。
「なにいってんだ、お前。別人なのかよ。あんなに珍しい内容だったのに、お前の話だったのに。俺は!俺が可愛そうで仕方ないよ。」
瑛の言っていることが逆に俺には理解出来なかった。

どうして、自分のことを可哀想とかいってんの?
どうして、俺の話を思い出せないの?
どうして、……………

「瑛、」
「樹、お前が、大事な事をそんなに忘れるやつだとは思ってなかったよ。」
「瑛?」
「お前なんて知らない。」

瑛が、教室から出ていく音が消える。壬生は、何の話をしていたんだっけか。

「知らないよ。ほんとに全部聞いてないんだ。壬生が最期に言った言葉も。」



───────────────
「私、樹のこと好きなんだ。でも、私もう少ししたら、どうなるかわからない。このことは忘れて。絶対、忘れて。」

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