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第六章

第29話 バトル? その1

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 俺達はアルフィの村に到着し、まずは宿屋にチェックインをした。まだ日が明るい。寝るには早いからな。ひとまず村周辺のモンスターを倒して金を稼ぐことにした。

「やぁー!!」

 猪の魔物、イノサンに向けてミリカちゃんは殴る蹴るして見事な回し蹴りを放っていた。

 ゴブオに怯えていたミリカちゃんが、目の錯覚だろうか。

 俺から蜘蛛の子を散らして逃げる魔物に、私に任せてください、これでも、わたし、けっこう、強いんですと、ミリカちゃんは可愛らしくガッツポーズしていた。かなり心配な俺なのだが、離れてミリカちゃんを見守ることにした。

 もしかしてミリカちゃんは……

「なぁ、エスカーナ、イノサンと森にいたゴブオとどっちが強いんだ?」

「うーん、ゴブオのほうが強いんじゃないですか」

「そうか、そうだよな、ミリカちゃんと森で死んでた村人Aだと、どっちが強いんだ」

「うーん、ボールにされていた村人Aの装備がかなりのレアでしたから、装備の差で村人Aの方が少し有利かもしれませんね」

 なるほど、ミリカちゃんはやっぱり弱いのか。村人クラスの強さでゴブオ以下なのか。ふむ、ミリカちゃんは強くなりたいと言っていたからな。暴漢から身を守る護身術程度でも教えてやったほうがいいだろうな。それにしても暇だな。
 
 試しに暗殺拳でも使ってみるか。これはミリカちゃんから吸収したスキルだ。その一つでも使ってみるか。

 手のひらに光の波動が集まってくる。それが大きな丸い球体となっていく。イノサンにそれを投げつけた。それは豪速球となってイノサンを粉みじんに吹き飛ばした。

 やはり、一撃か、イノサンはやはり雑魚なのか。これは遠距離攻撃として使い勝手がいいな。波動球はどうきゅうと名付けよう。もう少し力の加減をしないとだめだな。練習してみるか。

 ミリカちゃんは、

「たぁー!」

 まだ頑張っているようだな。とりあえず他の暗殺拳でも使ってみるか。

「わが生涯に一片の悔いなしってか」
「だめですよ、それを言っては」
「なんとなくだ、なんとなくだ」

 俺のアッパーから放たれた闘気の波動が大型の竜巻となって、周囲を巻き込みながら駆けていく。これはハリケーンアッパーと名付けよう。なかなか消えないな。おいおい、どこまで行くんだ。お、見えなくなったぞ。まぁいいか。

「ミリカちゃん、まだ頑張ってるな」
「むむむっ、わたしも、見てくださいよ、てーい!」

 エスカーナは近くにいたイノサンに包丁を投げた。見事にイノサンの頭部を貫通している。イノサンはドテッと崩れ落ちた。

「わたしも頑張りましたよ、ねぇ竜也さん」
「あーがんばったね、えらい、えらい」
「むっ、心がこもってないです」

⭐︎⭐︎⭐︎

「おにぃさん、やりました! はうっ」

 ミリカちゃんが見たものは、イノサンの山積みの死体だった。片やミリカちゃんは経ったの一匹しか倒していない。かなりショックを受けているようだ。

⭐︎⭐︎⭐︎

「解体も終わったし、そろそろ村に戻るか、まあ、ミリカちゃん、そう落ち込むな。今はとっても弱くても仕方がないだろう」

「はうっ」

 よわい。

「とってもかょわい女の子だからな」

 かよわい。

「怪我をしたら大変だしな、魔物退治なんてもうやめて、宿屋で俺達の帰りを待ってくれてもいいんだぞ」

 戦力外通知のお留守番。

「ううっ」

 なんだ、ミリカちゃん、さらにショックを受けてるじゃないか。

「竜也さん、もうやめてあげてください。ミリカちゃんのライフがゼロになりますよ」

「なんだって、怪我をしたのか、ミリカちゃんは、とっても身体の弱い女の子なんだから、無理してはダメだろう」

「うぐっ、えぐぅ」

「み、ミリカちゃん、どこか痛むのか」

「竜也さん、酷いです。愛の勇者なのに乙女心が全く分かってないです。今回は流石にダメですよ。今日は反省するまでエッチはなしです。今日は竜也さんは別の部屋で寝てください。ミリカちゃん、帰りましょうね」

 なぜなのか、分からんが、寂しい夜になってしまった。

 次の日、とりあえず謝ることにした。

 ミリカちゃんは、「わ、わたし、もっと、強くなりますから」と、言っていた。商人の娘のミリカちゃんに強さが必要なのだろうか。

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