上 下
19 / 38
第三章

第17話 心半ばに散った勇者達 後半

しおりを挟む
 再び、女将が話しかけてきた。

「そうそう、草原に黒い悪魔が出たらしいよ、そいつはとんでもなく危険なやつでね、たしか、あんたも草原に行くって言ってなかったかい?」

 女将が草原で起った事を話し出した。予言に出てくる三匹の黒い悪魔によって、剣星のマーカス、自由騎士オルステッド、山田太郎の三英雄が殺されてしまったとか……

「黒い悪魔か、ああ、あれか、たしかに3匹いたな。もう倒したぞ」

「馬鹿な冗談はやめときな、さすがの私も怒って殴るよ?」

 殴るよじゃなく、殴ってるだろが。

 女将の無拍子むびょうしによる突きを俺は避けた。気配を消した予備動作なしの突きだ。俺じゃなかったら、顔面に風穴が空いてるぞ。

「手加減したといえ、あれを避けたのかい、へぇ、あんた、意外とやるねぇ」

「このくそばばぁがぁ……」

『それって……まさか』

 エスカーナ、どうしたんだ?

『なんでもないですよ?』

 そうか……

「まぁ、あんたも黒い悪魔には気をつけな、こんなときにハワードは一体何をしてるんだろうね」

「ハワードって誰だ?」

「へぇ、あんたは知らないのかい、この国の勇者様のことさ。殺された方の方じゃないよ、あれは女癖が悪い、あんまりいい噂がなかった教会の勇者だしね。ハワードは文武両道でできた好青年さ、ほら、あそこに写真があるだろう。銀色の髪をした赤い瞳の子がいるだろう、うちの国の代表で、あれは、たしか闘技大会に優勝した頃の写真だね」




「真の勇者は俺のはずだが?」

「あははは、あんた、冗談がうまいね、あんたはまず、まともな人間になってちゃんと働きな」

 肩を思いっきり叩かれた。思いのほか痛いぞ。しかも、思いっきし、笑いやがって、このくそばばぁ。

『はて、ハワードですか、どこかで……』

 知っているのか?

『あっ、思い出しました。竜也さんが持っている異次元袋(大)があるじゃないですか』

 あれか、生きているモノ以外1000個までアイテムが収納できる。スラッキーと野盗どものアイテムを回収するのに便利だったあれか。

『そうそう袋の隅のほうに、たしか名前が……』

 ああ、確かに名前が書いてある、ハワードだな。それがどうした?

『いえ、なんでもないんです。きっと、きのせいですよ』

 そうか。

 その時、壁を修理している親父が、

「ハワードのやつ、カーナの森に聖剣を取りに行くって言ってたぞ」

「そうだったのかい? いつ戻ってくるんだろうね」

 俺は背中に背負った聖剣エスカーナを見つめた。

『えへへ』

 俺は、袋から『まいぺーん』を取り出し、ハワードの名前を塗りつぶした。これで大丈夫だ。

『さすが、竜也さん、さりげなく証拠隠滅しましたね』

 この袋、道具屋で20000Gはするからな。ハワードとやら、安らかに眠ってくれ。これは俺が有効活用してやる。そうだな、暇なときにでも森に行くとするか、墓石でもたててやろう。勇者ハワード、ここに眠るってな。

『そうですね。綺麗なお花がいっぱい咲いてますから見に行きましょうね』

 俺たちは、心半ばに散った勇者に哀悼の意を捧げた。
しおりを挟む

処理中です...