二つ名の物語

百鬼夜行

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非業と覚悟と使命

二つ名の物語

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 「拓……人……」

 目の前が霞む。1番油断してはならなかった、そんな時に限って油断していた自分がいる。

「お前のお嬢様は知りすぎたんだよ。お前一人でこの組織に立ち向かうには幼すぎる。命が惜しければ関わってはならんな……」

「それ……でも……私は……」

「その体でか?我々は寧ろ君が恐ろしく感じる。これだけの毒ガスを吸って意識を保っていられるんだからな……君はこの場で殺したいところだが、主はこの娘をいち早く所望しているのだ。君に構っていられるほど暇ではないんだよ」

 それからの記憶は何一つない。確かなことはただ一つ……お嬢様は攫われたという事。つまり、殺された可能性が確定しているという事だ。それはあってはならない事だった。
ご主人様がこの有様を見た後、私をクビにした。怒り心頭のご主人様は私に一言感謝の言葉を述べた。

「貴様には心底裏切られた気分だ。貴様の顔など二度と見たくもない、この私の前に二度と現れるな」

 私はご主人様の部屋を出た後、お嬢様の部屋に立ち寄った。お嬢様の部屋には1度も入ったことは無かったのでどれもこれもが私の知らないものだったが、不思議と懐かしいものだった。ふと、机の上にあった手紙に目を留める。隠蔽の魔法がかけられていた。差出人は書かれていなかったが、私宛だということは分かった。隠蔽の魔法が掛けられているということは宛先の人間にしかその物を見ることが出来ないからだ。
 私は急いで封を切ると、中身を取り出し見てみた。驚愕したことはしたが、同時に歓喜が湧いてきた。何故か、それはこの手紙がきっかけだったからだ。お嬢様を救い出す希望を見いだせたのは……

【我が愛しき二つ名へ。
風が吹く日
太陽の照り付ける日
雨の降る日
雲が被る日
お前は何を求むか】

 一見なんの意味もない意味のわからない文かもしれない。それは誰もが思うことだ。だが、一つだけわかることがある。この手紙の内容自体に意味は無い。しかし、この手紙がお嬢様の部屋にあることに意味があった。お嬢様は生きている。私はお嬢様が攫われた日にはもうダメだと考えたが、前回同様殺す目的ならいくらでも殺害する手段はあったはず。しかし、今回は態と攫って行った。つまりは生きている。であるならば、助けられる可能性が少なからず見えてきたという事だ。
 この手紙の【二つ名】の指す部分は私だ。誰にでもいい手紙であれば隠蔽の魔法を掛けることなどしないだろう。私は自分の過去を捨てる覚悟をした。例えどのような形であろうとも、お嬢様を、晶稀様を救わねばならない。私はその手紙を懐に仕舞うと屋敷を出た。
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