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お引っ越し編

19・判別の時間

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アメの魔族(仮称)は、学園都市カイエを埋めくしそうだったアメ玉を大量生産した訳だから、その身を構成する魔力が尽きてしまう寸前らしい。
ムルーちゃんはマッシュさんのアドバイスを受けて、魔族に対する魔力の供給を遮断したから、その命なんて風前の灯火。


「じゃが、狡猾こうかつなる魔族は自身が殺されるのを防がんとその姿をムルーちゃんと寸分すんぶんたがわぬ姿にした。その上、魔力量を完全にムルーちゃんと同じ状態に見せかけておるのだ」

「魔法生物は生成者と魔力の波長は全く同じ」

「その通りだ。親であるワシにも判別不可能だった。どうにかしてニセモノを割り出してとどめを刺して欲しい」

「だからカンナさんも参加して欲しいって事だったんですね」


「ああ、頼んだぞA級鑑定魔法士。お前さんなら鑑定可能じゃろ?」

「どうでしょう。ムルーお嬢さんの才能次第では、アメ玉魔族は完璧な模倣もほうをしてのけているかも知れません」



ようやっとマッシュさんのお屋敷に着いた。

レクスは当然の様に先に馬車から降りて、私へ向かって手を差し出してくれた。
その所作しょさ優美ゆうびというか洗練せんれんされているというか、私と一緒で馬車に乗ったの初めての癖に堂々としていて、物凄く様になっていた。

私はぽぽぽと赤面して、小さく格好いい……とかつぶいてしまった。
レクスは当然私の小さな声にも気付いて、パチン☆ と華麗かれいにウインクを飛ばす。
いつもの如く私は即座そくざにいっぱいいっぱいになってしまって、


「君達、馬車から降りるのくらい普通にやってくんない?」


ってノヴェンさんに呆れられてしまった。
でもレクスって動くといちいち格好いいんですよ。
私の心臓はドキドキしっぱなしなんですよ。慣れろって、どうやったら慣れるんですか。恐らく一生無理ですよ!
って反論したかったけど、そんな度胸なかったから大人しくすみませんと謝った。
ノヴェンさんのお陰で少し落ち着いた私は、にまにまと待っていてくれたレクスの手を取り馬車を降りた。


使用人さんわざわざ二人ががりで開けて貰った扉をくぐって、お屋敷に入れて貰って玄関ホールを横切っていく。
執事さんやらバトラーさん、従僕じゅうぼくさん、メイドさんらに頭を下げられながら。

ノヴェンさんもカンナさんも平然としている。
偉いお家の人なのだろうか?
レクスだってけろりとしている。
こういう時にレクスの生まれの良さを感じる。単に肝が据わっているだけかも知れないけど。


アキノ村の田舎娘である私はあまりにも場違いすぎて、思わずレクスに引っ付いくことでやり過ごしてしまった。お金持ち恐い。


どこも金ぴか。
窓もぴかぴか。
高価そうな壺もぴかぴか。
銅像ぴかぴか。
飾られてる鎧もぴかぴか。

玄関ホールだけでリコの実家がすっぽり入る。
広すぎる華美な空間に謎の圧を感じてしまう。
お金持ち恐い。


「いやいや、リコちゃん。君らも引けを取らんレベルで金持ちじゃん」

「!?」

「竜殺しの報奨金ほうしょうきんなんて、Aランク以上の冒険者20人分を想定そうていした額ですよ。それをたった2人で獲得したのですから、大金持ちも良いとこです」

「まだまだ余裕でキルスコア伸ばせる若さだし、マッシュさん以上の生活も夢じゃないよなあ」

「別にメイドは必要ないな。こんなに広くなくて良い。オレの家にはオレとリコとが居れば十分だぜ」

「世界狭すぎんだろ。若くて馬鹿みたいに金ゲットしたってのに。色んな選択肢がもっとさ、こう、未来は色々あるかも知れんって思わねえ?」

「だってオレはリコと結婚するし」

「断言しやがった」

「するさ。それ以外の未来はらない」

「うへ~お幸せに」

「ありがとう!」

「………………」


マッシュさんが再び私達を注視している。
何だろう?


ムルーちゃんの部屋。
可愛らしく印字された看板の扉を開く。
雇われの魔法使いと思われる女性がホッとした表情でマッシュさんを見つめた。頷くマッシュさん。


広々とした薄ピンク色の部屋。
可愛らしいぬいぐるみが沢山転がっている。
窓は大きく開け放たれていて、アメ玉はそこから流れ出てたに違いない。名残の様にちらほらとアメ玉が部屋に散らばっている。
この魔法使いの女性が、何らかの手段で街への被害を(あれでも)最小限に留めてくれていたらしい。


「良く持ちこたえてくれた。感謝する」

「いえ、すみません。これが限度で」

「よい。お前は何も悪くない」

「悪いのは割りとマッシュさんですしね」

「黙れノヴェン。間違えた後に速やかに修正し、被害少なく対処出来るのが大人というもの」

「ですが、これからアメ玉は少しひかえて下さい」

「う、うむ。まあ、仕方あるまい」



マッシュさんは誤魔化す様に咳払いと一つし、表情を改める。


可愛らしい子供部屋の奥に、可愛らしい女の子が2人。
見た目も髪の色も瞳の色も衣服も全く同じ。
いっそ見事で、いっそ不気味だ。



「さて、判別はんべつの時間だ」


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