二つ名の物語

百鬼夜行

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平和と無知

言うなれば

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「拓人!そろそろ起きなさい!執事に休みはないのよ!」
 「…今日は休みですー…………」
 「貴方に休みはないわ!なんで起きないのよ!」
 「…………Zzz」
 「えぇい………こうなれば………」
 
 バキッ!!
 
 「いだぁ!!!?」
 「ようやく起きたわね!このバカ拓人!いい加減に起きなさい、今何時だと思ってるのよ!」
 「まだ夜中………じゃない!!?」
 「ほんとに馬鹿なのね、今はもう午前10時よ。」
 「寝過ごしたのは申し訳ございません。しかし、リモコンで頭を叩くのは些か酷いのでは?」
 「拓人が何をしても起きないから仕方なく強行手段に及んでしまったというわけね。」
 「おはようございます、お嬢様。」
 「おはよう拓人。」
 
 今日は朝から散々な目にあった(自業自得)今日はお嬢様も何もご予定が無く、ゆったりと過ごせると思っていたのだが、そうでもないらしい。
 
 「拓人、今日は何も無いから暇になるわね。」
 「はぁ…………」
 
 また始まった…………毎度おなじみのお嬢様の無茶ぶり。お嬢様に何も無いということは自分にさらに難しい課題が課せられるということである。言うなればブラック労働。
 
 「何か面白いことは無いかしら?」
 「お嬢様、偶にはご自分で面白いと思うことを探されてはいかがでしょうか?私の意見が必ずしもお嬢様に満足していただけるものとは限りませんから。」
 「というか毎回ボードゲームで連戦連敗だから満足なんてこれっぽっちもしてないけどね。」
 「そうだったのですか、それは失礼いたしました。」
 「でも、拓人が言うように自分で探すのもたまにはいいかもしれないわね。そうと決まったら外に行くから支度をお願いね。」
 「なんの支度でしょうか?」
 「食事に決まってるじゃない、外で食べるの。言うなればピクニックみたいなものね。」
 「なるほど、かしこまりました。暫くお時間を頂戴いたします。」
 「ええ、私も支度に時間がかかるしね。」
 
  お嬢様が外で食事をするのは機嫌が良い時だけなので、外で食べるという言葉を聞くと何かと安心する。余計なことで怒られる心配はないし、この時だけは少しだけ時間にルーズになるからだ。
 
 
 
 1時間後――――――――
 
 「準備は出来たかしら!?」
 「はい。昼食はこちらにございますよ。」
 「中身は開けてからのお楽しみね!それじゃ、近くの花見スポットまでしゅっぱーつ!!」
 「花見スポットとは桜山公園の事ですか?」
 「そうよ。あそこの桜は家の庭の桜よりも綺麗に咲いているの。」
 「私には違いがわからないのですが………」
 
 因みに、桜山公園とは鳳正院家から一キロ離れた場所にあるとても大きな公園のことだ。その名のとおり山のように桜が咲いているのである。聞いた話によると本数は千二百本から千五百本ほどあるらしいが、この三百本の差はいったいなんなのだろうと思う今日この頃である。
 
 「拓人には分からないでしょうね。桜はね、見え方によって綺麗さを変えてくるの。例えば遠くから見れば小さく見えた欅の木が近くからみたら想像以上に大きく見えたというような経験はないかしら?」
 「はい、似たような経験はあります。」
 「桜もそれと同じよ、花の一つ一つに意志があってこのように咲きたいという思いが花弁を見ると伝わってくるの。言うなれば、花の声が聞こえること、ね。」
 「お嬢様のその考え方は私には到底理解できるものではありません、故に私はお嬢様が日本語で別の言語を喋っているように感じます。言うなれば、意味不明、と言ったところでしょうかね。」
 「拓人にはまだ分からないでしょうけど、そのうち分かるわよ。花は誰が見ても綺麗だと思うことが出来るのだから。それに、人が異性の人を見るのと違って人が花を見る時に卑屈な気持ちを持たないでしょう?言うなれば、変わらぬ礎の変わる意志とでも言いましょうか。」
 「お嬢様、やはり私には理解できません。」
 「それでいいわ。あ、目的地が見えてきたわ、ちょうどお昼だしあそこのベンチに座って休むとしましょう?」
 「はい、かしこまりました。」
 
   お嬢様の言うことはたまに自分の想像の上を行くことがある、その時のお嬢様の考えは自分には全く理解ができない。自分は普段お嬢様を罵ったりするが、それはお嬢様にとっては小さな戯れでしかないのかもしれない。お嬢様の考えは永久に通ずるものがあるとても長い長い考え方なのだ。言うなれば、時永劫の見解である。
 「今日のお昼は何かしら?」
 
 お嬢様は如何にもワクワクしていると言った表情でお弁当箱を開けた。
 
 「本日はサンドイッチにしてみました。具材は野菜がベースとなっております。」
 「綺麗な彩ね、素晴らしいわ。この一つ一つの彩にも変わらぬ礎の変わる意志があるわね。頂きまーす!」
 「どうぞ、お召し上がりください。」
  「むぐ……拓人も食べればいいじゃない。食事は多くの人とした方が美味しいのよ。」
 「ありがとうございます。頂きます。」
 
 自分達が食事をしていると、近くに住んでいる子供たちがよってきた。
 
 「「こんにちは!おにーさん、おねーさん!」」
 「あら、こんにちは。」
 「何してるのー?」
 「お昼を食べているのよ。あなた達も食べる?」
 「いいの!?ありがとう!おねーさん!」
 
 子供たちはサンドイッチを受け取ると喜んで食べていた。それを見ていたお嬢様は大層嬉しそうな表情をしていた。
 
 「愚問かと存じますが、子供たちにお昼を差し上げてよかったのですか?」
 「拓人、いい?私は別に食べ物一つで機嫌を損ねたりしないわ。それに、子供は可愛いもの。特に今のような子達はね。」
 「では、お嬢様。」
 「何かしら?」
 「お嬢様は子供は欲しいですか?」
 「そうね、欲しいことは欲しいけれどそんなにたくさんは必要ないかもね。というか、いきなりね。」
 「ええ。それで、例えば幾人ほど?」
 「少なくて二人、多くて五人ね。」
 「随分と幅がございますね。」
 「最低二人というのは言わなくてもわかると思うけど、一人っ子は寂しいから、多くて五人というのは私が親となった時に一日一回必ず個別に話すことが出来る人数よ。」
 「なるほど。」
 「言うなれば、会話が輪を広げるという事ね。」
 「何時もは罵られてばかりのお嬢様ですが、こういう時のお嬢様は大変素晴らしいと思います。」
 「拓人、一言多いわ。それに、いつも素晴らしいの。」
 「はい。」
 「さて、それじゃあ帰りましょうか。」
 「かしこまりました。」
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