私を陥れたヒロインに盛大なバッドエンドを

文野多咲

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王族会議3

数日後、再び王族会議が開催されることになった。何故、開催されるのか、先の決議は無効となるのか。クリスティーヌには疑念だらけだが、不在で決を採られてしまうようなことになってもいかず、招集に応じないわけにはいかなかった。

議場に向かえば、ギョーム、大公がテーブルについていた。次にジャクリーヌが現れる。ジャクリーヌは大公をひとにらみしてそっぽを向いた。そして、クリスティーヌの隣に座ってきた。

クリスティーヌにとっては今やジャクリーヌも信用ならない相手だ。シャルルの立太子を約束したのに簡単に裏切った。しかし、ジャクリーヌの方は自分の裏切りに気づいてもいないらしく、クリスティーヌに親し気に話しかけてきた。

「素敵よ、そのドレス。あなた、最近、趣味が変わったわよね。ますます美しくなったわ。輝かんばかりよ」

その日もダンの見立てた生地であつらえたドレスを着ている。グレイッシュピンクのオーガンジーに、一本薔薇の刺繍が全体にちりばめられており、赤い花弁と緑の葉軸がクリスティーヌの目と髪と調和している。

「クリスティーヌ、もう一度、ロベールとのことを考え直してくれないかしら」

ジャクリーヌは呆れることにそんなことを耳打ちしてきた。年長の女性はときに年少の女性にひどく傲慢になる。そして、それに気づくこともない。

クリスティーヌは笑みを浮かべたまま、拒否の意を示して目を伏せた。

「機嫌が直ったらでいいから、考えてちょうだいね」

ジャクリーヌは親しみを込めたつもりなのか、肩をひと撫でしてきた。クリスティーヌはさすがにぞわっとしてしまう。

機嫌を悪くして婚約解消を申し出たと思っているのか。これまでジャクリーヌに不満を抱いたことなどなかったが、今になってその人柄に疑いを持ってしまう。

(この方はロベールが可愛くてしようがないのだわ。私の気持ちなど考えられないほどに)

ロベールもマリアンナも現れたために、ギョームが口を開いた。

「先日の採決に大公閣下が異を唱えられております。無効としてもう一度採決を取りたいと」

ジャクリーヌはキッと大公を睨んだ。

クリスティーヌは声を上げた。

「待ってください。どんな瑕疵があって無効なのですか? それを教えてもらえなければ、納得できません」

クリスティーヌは大公を見た。大公は目を伏せたまま言った。

「それは、すぐに明らかになる」

「今、明らかにしてください」

「それをすべきは私ではないのだ!」

大公の声音はクリスティーヌを黙らせるのに十分だった。

ギョームがクリスティーヌを見た。

「納得できないのはわかります。そこで、本会議で、先日の決議の有効性を決議することを提案します。王族会議は最高決定機関、それもまた可能」

ギョームの弁は正しい。クリスティーヌは受け入れるしかなかった。それに、大公がマリアンナ側についたとしても、3票。こちらは4票だから優勢に変わりない。

(何度やっても、結果は同じ。ギョーム叔父さまもそれをわかっているはず。大公を立ててやっているだけのこと)

「では、先日の決議を有効とするか無効とするかを採決します。有効とする人は挙手を」

ジャクリーヌとクリスティーヌが手を挙げる。

「無効とする人は挙手を」

ロベール、大公、ギョームが手を挙げる。

大公とロベールが手を挙げるのは理解できるが、ギョームも手を挙げたのには不審を抱かざるを得ない。

しかし、これでは3対3、決議は成立しない。そこで、大公が口を開いた。

「国王の代理は我なり。よって決議あり」

ジャクリーヌが叫ぶ。

「なんですって?」

大公は懐から何かを出して高く掲げた。

ギョームが大公からそれを受け取って検めたのち、唸った。

「これは国王の御璽」

それは、国王の全権委任を意味する。

ジャクリーヌが叫んだ。

「嘘よ! そんなはずはない! フィリップがそんなことをするはずがないわ!」

「しかし、私はこれを兄上から受け取ったのです」

「嘘よ、そんなの、ありあえない。ありえないわ!」

ジャクリーヌは恐慌状態となった。立ち上がりわなわなと震え、やがて白目になったかと思えば、ふらりと倒れ込んだ。それを抱きとめたのは咄嗟に席を立った大公だった。

「誰ぞ、気付けを」

女官が運んできたブランデーを一口含むと、ジャクリーヌは目を開けた。そして、大公の腕の中にいることに気づいて、叫ぶ。

「離して! 触らないで!」

ジャクリーヌは女官に抱き着いて、大公から離れた。

「ああっ、ひどいっ、嘘よ! フィリップがそんなことをするはずがないの。大公は嘘を言っているんだわ!」

ジャクリーヌは女官に抱き着いたまま声をあげて泣き始めた。

「会議はいったん休止します」

ギョームは汗を拭き拭き、そう言った。会議は半刻後に再開されることとなった。

(まずいわ。フィリップ叔父さまの票が、マリアンナ側に回ってしまった)

これで、マリアンナ側は、ロベール、大公、フィリップの3票となる。

そして、ギョームの動きも不穏だ。

(まさか、ギョーム叔父さままでマリアンナについたってことはないわよね……)

***

王族会議は再開されることとなった。

ジャクリーヌは女官に支えられながら現れた。夫に裏切られたことがよほどショックだったのか、髪は乱れ、目もうつろだった。

何とかテーブルに座ると、大公と目が合うなり叫んだ。

「この人は御璽を盗んだのよ。フィリップが御璽を渡すはずがないの!」

大公はジャクリーヌに気の毒そうな目を向けた。

「証拠を示してもらおう」

「ないわ。でも、あの人がそうするはずがないの!」

「わかった。では、こうしよう、義姉上と私の双方が、兄上を代理する、あるいは、双方とも代理しない。どちらがいいか、義姉上が選んでください」

ジャクリーヌはわなわなと震えて何も答えられないでいる。大公が言った。

「では、双方とも代理しない、こうしましょう。御璽は私にあることは事実。これでも随分と譲歩しているつもりですが」

ジャクリーヌは大公を睨みつけたままやはり何も言わないでいると、ギョームが言った。

「では、陛下については、欠席とし、代理人もなし、とします」

とりあえず、フィリップの票がマリアンナに回らなかったことは良かった。

「では、聖王女殿下を長子とするや否やについて」

ロベールが口を開いた。

「先日の採決が無効というなら、血族の定義からやり直すべきだな」

ギョームはそれにあっさり納得した。

「それもそうですね。では、血族の解釈について」

「待て、マリーもテーブルについてからだ。先日の決議のときにはマリーもテーブルにいた」

クリスティーヌは異を唱える。

「それは、前回、権利なくマリアンナさまがテーブルにつかれていただけのこと。マリアンナさまが血族に当たるか否かの決議に、ご当人であるマリアンナさまが参加すれば決議の公正性は保たれませんわ」

「立太子承認の決議には、当人が参加するのだぞ。当人であることは何ら問題はない」

「殿下、論点をずらすのはおやめください! 議決権を持つ人が当人として決議に参加することと、議決権があいまいな人が決議に参加することは、全く異なっております!」

クリスティーヌの弁に、ロベールとマリアンナ以外は納得し、マリアンナはテーブルにはつかなかった。

「では、王族会議における血族の解釈について採決します。血族を自然血族に限定するか、法定血族も認めるか。法定血族を認める人は挙手を」

手を挙げたのは、ロベールと大公だった。ほっとすることにギョームは手を挙げていない。

「自然血族に限るとする人は挙手を」

クリスティーヌ、ジャクリーヌ、そして、ギョームが手を挙げる。

(やはり叔父さまはこちら側)

「次に、聖王女殿下を長子とするや否やについて」

大公が口を開く。

「これは、長子を男子に限るか否や、の決議だ。文言は厳密にしてほしい」

「畏まりました。では、長子を男子に限るか否や、限るとする人は挙手を」

挙手したのは、クリスティーヌとジャクリーヌの2人だった。これにギョームが加われば、過半数となるが、ギョームは手を挙げていない。

(えぇ?)

「では、男子に限らないとする人は挙手を」

手を上げたのは、ロベール、大公、そして、ギョームだった。

ジャクリーヌから、「おおぅ……!」と唸り声が聞こえてきた。ジャクリーヌはそのまま額に手を当てて椅子の背にもたれ込んだ。

(ギョーム叔父さま、どうして……?)

クリスティーヌはギョームを見るが、ギョームはふいとそっぽを向いた。

「長子は男子に限らないことが決定しました」

「マリーの長子が認められたな」

傍聴席のマリアンナが立ち上がって手を叩く。

「うふふぅっ、私が王太子よぉ。私はみんなから愛されているのねぇ。ねえ、クリスティーヌぅ、どんな気持ちぃ?」

クリスティーヌは動揺しながらも必死で頭を回転させる。

ギョームはやはりマリアンナ側についてしまったのだ。次の決議でマリアンナの立太子となる。

マリアンナ女王の誕生だ。

(このまま進んでは駄目)

「では、次に、聖王女殿下の立太子を承認するか否やの採決に入り……」

クリスティーヌは声を上げた。

「これは重要な決議。そこをしかとお考え下さい」

ギョームは頭が固い。そして、正義心が強い。そんなギョームがやすやすとマリアンナに懐柔されてしまったのが情けない。しかし、よくよく考えれば、マリアンナ女王が誕生すればどうなるか、ギョームもわかっているはずだ。愚王は国を傾ける。

ギョームの目を覚まさせなければならない。

「もう少し考える時間をください」

ロベールが冷淡に言う。

「考えても無駄だ。お前が考えたところで、どうせマリーが王太子になる」

「1週間、いえ、3日でいいのです。今少し、時間をください」

「どうしてもっていうならぁ、3日だけなら待ってあげるわよぉ」

ロベールが鼻の下を伸ばしながら同意する。

「マリーは本当に優しいなあ。クリスティーヌ、マリーに感謝しろ」

王族会議はまたもや休会となり、3日後、再会されることとなった。

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