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⑵-①*
しおりを挟む夜が訪れ、薔薇の模様が刻まれたガラス窓から月光が差し込む。
エラは天蓋付きのベッドに座り、膝を抱えていた。部屋の豪華さ――絹のシーツ、濃紺の絨毯、金箔の装飾――は、彼女の心を落ち着かせるどころか、閉じ込められた檻の冷たい美しさを思い起こさせる。
朝のユーリの気さくな笑顔、クロワッサンの香り、ほっとした安堵。それら全てが、ヴィンセントの帰宅を待つ不安にかき消されていた。昨夜の記憶――熱い唇、首筋の甘い印、優しくも支配的な指先――が、身体に鮮烈に焼き付いている。エラの指が、ネグリジェの裾をぎゅっと握る。
扉のノックが、静寂を破る。エラの心臓が跳ね、身体が硬直する。ユーリの軽やかな音ではない。重い足音が近づき、扉が勢いよく押し開かれる。ヴィンセントだった。黒いスーツに身を包み、青い瞳が月光の下で獲物を捉えるように鋭く光る。彼の口角が、意地悪く上がる。
「よぉ、エラ。ずっとここに閉じこもってたのか?」
低く、挑発的な声。エラの喉が、乾いた音を立てる。彼女は膝を抱えたまま、視線を逸らした。答えたくなかった。だが、ヴィンセントの革靴が絨毯の上で鈍く響き、ベッドに近づく。彼女の心臓が、早鐘のように鳴る。
「……何、ですか」
気取った声で答えたが、震えは隠せなかった。ヴィンセントがベッドの縁に腰掛け、彼女を見下ろす。青い瞳が、まるで値踏みするように彼女を捕らえる。
「何だ、そのツラは。俺が帰ってきたのに嬉しくねぇのか?」
「嬉しくありません。…それ以上、こっちに来ないで」
小さな反抗だった。
だが、ヴィンセントの笑みが深まる。まるで彼女の抵抗が彼の嗜虐心を煽るかのように、彼の手が突然エラの腕を掴む。
「! やめ……」
「来い」
力強く、だがどこか計算された動き。彼女をベッドに引きずり込み、柔らかいマットレスが背中を受け止める。ネグリジェの裾が乱れ、エラの頬が熱くなる。
「や……っ」
掠れた声が漏れる。ヴィンセントが身を屈め、彼女の首筋に指を滑らせる。昨夜のキスマークをなぞり、くすりと笑った。
「しっかり付いてんじゃねぇか」
「………ぅ、や…ッ」
「こんな震えて、随分可愛いな」
彼の声に、エラの身体が震える。羞恥と恐怖が胸を締め付ける。だが、どこかで、抑えきれない微かな期待が蠢く。昨夜の熱い触れ合いが、身体に熱を帯びて刻まれている。彼女は唇を噛み、視線を逸らした。
「見ない、で」
「あ? 見ねぇわけねぇだろ。お前は俺のもんだからな」
ヴィンセントの言葉が、昨日の「諦めろ」と言う言葉を思い出させ、エラの胸が締め付けられる。
「エラ」
彼の指がネグリジェの肩紐をずらし、露わになった肌に触れる。冷たい指先が、熱を帯びた肌をなぞる。エラの息が、喉元でつかえた。
「ふ、んん……っ!」
ヴィンセントの唇が、彼女の唇に触れる。柔らかく、熱を帯びたキスだった。昨夜と同じだが、さらに深く舌が絡み合って、エラの身体がビクンと跳ねる。羞恥と、未知の快感が頭を混乱させた。
彼女は目を閉じて必死に抵抗しようとするが、ヴィンセントの手が彼女の胸元を滑る。ネグリジェ越しに、柔らかく膨らんだ双丘を軽く擦る。優しく、壊れ物を扱うような手つき。だが、その裏には、逃れられない絶対的な支配が宿っている。
「ん、ぁ……っ」
掠れた声が漏れる。エラの頬が、さらに熱くなる。ヴィンセントが唇を離し、彼女の反応を見定めるように見下ろす。青い瞳が、満足げに光る。
「まだ慣れねぇか。思ってたよりも、身体は正直なのにな」
彼の手が、ネグリジェの裾をたくし上げる。指先が太ももを滑り、下着越しに秘部を優しくなぞった。そのままクリトリスを布の上から刺激され、今までにない感覚がエラにピリッと襲い掛かった。
「やっ、なに……」
エラの身体が反射的に硬直する。昨夜の触れ合いも脳裏に蘇り、恐怖と羞恥が胸を締め付ける。彼女の目から、一筋の涙がこぼれ落ちる。
「やめて……!」
「やめねぇわ」
必死に声を絞り出す。だが、ヴィンセントの笑みが深まる。
「いちいち泣いてねぇで、早く気持ちよくなっちまえよ」
彼の声は挑発的で、どこか楽しげだ。エラの涙が頬を伝う。彼女は唇を噛み、震える声で吐き出した。
「あなたなんて、大っ嫌い……!」
「……へぇ」
ヴィンセントの動きが一瞬止まる。青い瞳が、彼女をじっと見つめたが、すぐに口角が上がる。
「嫌いでもいいぜ。どう思ったって、お前は俺のもんだ」
彼の手が、再度彼女の乳首を軽く擦る。同時に再びクリトリスを刺激されて、体の中心から何かが滲むような感覚がした。優しく、だが強制的な触れ合い。エラの息が乱れて、羞恥と抗いがたい快感が、頭を真っ白にする。
「ぅ、っあ……んっ!」
自身が甘い声を上げているのにも気付かず、エラはぎゅっと目を閉じて刺激に耐える。
ヴィンセントは、エラの膝裏に手を回し、ゆっくりと持ち上げた。ネグリジェの裾がさらにめくれ上がり、鍛えられた彼の指先が、彼女の秘部を覆う薄い布地の下に滑り込む。冷たい空気に触れた肌が、ぶわりと粟立つ。
「なにして……やめて」
エラの瞳が恐怖に大きく見開かれると、ヴィンセントは低く笑った。
「気持ち良いだけだから、安心しろ」
彼はエラの身体を支えながら、自らの上半身をかがめる。そして、そのまま顔を埋めた。
温かい息が、デリケートな肌に直接吹きつけられる。エラの身体が大きく跳ねた。ネグリジェの下で、布一枚隔てただけの秘部が、ヴィンセントの唇に触れる。
「っひ、や……ぁッ!?」
「ん……イイ声出せんじゃねえか」
今までにない、直接的な熱と湿り気がエラを襲う。ヴィンセントの舌が蕾を吸い上げるように絡め取ると、電流のような刺激が全身を貫いた。腰が勝手に浮き上がり、彼女は喘いだ。
「ぁ、んんっ……や、め……っ、く、ッ!」
必死に拒絶の言葉を紡ごうとするが、声は意味をなさず、甘い吐息となって喉から漏れるだけだ。ヴィンセントは構わず、深い呼吸と共にその熱を吸い上げ続ける。蕾を優しく舐め上げたり、時には舌の先で細かく擦り上げたり、緩急をつけた動きにエラの呼吸はさらに乱れていく。
彼の舌の動きに合わせて、エラの腰が小さく揺れる。下着が肌に張り付き、内側から熱いものが滲み出る感覚に、羞恥と困惑が頭を支配する。脳裏には、自分を値踏みした男たちの視線がちらつき、こんな姿を彼に見られているという屈辱が込み上げた。だが、同時に、身体は抗い難い快楽に囚われていく。
「んぅ、あ……やだ……ふ、っ……!」
「こんな濡らしといて、嫌はねえだろ。なぁ?」
頭を左右に振り、口から漏れる声を必死に抑えようとするが、ヴィンセントはまるでエラの抵抗を楽しむかのように、さらに深く舌を絡める。蜜を吸い上げる音が、薄暗い部屋に甘く響き渡る。快感が波のように押し寄せ、エラの思考を麻痺させていく。
「…ッ、ああ……!」
堪えきれずに、エラは背中を反らせた。指先がシーツを掻きむしり、全身の力が抜けていく。意識が遠のくような、しかし鮮烈な悦びに、身体が震え、その場で完全に脱力した。
だが、ヴィンセントは途中で手を止めた。ビクリと体を揺らし、薄らと目を開けた彼女を覆うように、ベッドに片手をついて見下ろす。青い瞳に、満足と抑えた欲望が宿る。
「じゃ、また明日」
低く余裕を帯びた声。彼の手が、エラの頬を軽くなぞる。熱を帯びた指先が、涙の軌跡を拭う。
ヴィンセントがベッドから立ち上がり、部屋の扉に向かう。革靴の音が絨毯の上で鈍く響いて、そのうち遠くに消えて行った。
彼女は震える膝を抱え、窓の外を見つめた。月光に照らされた薔薇の庭が、遠くで静かに揺れる。かつて両親と過ごした庭の記憶が、ふいに蘇る。
あの頃の自由な笑顔、苺の甘い香り。だが今は、紛れもなくヴィンセントの檻の中だった。
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