えっ俺が憧れの劉備玄徳の実の弟!兄上に天下を取らせるため尽力します。

揚惇命

文字の大きさ
263 / 821
4章 三国鼎立

槃瓠族の恐ろしさ

しおりを挟む
 義賢は、しかし歩みを止めない。朝を迎え、さらに山奥へと進軍を開始する。その行手には広大な森が広がっていた。
 義賢「奇襲に最適の場所がありながら麓で迎撃してきたということは、ここにも敵兵が」
 牛齕「正解。正解。この牛齕様がお前らの生き血を吸いにきてやったぜ。今宵の牛切り包丁は、血を求めてやがる」
 鶏欒「兄貴の気持ちもわからないでもねぇ。なんたって、ようやく俺たちの出番なんだからなぁ」
 羊潜「牛齕にぃも鶏ちゃんも無理したらダメだからね」
 鶏欒「ホント過保護な姉ちゃんだぜ」
 張郃「今度こそ、遅れは取らぬ」
 牛齕「おぅおぅ。兎臥から聞いてたがよ。弱い弱い弱い弱すぎる!」
 牛齕の牛切り包丁により、剣を弾かれ、飛ばされる張郃。
 張郃「ぐっ。どうして、なんで、こんなに力の差が?」
 羊潜「自分すらも偽って弱さを認められない人に強さなんてついてくるのかしら。まぁ、今から死ぬ貴方には関係ないことだけどね」
 張郃に迫る羊潜を止める高覧。
 高覧「行かせねぇ。この俺がいる限り張郃を殺させはしねぇ」
 羊潜「へぇ、あの子よりよっぽど楽しめそうな人」
 張郃「高覧、待て」
 牛齕「おいおい。余所見してんじゃねぇよ。俺は眼中にねぇってか?テメェみてぇな雑魚が一番気に障るんだ」
 張郃「雑魚だと?この俺が雑魚だと?(いや、しかし確かに最近、そうかもしれない。晒しを巻く胸の締め付けは一層苦しいし、零陵蛮の王と名乗る慚戯には、一撃で沈められ、あまつさえ性奴隷にされかけた。そして、麓ではいきなり現れた蛮族に剣ごと吹き飛ばされた。そして今回もまた。どうして、私には勝てないというの?私が雑魚だから?ここで諦めて良いの?高覧はこんな私でも見捨てずに今も守ってくれているのに。私はこんなので良いの?強くならなきゃ。殻を破らなきゃ。高覧にまた頼ってもらえるように)」
 張郃は、巻いていた晒しを解いた。
 高覧「張郃、何してんだ。お前」
 羊潜「あら、殻を脱皮したみたいね。牛齕にぃ、油断しちゃダメよ」
 張郃「これで良いのよ高覧。河間の張儁乂、ここにあり。腕に覚えがあるのならかかってきなさい」
 牛齕「へぇ、戦の中で力を解放するとは、気に入った。この牛齕様がお相手いたそう」
 先ほどのように一瞬で剣が吹き飛ばされるということもなく数合打ち合いを続ける。
 牛齕「この牛齕様とこんなに打ち合うとはやるじゃねぇの」
 張郃「ハァハァハァハァ(私にこんな力がまだ眠っていたなんて、そうか自分を偽るか。そんなのはもうやめよ。私は女であり、河間の張儁乂なんだから)」
 牛齕「どうやら力を解放したばかりでよっぽど疲れていると見える。楽しませてくれた礼だ。この場はこの牛齕様がお前に勝ちを譲ってやるとしよう。さらに研鑽を積んで、この俺を楽しませてみろ」
 張郃「ハァハァハァハァ。待て、逃げるのか」
 その様子を見ていた羊潜も撤退をする。
 羊潜「ほら、君。早く行ってあげなよ」
 高覧「お前、さっきも張郃に覚醒を促すような発言をしてたよな。敵なのにどういう了見だ」
 羊潜「さぁ、でも応援したいじゃない。あぁいう、殻を破りきれてない子って」
 高覧「そして、今は見逃すとかいう」
 羊潜「だって、私たちの役目は終わったもの」
 高覧「ん?」
 高覧は羊潜の最後の言葉に疑問を覚えながらも張郃の元に駆けつける。
 高覧「張郃、無事か?」
 張郃「えぇ、無事よ」
 高覧「いや男の口調に戻ってない。これは重症だ」
 張郃「良いのよ。もう自分を偽るのはやめにしたの」
 高覧「馬鹿野郎、そんなことしたら俺だけの張郃じゃなくなるだろうが」
 張郃「高覧、いつも私のことを守ってくれてありがとう。大好きだよ。これで良い?」
 高覧「おっおぅ。俺も大好きだぜ張郃。いや儁乂」
 その頃、義賢本隊は猿鴎の急襲を受けていた。
 義賢「なんて爺さんだ」
 猿鴎「どうしたどうした若いの。その程度かいの」
 黄忠「劉丁殿」
 鶏欒「おーっと、猿鴎爺ちゃんのところにはいかせねぇぜ」
 義賢の弓をとんでもない反射神経で避けて、確実に近づいて、攻撃を加える猿鴎だが、義賢には当たらない。義賢の乗る黝廉が的確に攻撃を逸らしていたのだ。
 猿鴎「良い馬に乗っておるな」
 義賢「黝廉のことか」
 猿鴎「ほぅ、馬に名を付ける若者が居ようとは、動物を大事にするとは、良い若者じゃ。感動した。良いぞ良いぞ。その動物愛に敬意を称して、ここは退いてやろう」
 義賢「待て、散々、兵らを惨殺しておいて、退くだと。許せると思っているのか!」
 猿鴎「何を言っておる?お前は戦で人が死なぬとでも思っておるのか?甘い甘い甘すぎる。そんなので、この槃瓠族に喧嘩を売るとは、この馬鹿者が」
 猿鴎の拳が義賢を捉え、吹っ飛ばされる。
 猿鴎「甘ったれるなよ小僧。仮にもこの大軍を預かる将であろう。コイツらの想いを汲んで立ち上がったのであろう。なのに、なのになんだその腑抜けた心は、戦を舐めているのか?この阿呆が」
 黄忠「劉丁殿、貴様どくのじゃ」
 鶏欒「嫌だなぁ」
 黄忠「劉丁殿、もう暫く耐えるのじゃ(なんというすばしっこい男じゃ。弓が全く当たらぬ)」
 鶏欒「まぁ、もう良いけどね。猿鴎の爺ちゃんが撤退を命じたからよぉ」
 鶏欒も武装を解き退いていく。黄忠は吹っ飛ばされた義賢に近付く。
 義賢「うっ」
 黄忠「良かった。まだ息があるわい。安心せい。黝廉とやら、お前の御主人様は死んでおらん」
 黝廉「ヒヒーン(良かった。良かった。義賢様に何かあったら董白ちゃんになんて言えば良いのかと)」
 やがて目を覚ました義賢は、周りを見てまた驚愕する。4万居た兵のうちの1万がまた屍となって築かれていたのだ。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

プール終わり、自分のバッグにクラスメイトのパンツが入っていたらどうする?

九拾七
青春
プールの授業が午前中のときは水着を着こんでいく。 で、パンツを持っていくのを忘れる。 というのはよくある笑い話。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

処理中です...