婚約破棄されましたが、もふもふと一緒に領地拡大にいそしみます

百道みずほ

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出発準備をしよう!

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「ズズズ、ズズズ」
な、何? 何の音?

朝からなにごとなの?
わたしは思わず廊下に顔を出すと、ブラウンがソファやテーブルなど引きずっていた。ベッドの上で、開拓に必要な日常生活のものをえらんでいたところだった。

「奥さまから許可はいただいております。私がいないをいいことに、どうせお嬢様は床に座って、ゴロゴロするにちかいないとおっしゃってまして……、倉庫にあったソファセットを持っていってとのことです」

ま、そうだけど。まいったなあ。
チラッとブラウンをみると、ブラウンはふふふと笑っていた。

まだ朝食後から間もないというのに……、ブラウンははりきっている。

「なので、ソファとテーブルお待ちしました」
「ブラウン、ずいぶん力持ちだよね。重くないの?」
私はびっくりして口を開けてみていた。

「これくら大したことありませんよ。アリスさまは、マジックポケットでしばらく暮らすつもりでしょうから……。いろいろお持ちしますね! チェストもいりますし、ワードローブもあったほうがいいですね。あと、ベッドも……」

ブラウンはわたしのマジックポケットにソファとテーブルを押し込むと、パタパタと廊下をかけて戻って行く。

マジックポケットで寝るつもりだったけど、がっつり暮らすとは思わなかったわ。たしかに野宿よりずっと安全だけど。

この際、食料とか、お皿とか入れてこうかな。布団も。ソファがあれば眠れるもんね。ベッドはいらないかもよ? うーん、やっぱりいるかな。
あとは、マカミのお世話セットもいるなあ。

すぐさまブラウンが果物やお菓子を両手いっぱいに抱えてやってきた。
「アリスさま、厨房からの差し入れですよ」
「ありがとう! こんなに?」

「マジックポケットなら中身は腐らないんだろうって厨房長が……。お嬢様なのに腹をすかせちゃかわいそうだということです。これから備蓄用食事の方もご用意すると言ってましたよ。パントリーも作りましょうね」

甘やかされている……。なんてありがたいんだろう。もう感動しちゃうよ。これで食糧事情は問題なしね。

「でも、最低限の調理器具はお持ちくださいね。自炊することもあると思いますから。それと、わたしはアリスさま付きのメイドなので、ご一緒させてください」

「え? でも……」
私はブラウンを見た。

ブラウンにとって屋敷の方が快適なのに……。来るの? いいの? ところで、本当に鍋とかフライパンとかいるの? 料理とかしなくてもいいんじゃない?
私、苦手なんだけど。

「アリスさま、料理できるんですか? 」
「……できません」
「どうやって食べていくおつもりですか?」
ブラウンが私の顔に近づいた。
怖いですよ、ブラウン。
ええっと、ちょこちょこと実家に帰ろうかと。

「まさかここに魔力を使って帰るとか思っていたんじゃないですか? では、掃除は? マカミのお世話は? 誰がするんですか」
「ええっと。私が」
「できるんですか?」
ブラウンの圧迫に私はひるんだ。

「魔力を使い果たしていたらどうするんですか? それに……、開拓中、貴族の誰かが訪ねてきたらどうするんですか。社交しないといけない事態になったら、二人きりで話をするとかありえませんよ。上級貴族なんですからね。お付きがいないとだめなんですよ」

つまり、私は一人で全部できないし、一応どんな場面も想定して、公爵令嬢としての体裁は保つためにブラウンをつれていけというわけね。

確かにそうだけど。でも、服くらい一人で着れるよ? とりあえずの食料もあるし。誰か来ても居留守しちゃえばいいじゃない。
わたしが不服そうにしていたら、ブラウンがキッとみた。

「服は着られるかもしれませんが、コルセットは締められないでしょ? 」
「……コルセットしなければ、いいじゃない?」

「お客様が来たらどうするんですか? お茶やパーティーに誘われたら? まさか普段着なんていいませんよね?」
ブラウンが睨む。

ひー。その目は……。ちゃんとしますって。
思いっきり首を横に振る。

「ドレス着ます。パーティーには行かないとはいいません……。すいませんでした」
私はとりあえず謝っておく。ブラウン、怒らないで。私、赤ん坊の時からお世話になっているから、ブラウンには弱いのよ。

「来客が来たら居留守とか、まさか考えてませんよね?」
実は考えてました、なんて言えません。

「いいですか、わたくしが一緒に参りますから。おいていかれたら、お嬢さまが心配でお屋敷にいてもそわそわしてしまい、仕事になりません。もしわたくしが邪魔でしたら、普段はマジックポケットに入っております」

私はこくりとうなずいた。

「ああ、それに……、アリスさまのマジックポケットはすでにだいぶ荒れていそうですよね。マジックポケットの整理もさせていただかないと」

思考と行動がばれてる。さすがです、ブラウン。
ご指摘の通りです。最近あちらこちらに物が分散しています。

「よろしくお願いします」
観念するわ。あなたが正しい。
私の返事に満足すると、ブラウンは笑った。

ようやく事なきを得たわたしはため息をついた。ブラウン様にはやはり逆らえない。

ブラウンはマジックポケットの中にささっと入っていった。ちらりと中をのぞくと、ブラウンはさーっと掃除して、あっという間に隙間を作り、マジックポケットの中に新たな私の部屋が形成していく。まるで屋敷ではないかってくらいよ?

ブラウンが整理整頓してつくった部屋はすごく居心地がいい。さすがブラウンとしかいいようがない。私のツボを心得ている。
マカミの居場所もちゃんとつくってもらって、マカミもご機嫌だ。しっぽを振り振り。ゴロゴロしている。
やだな、私がマカミの世話をしてなかったみたいじゃない?
ちょっとだけばつが悪くなった。

私はというと……。ブラウンがさっき置いてくれたソファに座って、魔法道具の本を読んでいるのだが。

「アリス様。ちょっと! この本の山、なんとかなりませんか」
「アリス様! 魔法練習場のがれきはどうするんですか」

ブラウンにすぐに呼び出され、読書なんてできなくなってきていた。
ブラウンはマジックポケットのメンテナンスで忙しいみたい。

ひーん、マカミと一緒に本を読みながらごろごろもふもふして癒されたい。
ジト目でマカミを見るが、マカミはあえて視線を合わさないようにしている。

ひどい。お前も共犯だろう?
ううう。
マカミに訴えるが、我関せずらしい。

ちなみに私は公爵令嬢だから掃除をしなくてもいいのよと言えるような、プライドは持ち合わせてません。

自分のことはなるべくしましょうねと育てられております。だって、ここはへき地ですからね。人材だって限りがあるんです。

うちの使用人はそれはもう優秀ですけれど、大勢ではないんです。内緒ですが。よく言えば少数精鋭かな。

それに、ここの公爵領の歴史から言っても、いつ王と仲たがいしてもいいようにとか、いつ境界の隣国と闘うことになるかもわからないからという理由で、もともとここの人間は自衛と独立精神は旺盛なのよ。だから、子どもたちの教育も「一人で生きていける力をつけよ」が加わっているのよね。

そのおかげで私は魔法の研究ができているんだけどね。

王都にいる令嬢たちは魔法とか自立というよりも婚活重視なはず。それはそれでコツとか技術が要りそうって思っちゃうのは、ロマンス小説の読み過ぎかしら。

そういえば、新しい小説がでるはずなのよ。

今読んでいるのは、王都や街で大人気の小説で「エドワード王子の恋の物語~僕の運命の恋人は~」っていう本。もうこの題名を聞いただけで、ラブがいっぱいってわかるよね。

王子が最初に好きになったのは継母になる予定だった美しい少女・アン。父である王と結婚するアンを好きになってはいけない……、でもやっぱり好きと揺れ動きながら、王子はアンの面影がある人を次々と好きになっていくの。

王子には婚約者もいるのに、あちらこちらで恋をして……。婚約者がつらいと泣けば、婚約者を甘く慰めて……。たまに女性関係があちらこちらにバレて、女性たちに恨まれて王子が大変な目に遭ったりもするんだけど。これが読んでいて面白い。

華やかな舞台で美男美女の恋の数々。普通の人じゃこんな恋愛味わえないじゃない?
小説って素敵よね。

でも、現実的に言えば、私はエドワード王子みたいな人と結婚も恋もノーセンキューよ。もしエドワード王子が自分の恋人だったら、うんざりする。

だって浮気しちゃうわ、今度は本気になっちゃっうわと常に複数の恋でフラフラしてるんだもん。そんな人ぜったいにいや。

やっぱり自分だけを好きでいてほしいわよね。政略結婚でも、そこは誠実でいてほしいっていうのは、甘い?

ああ、嫌なこと思い出しちゃった。私ってば、婚約破棄されたんだっけ。はやく忘れたいわ。
やっぱりこういう時は究極魔法の修行よね。でも、修業はブラウンがマジックポケットの片付けをしてるから今はお休みなんだなあ。

ブラウンは魔法練習場のゴミやら埃やら煤やらをブラウンが必死に集めている。
ありがとう。ブラウン。お世話になります。

ああ、こっちに向かって歩いてきた。
ブラウンの顔が、こ、怖いわ。
絶対怒ってる。すいません、ごみをためて……。

塵取り? 塵取りはそこにあります!
私が無言で指をさすと、ブラウンは塵取りを取りに向かった。

新しい本買いに行こうかな。読書で現実逃避しよっと。
「本屋さんに行ってくる!」
ブラウンに声をかける。

「お嬢さまはここにいても邪魔なので、お暇ならマカミと一緒に町で買い出ししてきてください」
私はブラウンから買い出しメモを渡された。
すいません、戦力外で……。

「おつかい、いってきます」
「本屋に寄ったらすぐにお戻りくださいね」
「うう、わかりました」
寄り道しません。約束します。

「マカミ、町にいこう!」
マカミはのっそり起き上がって、体を伸ばした。ぶるぶると体を震えさせると、寝ていた毛がふわふわになる。
わーいと思って抱き着こうとしたら、マカミは鼻先でわたしをマジックポケットの外へ押し出した。

しっかりしてるわね、マカミ。ブラウンの教育がマカミにまで行き届いているとは、侮れない。さっさと行こうってことね。わかったわ。

「町へ連れて行って」
私がマカミをなでると、背中へ乗れと指示された。

究極魔法で移動してもよかったんだけど、誰が見ているかわからないからお外ではやらない決まりがあるの。
町には異国の人もたくさんいる。何をどう思われるか気をつけないと、トラブルの火種になるからね。それくらい、私だってわかりますとも。

面倒だけど、ちゃんとそういうルールは守るよ。自分のためにもなるからね。

あれ、木立の向こうにまた黒い馬みたいのが見えたけど……。気のせい?ブラックナイトじゃない?
目を凝らしていると、マカミがせっついてきた。
「ほら、黒い馬がいるみたいだけど……マカミ、見える?」

マカミは知らん顔だ。
気に入らないのか、気にするなっていうことなのか、どっちかよくわからない。

それにもう一つ黒い頭が見えるんだけど。あれはニンゲンかしら。
なんだか気味が悪いわね。

私が渋い顔をしていたら、マカミに前足ですくわれ、ふわっと背中に乗せられた。

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