二つ名の物語

百鬼夜行

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平和と無知

六月の願い(前編)

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    「お嬢様、傷の程はいかがですか?」
 「だいぶ良くなってきたわ。結構早く治るのは嬉しいけれど、コレ、絶対傷跡残るわよね。」
 「仕方ありませんよ、それなりに深く切られてますから。」
 「それにしてもやることが本当にないわ、高校に通えてたら良かったのだけどね。」
 「飛び級しちゃいましたもんね、それに大学に通う必要も無いって言うのはビックリしましたね。お嬢様がそこまで頭いいなんて思いませんでした。」
 「また一言余計ね、飛び級するくらいなのだから当たり前じゃない。」
 
 お嬢様が飛び級を決意なされたのは丁度今から四年前。つまり、高校三年の時である。当時お嬢様はテストをやる度につまらないと言ってテストをボイコットしていた。それを見かねた先生が「今回の五教科のテストすべてで100点を取れたならテストを免除してあげます。」と言い真面目に取り組んだ結果がこれである。お嬢様はそれぞれの教科を最初の十分で解き終わると勝手に提出し「私、帰ります。」と言ったのだそうだ。全教科満点などと有り得ないと思っていた先生だが点数は全教科満点、お嬢様は最初の約束通りテストを免除、そして、大学へと進んだ次第である。
 
 「勉強はやりたくないけど友達付き合いは大事だと思うの。友達付き合いがなかったらそのうち誰とも深い交流を持つことなくお年寄りになる気がするから。」
 「大丈夫ですお嬢様、いつかきっとお友達はできますよ、いつになるか分かりませんけど。」
 「もし出来たとしたら拓人は寂しくなるわね。」
 「何故でしょう?」
 「私に構ってもらえなくなるもの。」
 「お嬢様は冗談がお好きなようですね。」
 「強がりは要らないわ、だって今にも泣き崩れそうじゃない。」
 「お嬢様、流石にそれは有り得ないかと。私の脈拍、呼吸数は共に変化しておりません。」
 「なんでそんな機械的なこと言うのよ………」
 「何だっていいじゃありませんか。今日は何を致しましょう?」
 「そうね………そう言えば、今月は六月だったかしら?」
 「はい、その通りです。」
 「そう………」

お嬢様は六月と聞くと少し寂しそうな表情をなさった。まるで未練があるかのような顔を………
 
 「お嬢様、どうかなさいましたか?表情が冴えないようでいらっしゃいますが。」
 「そうね、冴えないというのは間違ってないわね。六月は私の願いが失われた日だもの。」
 「初耳………ですね。」
 「拓人はその時一緒にいなかったのだもの、知らなくて当然よ。」
 「お嬢様、その逸話を私に聞かせていただけませんか?」
 「興味がある?と言うか拓人は長いことここに居るのだから誰かから、もしくは私から聞いていたのだと思っていたのだけど。」
 「確かにそうなのですが、お嬢様にそのような出来事があったというのは誰からも聞いておりません。長いこと居ると言ってもお嬢様の行動すべてを監視しているわけではございませんし、個人的プライベートな部分までは関わることはできませんので……」
 「確かにそうね。じゃあ話してあげるわ、清い心で聞くのよ?」
 「畏まりました。」
 
 
 
 八年前、六月十五日。鳳正院晶稀 十歳の頃。

 
 
 『うぅ…………道に迷った………。拓人はどこに行ったのよーー!!うわーーーん!!』
 
 「私その時は拓人とはぐれて森の中にいたのよ。しかも獣が出そうな物騒な森の中にね。その時は大声で泣いたわ。」
 
 『うぅ………無事に家に帰ったら首にしてやるんだから!ぐすっ…………』
 
 「物騒なことを言いながら森の中を歩いていたのね、そしたら案の定熊に出会ってしまったの。」
 
 『ガルル…………』
 『ひっ……!誰か……助けて………!』
 
 「熊は私を見るなり襲ってきたのよ。よほど空腹だったらしくてね、問答無用って感じだったわ。」
 「よくご無事でしたね。」
 「ここからが私の願いに関わってくるのよ。」
 
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