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第2話 鬼の直感
しおりを挟む第2話「鬼の直感」
上野の高級マンションの一室。広いリビングには、無機質な光が差し込んでいる。そこには、刺された女性の遺体が無惨に横たわっていた。
相沢慎一は無意識に息を止め、視線をそらした。刺殺された被害者を目の当たりにするのは、彼にとって初めてのことだった。血の臭いが鼻をつき、緊張で手が震える。
「冷静にしろ、相沢。これからが本番だ」
隣に立つのは、相沢の相棒である鬼島新八──昭和の伝説的な刑事の思考を再生した、サイボーグ刑事だ。厳しい表情を浮かべる鬼島は、まるで生身の人間のように現場を観察している。だが、相沢は知っていた。鬼島の目はただの「目」ではなく、その視覚は膨大なデータベースと直接つながっている。
「被害者は坂本明美、35歳。外資系の企業で働いていたようだが……」
相沢が報告を始めようとした瞬間、鬼島の目が一瞬だけ淡い青い光を放った。彼の目は、被害者の顔を一瞥するや否や、その情報を解析し、内部データベースに照合していたのだ。
「坂本明美。身分証情報確認、勤務先: トランスワールドジャパン。社内のプロジェクトリーダー、未婚。過去3年間の交友関係も照合済み。特に際立ったトラブルはないが、最近元恋人との別離が確認されている」
相沢は驚いて鬼島を見つめた。わずか数秒で膨大な情報を引き出してきたその能力に、言葉を失う。
「さ、坂本さんの交友関係まで……」
鬼島は相沢の驚きを無視するかのように、部屋を歩き回り始めた。そして、リビングのテーブルに置かれた書類に目を留めた。その目が再び光を帯び、書類の文字をスキャンしていた。
「契約書か……だが、仕事用の書類ではないな。個人の保険関連だ。この書類は被害者のものではなく、誰か別の人物のものだ」
鬼島はスキャンし終えると、冷静に辺りを見回した。その目はまるで時代遅れの「カン」だけではなく、最新のAI技術を搭載した捜査マシンのようにすべてを把握していた。相沢は彼の捜査方法に戸惑いながらも、少しずつ鬼島の能力に感心し始めた。
「そして、犯人が施錠したまま部屋に入っている。つまり、被害者と面識があり、合鍵を持っていたか、自ら招き入れたと考えるべきだな」
「そうなると、犯人は知り合い……かもしれませんね」
「だが、それだけじゃない。写真を見てみろ」
鬼島は被害者の部屋に飾られた一枚の写真を指さした。そこには、被害者と一緒に写っている一人の男性が映っていた。鬼島は無言でその写真に目を向け、数秒後、データベースの照合結果を口にした。
「この男、森山圭介。IT関連の会社経営者だ。彼女の元恋人で、最近別れたばかりだ。重要参考人としてリストに入れておいた」
相沢は、鬼島が短時間で被害者の背景と関係者を把握したことに驚かざるを得なかった。
「すごい……。もうそこまでわかるんですか?」
「これはまだ始まりに過ぎない」と鬼島は冷静に答えた。「重要なのは、ここからどう動くかだ」
その時、無線が二人を引き戻した。
「相沢、鬼島。緊急だ。森山が今、自白の電話をかけてきた。住所は…」
「自白…?」相沢は驚いた表情で鬼島を見た。
「行くぞ」鬼島はすぐに立ち上がり、険しい表情で無線を切った。
森山が住むマンションの外に着いた二人は、部屋の前に到着したが、ドアには鍵がかかっていた。鬼島はドアの鍵を無言で見つめ、考え込んだかと思うと、即座に決断を下した。
「突入するぞ」
相沢が息を飲む間もなく、鬼島はドアを強引に開けた。
中は不自然な静寂が漂っていた。
二人が部屋の奥に進むと、そこに横たわっている森山の姿があった。彼はすでに冷たくなっていた。
「遅かったか……」鬼島が低く呟く。
相沢は一瞬、立ちすくんだ。そこには、ただの死体だけでなく、いくつかの異常な状況があった。森山の手のそばには、青酸カリの瓶が転がっており、その周りにこぼれた液体がじわじわと床に広がっている。そして、さらに目を引いたのは、その隣に置かれた血痕の付着したナイフ。
「鬼島さん……あのナイフ……」
相沢が震える声で言った。鬼島もすぐにナイフに目を向けた。その鋭い刃先には、乾きかけた血痕が付着していた。二人ともすぐにこのナイフが何を意味しているのかを理解した。鬼島はナイフを慎重に取り上げ、目でサーチする。
「間違いない。これは……坂本殺しに使われた凶器だ」鬼島の声が静かに響いた。
相沢は、信じられないという表情で鬼島を見た。二つの事件が、ここで一本の線で繋がったのだ。さらに、鬼島はナイフの刃を細かく見つめた。傷口の形状と一致することを一瞬で判断したのだ。
「同じだ。坂本の傷口とこのナイフの形状が完全に一致する」
「つまり……森山は坂本を殺したってことですか?」相沢が問うが、鬼島はわずかに首を横に振った。
「まだ断定するには早い。誰かが彼に自白を強要させ、そしてこの部屋で始末した可能性もある」
相沢はハッとする。鬼島の言葉が現実味を帯びて感じられ、場の緊張がさらに増していった。
青酸カリの瓶、血痕の付いたナイフ、そして何よりも二つの事件が繋がりを見せ始めたこの瞬間、相沢は捜査がこれからさらに複雑になることを悟った。
「相沢、事件はさらに深いぞ。覚悟しろ」
「はい、鬼島さん……」
相沢はその言葉に応じながらも、背筋に寒気を感じずにはいられなかった。事件は、まだ全貌を見せていない。
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つづく
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