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5章 天下統一
劉備に迫る危機
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これは、まだ劉義賢が病に臥せっていた頃の話である。
???「本当にこのままで良いのか俺は。俺みたいな末端が出世するには、戦で手柄を立てねぇと覚えてすらもらえねぇってのに。なのによ。使われるのはいつだって、劉備の信頼の厚い奴らばかり。これでは出世など夢のまた夢。挙げ句の果てには、あんな女の尻しか追いかけてねぇ馬鹿を後継者に。こりゃ劉備もいよいよ危ないかもな。グビグビ」
独り言のように愚痴を言いながら酒を煽っているのは、黄元という男で、蜀漢の臣下でありながら劉禅を後継者に立てた劉備に対して、不信感を抱いていた。
マスター「ちょいと飲み過ぎやないですかお客さん?」
黄元「ウルセェ!飲まなきゃやってられねぇってんだ!」
マスター「ですがお客さん、金はあるんですかい?」
黄元「はっ?俺を誰だと思ってんだ!蜀漢の黄元様だぞ。テメェらを毎日毎日毎日守ってやってんだ!そんなのツケにしとけや。わかったらとっとと酒を持ってきやがれ!」
マスター「はぁ。じゃあ、後で徴収しに行きますからね」
黄元「勝手にしろ!酒はまだか!」
マスター「はいはい。今、持ってきますよ」
酒場のマスターが諌めるのも聞かず、飲み続ける男の元に近づく男。
???「親父、コイツのツケはいくらだい?」
マスター「お客さん、やめといた方が良い。アンタはコイツに何の義理も無いだろう?」
???「ハハハ。困ってる奴をほっとけないタチでね」
マスター「へぇ。世の中には酔狂なやつもいたもんだ。どうせ酔い潰れて、何も覚えてねぇんだろうけどな。この宮仕さんは」
???「こういうのは、さりげにやるのが良いんで。これで」
マスター「確かに。まぁこちらとしても金さえ貰えるなら何も問題はない。宮仕してる奴と波風立てたくもないし。助かったよ。ありがとなあんちゃん」
???「いえいえ、ではこれにて失礼します」
マスター「おぅ」
この一見すると太っ腹に思えるこの男の目的は、劉備とその後継者と目される劉禅の暗殺である。
その素性は、曹丕の寵愛する妾の郭女王が作った影の集団の一味であり、実績を作るために劉備・劉禅の暗殺を企み、難民として流れてきたフリをして潜り込んだ郭脩という人物である。
郭脩「確かに安くはない買い物だ。だが、この男を反乱者に仕立て上げることで、内乱を起こすことはできよう。その隙に、手薄となった劉備・劉禅のどちらかを暗殺する。そのための駒として、せいぜい働いてもらおう。我らが力を誇示するために」
黄元「クガー。クガー。酒だ。酒をもっと持ってこーい。クガー。クガー」
郭脩「全く。酒とは、嗜む程度のもの。酔い潰れて、後先考えられないようになるまで飲むものではない。そして、酔い潰れても尚、酒を欲するとは。つくづく、哀れな男のようだ」
黄元「フゴッ。フゴッ。スピー。スピー。酒だって言ってんだろうが。俺を誰だと思ってんだ。馬鹿にしやがって。グゴォォォォォ。グゴォォォォォ」
郭脩「だが、こういう哀れな奴だからこそ利用しやすい。それに難民に紛れて、魏の兵を何人か潜り込ませた曹丕様の手腕も流石だ」
黄元「スピー。スピー。劉備、劉備、劉備、劉備。アイツは霊帝をお飾りにしてるだけだってんだ!何が蜀漢だ!蜀ってのは、益州のことを言うんだってんだ!周りの奴らは誰も気付きやしねぇ!フガッ。フガッ」
郭脩「寝言まで煩い奴だ。しかし、良いことを聞いた。それを利用すれば、劉備の治世に隙を作れるか」
この数日後、蜀漢内にて怪文書が出回る。
その内容は、以下の通りである。
『天下の帝たる霊帝様をおいて、好き勝手な政治をする劉玄徳は、悪臣である。この文書を読み、志を共にするものは、武器を取れ!悪臣、劉玄徳を討つのだ』
この怪文書を信じた一部の者が武器を取り、劉備の邸宅へ襲いかかるということは全くなく。
皆声を揃えて、こう言うのだった。
『公叔様なこと何も知らんで、好き勝手書くでねぇ。あん人ほど、ワシらのような度重なる戦の被害者に対しても優しい人おらんべ。こげんなもん、破り捨てるでな。皆んもん』
そう、劉備の治世は広く民に浸透していた。
だからこそ紛れ込んでいた魏の兵らですら歯痒い気持ちで見ているしかなかった。
しかし、郭脩はそうはいかない。
実績のない影の勢力が広く認知されるためには、大物の暗殺が必要不可欠。
そこで、郭脩はまだ時期尚早と判断しながらも行動に移るしかなく。
黄元という男がどれだけの兵を焚き付けられるかに判断を委ねるという暗殺者らしからぬ行き当たりばったりな作戦を取るしかなくなった。
そして、益州の統治を任される劉循から劉備の元へ使者として、訪れていた男がここに。
???「いやぁ。こりゃ、結構な距離のある旅でしたよ陶商殿」
陶商「ハハハ。まぁ、劉循様の使者を運ぶなんて仕事をさせられるとは思いませんでしたが」
???「うちの殿は、飄々と見えて人望豊かですからね。それにしてもお前が荷物だ。なんて初めて言われましたよ」
陶商「ハハハ。間も無く、許昌に到着です」
???「快適な旅をどうもありがとう。それにしてもこのふかふかのソファ?というのは凄く良い」
陶商「えぇ。劉備様の弟君であらせられる劉丁様が商人たちが荷物を運びやすいようにと馬鈞様に依頼して、開発されたと聞いておりますよ」
???「それはそれは見事なものを作られましたね。うちの殿が巷で話題の馬車を試してみたいと言うのも頷けました」
陶商「劉循様が乗れなかったのは、残念でしたね」
???「仕方ありませんよ。殿が統治を任されているところを留守にするなどもってのほかですから」
陶商「それは手厳しい。ですが費禕様と劉循様はお互いを信頼し合っているのがよく分かりますよ」
費禕「そう言ってもらえるなら嬉しいですよ。誰にも相手にされなかった私のような日陰者を拾ってくださった恩人ですから」
そうこの男は費禕である。
三国志における諸葛亮に後事を託され二代目丞相となった政務の天才。
この度、劉循より南蛮を益州の領土に加えたことを報告する使者として、劉備の元へと訪れようとしていたのである。
???「本当にこのままで良いのか俺は。俺みたいな末端が出世するには、戦で手柄を立てねぇと覚えてすらもらえねぇってのに。なのによ。使われるのはいつだって、劉備の信頼の厚い奴らばかり。これでは出世など夢のまた夢。挙げ句の果てには、あんな女の尻しか追いかけてねぇ馬鹿を後継者に。こりゃ劉備もいよいよ危ないかもな。グビグビ」
独り言のように愚痴を言いながら酒を煽っているのは、黄元という男で、蜀漢の臣下でありながら劉禅を後継者に立てた劉備に対して、不信感を抱いていた。
マスター「ちょいと飲み過ぎやないですかお客さん?」
黄元「ウルセェ!飲まなきゃやってられねぇってんだ!」
マスター「ですがお客さん、金はあるんですかい?」
黄元「はっ?俺を誰だと思ってんだ!蜀漢の黄元様だぞ。テメェらを毎日毎日毎日守ってやってんだ!そんなのツケにしとけや。わかったらとっとと酒を持ってきやがれ!」
マスター「はぁ。じゃあ、後で徴収しに行きますからね」
黄元「勝手にしろ!酒はまだか!」
マスター「はいはい。今、持ってきますよ」
酒場のマスターが諌めるのも聞かず、飲み続ける男の元に近づく男。
???「親父、コイツのツケはいくらだい?」
マスター「お客さん、やめといた方が良い。アンタはコイツに何の義理も無いだろう?」
???「ハハハ。困ってる奴をほっとけないタチでね」
マスター「へぇ。世の中には酔狂なやつもいたもんだ。どうせ酔い潰れて、何も覚えてねぇんだろうけどな。この宮仕さんは」
???「こういうのは、さりげにやるのが良いんで。これで」
マスター「確かに。まぁこちらとしても金さえ貰えるなら何も問題はない。宮仕してる奴と波風立てたくもないし。助かったよ。ありがとなあんちゃん」
???「いえいえ、ではこれにて失礼します」
マスター「おぅ」
この一見すると太っ腹に思えるこの男の目的は、劉備とその後継者と目される劉禅の暗殺である。
その素性は、曹丕の寵愛する妾の郭女王が作った影の集団の一味であり、実績を作るために劉備・劉禅の暗殺を企み、難民として流れてきたフリをして潜り込んだ郭脩という人物である。
郭脩「確かに安くはない買い物だ。だが、この男を反乱者に仕立て上げることで、内乱を起こすことはできよう。その隙に、手薄となった劉備・劉禅のどちらかを暗殺する。そのための駒として、せいぜい働いてもらおう。我らが力を誇示するために」
黄元「クガー。クガー。酒だ。酒をもっと持ってこーい。クガー。クガー」
郭脩「全く。酒とは、嗜む程度のもの。酔い潰れて、後先考えられないようになるまで飲むものではない。そして、酔い潰れても尚、酒を欲するとは。つくづく、哀れな男のようだ」
黄元「フゴッ。フゴッ。スピー。スピー。酒だって言ってんだろうが。俺を誰だと思ってんだ。馬鹿にしやがって。グゴォォォォォ。グゴォォォォォ」
郭脩「だが、こういう哀れな奴だからこそ利用しやすい。それに難民に紛れて、魏の兵を何人か潜り込ませた曹丕様の手腕も流石だ」
黄元「スピー。スピー。劉備、劉備、劉備、劉備。アイツは霊帝をお飾りにしてるだけだってんだ!何が蜀漢だ!蜀ってのは、益州のことを言うんだってんだ!周りの奴らは誰も気付きやしねぇ!フガッ。フガッ」
郭脩「寝言まで煩い奴だ。しかし、良いことを聞いた。それを利用すれば、劉備の治世に隙を作れるか」
この数日後、蜀漢内にて怪文書が出回る。
その内容は、以下の通りである。
『天下の帝たる霊帝様をおいて、好き勝手な政治をする劉玄徳は、悪臣である。この文書を読み、志を共にするものは、武器を取れ!悪臣、劉玄徳を討つのだ』
この怪文書を信じた一部の者が武器を取り、劉備の邸宅へ襲いかかるということは全くなく。
皆声を揃えて、こう言うのだった。
『公叔様なこと何も知らんで、好き勝手書くでねぇ。あん人ほど、ワシらのような度重なる戦の被害者に対しても優しい人おらんべ。こげんなもん、破り捨てるでな。皆んもん』
そう、劉備の治世は広く民に浸透していた。
だからこそ紛れ込んでいた魏の兵らですら歯痒い気持ちで見ているしかなかった。
しかし、郭脩はそうはいかない。
実績のない影の勢力が広く認知されるためには、大物の暗殺が必要不可欠。
そこで、郭脩はまだ時期尚早と判断しながらも行動に移るしかなく。
黄元という男がどれだけの兵を焚き付けられるかに判断を委ねるという暗殺者らしからぬ行き当たりばったりな作戦を取るしかなくなった。
そして、益州の統治を任される劉循から劉備の元へ使者として、訪れていた男がここに。
???「いやぁ。こりゃ、結構な距離のある旅でしたよ陶商殿」
陶商「ハハハ。まぁ、劉循様の使者を運ぶなんて仕事をさせられるとは思いませんでしたが」
???「うちの殿は、飄々と見えて人望豊かですからね。それにしてもお前が荷物だ。なんて初めて言われましたよ」
陶商「ハハハ。間も無く、許昌に到着です」
???「快適な旅をどうもありがとう。それにしてもこのふかふかのソファ?というのは凄く良い」
陶商「えぇ。劉備様の弟君であらせられる劉丁様が商人たちが荷物を運びやすいようにと馬鈞様に依頼して、開発されたと聞いておりますよ」
???「それはそれは見事なものを作られましたね。うちの殿が巷で話題の馬車を試してみたいと言うのも頷けました」
陶商「劉循様が乗れなかったのは、残念でしたね」
???「仕方ありませんよ。殿が統治を任されているところを留守にするなどもってのほかですから」
陶商「それは手厳しい。ですが費禕様と劉循様はお互いを信頼し合っているのがよく分かりますよ」
費禕「そう言ってもらえるなら嬉しいですよ。誰にも相手にされなかった私のような日陰者を拾ってくださった恩人ですから」
そうこの男は費禕である。
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