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外伝 血塗られた冒険の書

第2話 

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 -side -井上涼子いのうえりょうこ

 猫の穴の招待状と血塗られた冒険の書?

 メイドさんにこれらものをもらったのはいいけど、これはもしかして噂にあったアリシアの隠されたイベントアイテム? 

 私は猫の穴の招待状を開いてみた。

 あなたがヤりたい思いが強い時、あなたのヤりたい事が叶うようにあらゆる力を使って、猫の穴が全力をもって鍛えてあげますにゃん。

 そんな文字が綴られていた。意味がわからない。

 なにこれ、ネタアイテム?

 私は猫の穴の招待状を机の上にそっと置いた。

 次は黒いカバーがついた日記のようだけど、変わったところがあるとすれば、どす黒い血痕のようなものが所々についていた。まさか、これを鈍器に使えば無双できるとか?

 タイトルはなになに?

 アリシアの最期 著作 井上涼子 

 なぜか、著作が私の前世の名前になっている。

 どういうことなの?

 さっそく、読んでみよう。
 
 1ページ目。

 わたくしの名前はアリシア。

 学園の卒業パーティの席で、

 わたくし、もうこれ以上は、我慢できなかった。

 何度も何度も犯されたり、殺されたり、大切だった彼を何度も奪われて、しかも、彼に何度も裏切られるだなんて、もう、何もかも嫌になったわ。そんなわたくしを、また、ナーシャ様が鼻で笑ったの。こんな屈辱を何度も何度も……

 わたくしは初めての暴力を振るおうとした、そう、ナーシャ様に平手打ちしようとした。

 だけど届かなかった。

 王子の側近、騎士団長の息子ササレタ様に手首を掴まれて……

 そのあと激怒したササレタ様が、わたくしを突き飛ばし……

 勢いよく飛ばされたわたくしは地面に転がった。

 だけど、それだけでは終わらなかった。

 倒れているわたくしに向かって剣を振り下ろしてきた。

 わたくしは両手足を切り落とされ、もがき苦しんだ。

 そんな地面に伏した、わたくしの頭部をササレタ様が容赦なく踏みつけた。

 泣き叫ぶ、わたくしをあざ笑い、最後はわたくしの首を公衆の面前ではねとばした。

 わたくしは、なにも悪くないのに、どうしてそこまでなさるの?

 もう、許せない。

 絶対にゆるせないわ。

 わたくしが殺されるの黙って見ていたあの人達も……

 何度も何度も、わたくしを犯したあの人達も……

 だけど、最高級の宝石と引き換えに猫神様から授かった、このギフト【冒険の書】をもってしても、わたくしには、どうすることもできなかった。

 やはり、この人達に話し合いで解決するなんて夢のまた夢なのよ。

 もう何度、裏切られたことか、親身になってくれたあの人達も、わたくし、もうアリシアとして生きていくのに疲れました。

 そうね、わたくしが、ここで、あきらめて……

 いえ、ギフトを利用して彼らを……懲らしめてやれば……

 うふっ……だめよね。

 復讐は何も生みだしませんから……

 ここで、わたくしは、すべてをあきらめることにします。
 
 さようなら。

 1ページ目を読み終えて、しばらく余韻に浸っていた。

「どういうこと? これが、わたしの運命? う、うそだよね。あれ、手足が動かない、いたい、いたい、なにぃ、これ、うぎぃ、手と足が、いダーーーーーーーーーーーい!!」

 私の叫び声とともに、突然、手足がはじけ飛んだ。

「えっ、ええ、なにぃ、こりぇ? どして、うでが、あしも、うぎぃああああああああ!! 血があああああ、血があああ、やぁだあああぁああああ!!」

 血が噴水のようにふきだし、私は転がるようにベッドから落ちた。

 あまりの激痛に失禁し、涙が止まらない。口から涎をたれ流し、もう、めちゃくちゃだった。

「ぃぁだ、たずけて、しにだくない、だれが」

 それらの汚物が絨毯にしみ込んでいく。

「いぎぃ!!」

 続いて、見えない何かの重しが頭にグッとおしつけられた。

 ものすごい力で、

 敷いていた絨毯に顔がめりこんでいく。

「うぎぃぃ、いだぃ、いだぃよぉ!!」

 そして、スパーンと私の頭が飛んで絨毯に転がり落ちた。

 私の意識は完全に途絶えた。

★★★

 あなたの新たなギフトが発動しました。

 あなたがこれまでに行ってきた冒険の書の経験を【血塗られた冒険の書】に上書きしますか。YES/NO

 上書きしました。

 あなたは復讐を開始しますか、それともあきらめて良心のまま天国に向かいますか?

 了解しました。

 それでは良き、復讐の旅を。

★★★

 ここは、どこ?

 わたしの手と足は?

 ああ、ちゃんとついてる。

 なにこれ?

 右手の甲に1の数字が刻まれていた。

 こすって消そうとしても消せない。

 あれ、消えた?

 今はそんなことより、

 首に触れてみる。

 良かった、ある。

 さっきのは夢だったの?

 今、何時だろう。

 時計は午前1時を過ぎていた。

 あれから1時間?

 血塗られた冒険の書が私の側に落ちていた。

 冒険の書に触れた瞬間。
 
 赤く濁った光が私の身体に溶け込んだ。

 ササレタに斬り殺されたアリシアの経験、知識、力、が私の身に宿ったのだ。

 そうだったんだ、あれは伯爵令嬢アリシアに起こった結末の一つ。

 ねぇ、わたしが蘇ったということは、あなたも、まだここいるのでしょう。

『わたくしには、もう、どうすることもできない』

 アリシア、あなた、本気で言っているの? 

『それに復讐は何も生みだしませんから』

 あなたはこのまま天国に逝くつもり? 

『…………』

 本当は復讐したいのでしょう。何も生み出さないって、そんなわけあるか、何度も、何度も、無様に犯されて殺されたら、許すどころか、わたしだったら、あいつらを、

「「皆殺しにしてヤる」りたい」

 わたし、わたくしの心は復讐に支配された。そして、復讐の心が完全に一つになった。

 -side 

 悪役令嬢アリシアちゃん LV1

 今のわたくし達ではきっと何もできない。

 だから、わたしは力が欲しい。

 わたくし達は何かに導かれるように、血塗られた冒険の書を拾いあげた。

 ごくりと唾を飲みこむ。

 あの痛み、苦しみをもう一度、味わうのかしら、もっと酷いことになるかもしれないわよ? あなたは本当にいいの?

 でも、わたしは怯える毎日を送るだなんて絶対嫌だ。毎日時計を見て怯えるなんて嫌よ、あなたもそうよね。あいつらにも、同じ気持ちを味合わせてやるわ。いまの私達は、伯爵令嬢じゃない、そう、「悪役令嬢」なのよ。

 私達は覚悟を決めて血塗られた冒険の書を開いた。

 1ページ目が白紙になっていた。

 なにも書かれていない、どうしてなんだろう。疑問符を浮かべながら、血塗られた冒険の書を閉じた。
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