えっ俺が憧れの劉備玄徳の実の弟！兄上に天下を取らせるため尽力します。

4章 三国鼎立

天才軍師の策とは？

　諸葛亮のいる臥竜崗を訪ねた蔡瑁は諸葛亮に独り言のように自身の考えを話す。
　蔡瑁「義兄上の様子がおかしくなった。変な道士の諫言に乗り、劉備を攻めた。温厚な義兄上らしくなく怒り狂ったように。かつて信頼して太守を任せたが民に圧政を敷いたことで関係を絶った張子雲や史璜まで招集し大規模な攻勢だった」
　諸葛亮「確かに名君と呼ばれた劉表殿らしくない行動ですね」
　蔡瑁「あぁ。これは完全に愚痴だったな。俺は、こう考えている。何者かが荊州を狙っている。それも近くにいる」
　諸葛亮「考えられるとしたらですが荊州という土地を狙っている勢力は多いでしょう。江東の孫堅・徐州の劉備・中原の曹操。ですが蔡瑁殿はもっと身近な存在と考えている」
　蔡瑁「！？あぁ、その通りだ。俺は王儁が怪しいと考えている。アイツは元々洛陽にいた。曹操とも親交があると聞く」
　諸葛亮「成程。蔡瑁殿はこうお考えなのですね。曹操に荊州を譲り渡したい誰かが劉表殿の配下の中にいて、その者が暗躍している気がすると？」
　蔡瑁「あぁ。だが、人の心までを変える力がある者など存在するだろうか？」
　諸葛亮「瞳術という言葉があることはご存知ですか？」
　蔡瑁「瞳術？」
　諸葛亮「えぇ。眼で相手を意のままに操る術らしいのですが」
　蔡瑁「！？確かあの変な道士が義兄上に眼を見よと言っていた！」
　諸葛亮「おそらく、その類の術の使い手と通じているものが居たのでしょう」
　蔡瑁「それが王儁だ！恐らくそうだ」
　諸葛亮「決め付けるのは良くありませんよ。その者が怪しいというのなら利用すれば良いのです」
　蔡瑁「利用？」
　諸葛亮「わざわざここに訪ねてきたということは心を決めているのでしょう」
　蔡瑁「全く。敵わないな。これが臥竜諸葛孔明か。俺は劉備軍と対峙した時、とても劉備軍が我が軍に対して呪いを掛けたとは思えなかった。その時に、では誰が？あの変な道士なのは間違いない。では、誰の命で？荊州を渡したくない誰かの意図を感じた」
　諸葛亮「その変な道士と王儁が結びついていると仮定して、王儁は親交のある曹操と結び付いていると仮定したといったところでしょうか」
　蔡瑁「あぁ。だから俺は」
　諸葛亮「当初の予定と違い別のものに荊州を託したくなった。曹操ではない別の誰かに。それが劉備殿であると？」
　蔡瑁「！？胸中をここまで見透かされているとは。俺は荊州のためになるなら曹操に荊州を譲り渡すのが良いと考えていた。だが、このようなやり方を使うぐらいだ。我らが降ったとしても劉琮は、その首を斬られるだろう」
　諸葛亮「そうですね。遠方に左遷、その道中で野盗の手にかかり親子共々、惨殺されたとかでしょうか」
　蔡瑁「やめてくれ。月英と結婚したお前にとっても劉琮は従兄弟に当たるのだぞ」
　諸葛亮「そうなりますね。面識はない従兄弟ですが」
　蔡瑁「まぁそうだな。だが俺はそうはいかない。姉の子だ。俺にとっても可愛い甥だ。お前と違ってな」
　諸葛亮「ハハハ。これは一本取られました」
　蔡瑁「死ぬとわかっていて曹操に荊州を譲り渡すのが馬鹿馬鹿しくなった」
　諸葛亮「成程、でもどうやって劉備殿に上手いこと荊州を譲り渡すかを思案しているといった感じですか？」
　蔡瑁「あぁ」
　諸葛亮「では、私が大計を描きましょう」
　蔡瑁「何だと？」
　そして、時間は現在に戻る。
　劉表「そのようなことが、してその大計はどうなっている？」
　諸葛亮「既に最終段階です」
　蔡瑁「一つ目は曹操よりだった蒯越・蒯良の懐柔。二つ目は、劉備軍に土地だけでなく優秀な指揮官を降らせる。そして、三つ目は」
　諸葛亮「劉表殿と劉琦殿を亡き者にして劉琮殿に跡を継がせ、蔡瑁殿と張允殿を巻き込み曹操軍に降ろうとしている蔡勲たちを一掃する」
　劉表「ハッハッハッハ。まさにそのことを思案していた。どうすれば、劉琦や劉琮を守れるかとな。劉琦は病弱、ワシと同じぐらいかワシより少しであろう持ったとして。だが劉琮は、息子を死なせたい親などおるまい。劉備殿に後見役になってもらおうと考えていたが劉琮が治めたところで付いて来るものはそう多くはなかろう。劉備殿に荊州を譲り渡すのが良いだろう」
　諸葛亮「では、最後の策に協力してくれますか？」
　劉表「勿論じゃ」
　諸葛亮「では、ゴニョゴニョゴニョ」
　劉表「ふむふむ。実に面白いではないか」
　蔡勲は劉琮の母である蔡嫉のところに来ていた。
　蔡勲「蔡嫉様、王儁と話は付きました。我々を保護してくださるそうです」
　蔡嫉「よくやってくれました蔡勲。頼りにならない蔡瑁と違い、お前はできた弟ですよ。劉琮、行きますよ」
　劉琮「母上、蔡勲は信用なりません。蔡瑁叔父上と張允を見殺しにしようとしたのです」
　蔡嫉「それは蔡瑁が劉備などという田舎者に付き従うべきだとか言うからでしょう。何も心配する必要はないのです。母と共に曹操殿のところに向かい。今よりももっと豪華な暮らしをするのです」
　劉琮「曹操は徐州で民を虐殺したと聞きます。母上、お考え直しください」
　蔡嫉「私が曹操殿の妾になれば、お前は可愛い養子です。曹操殿は養子を可愛がってくださいます。お前も良くしてもらえる。何故、それがわからないの。さっさと来なさい」
　劉琮「母上、痛い。いやです。僕は蔡瑁叔父上と行きます。離してください」
　蔡瑁「どうやら覚悟を決めねばな。蔡勲、俺の負けだ。劉琮に手荒なことをするな。姉上もわかりました。俺も共に曹操殿の元に向かいますから。張允もそれで良いな」
　張允「やむおえないな」
　蔡勲「これで、俺も曹操軍の幹部に。グフフフ」
　天才軍師による最大の策が陰謀渦巻く襄陽城に炸裂しようとしていた。