サイボーグ刑事 鬼島新八

雨垂 一滴

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第4話 スリリングな追跡

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 鬼島は無言で現場を後にした。

 無数の思考がその冷静な表情の裏で駆け巡っているように見えた。

 路地に出た彼の目が一瞬、鋭く光る。

 視線の先には、暗がりに停まっている不審な車があった。

 その瞬間、車がエンジン音を轟かせて急発進した。

「逃がすか…!」鬼島は低く呟くと、自身の足をターボモードに切り替え、一気に加速して車を追いかけ始めた。

 路上を疾風のごとく駆け抜ける鬼島の姿はまさにサイボーグそのものだった。

 地面に衝撃を与える足音が響き渡り、その速度は並の車では追いつけないほどのものだった。

 車のテールランプが赤く光り、急カーブを切りながら逃走を続けるが、鬼島はそれを完全に視界に捉えたまま追いかける。

「ここで逃げられてたまるか!」

 鬼島はさらに速度を上げ、車の側面まで迫る。

 サングラスにマスクをした運転手がこちらを振り返り、驚愕の表情を浮かべるのが見て取れた。

 鬼島の金属製の手が車のドアに触れようとしたその時、車は突然蛇行し、鬼島の進路を妨害するように体勢を変えた。

 鬼島はスピードを落とすことなく素早く体をひねり、車の動きをかわす。

 しかし、その瞬間、彼のシステムに異変が起こった。

 ディスプレイに赤い警告灯が点滅し始め、視界にちらつくのは「バッテリー残量低下」の表示だった。

「しまった…!」

 鬼島の動きが徐々に鈍くなり始める。

 彼は全力で踏ん張ろうとするが、電力供給が尽きかけているのがわかる。

 それでも、必死に車の後部バンパーに手を伸ばす。

 あと数センチ、あと少しで届くはずだった。

 だが、無情にも彼のシステムが限界を迎えた。

 最後の瞬間に彼は一歩を踏み出したまま、突然その場で止まってしまう。

 電源が完全に切れ、鬼島の体はまるで巨大な彫刻のように路上で静止した。

 その時、後方からタクシーが急停車し、相沢が飛び出してきた。

「鬼島さん!」と叫びながら駆け寄る。

 目の前には、追跡中の姿勢を維持したまま、カチッと固まった鬼島の姿があった。

 片膝を曲げ、片腕を前に突き出したまま、まるで走るポーズを決めた像のように倒れている。

「嘘だろ……」相沢は一瞬呆然とした後、苦笑いを浮かべた。
「鬼島さん、本当に走ったまま止まっちゃうなんて…」

 倒れたままの鬼島の無表情な顔を見つめながら、相沢はどうすれば彼を動かすことができるか思案した。

 バッテリー切れのサイボーグ刑事を、どうにかして充電しなければならない。

「鬼島さん、こんな時に止まらないでくださいよ……まだ事件は終わってないんですから!」


 ---

 つづく

    
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