婚約破棄されましたが、もふもふと一緒に領地拡大にいそしみます

百道みずほ

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海辺の町リマー 4

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「この鳥肉をクレープで野菜と巻いた料理、初めて食べました」
王子は感動したみたい。すでに3つめを完食です。

「私はここリマー出身なんで、いろんな国の料理を食べて育ったんですよ。大通りには外国人のコミュニティが出している店もたくさんあって……、そこに通い詰めて、外国の料理の味を勉強したんです」
「そうでしたか」
王子はガイソンに微笑みました。ガイソンの頬もなんとなくポッと赤くなったような気がするのは気のせいでしょうか。

「この料理は、隣の……、ほら、香辛料を使うのが上手いヘカサアイ王国の料理をアレンジしたものです」
「なるほど……。ヘカサアイのものは、めずらしいですね」
王子は感心した様子で尋ねます。

「外国人のコミュニティにはヘカサアイ王国の人々もいるんですか?」
「ピュララティスの人々の方が多いですね。ヘカサアイの人は……数人じゃないかなと思いますが……」
ガイソンは空を見ながら答えました。

「……そうですか」
王子の顔が一瞬だけ曇りましたが、次に私の方を見たときはいつも通りでした。

ヘカサアイ王国……。砂漠と乾いた山々に覆われた国で、特産になるような農産物があまりない国です。干ばつがひどいときは飢餓と貧困が悪化すると聞いています。私たちのいるハトラウス王国とは今は争っていませんが、昔は緑の大地を求めてハトラウス王国に侵略を試みていたと聞いています。

ハトラウス王国は積極的にヘカサアイ王国に農産物を輸出するということで、平和条約を結んだらしいんですけどね。

あそこの王室、教会のカラーはダークグリーンですが、民族カラーは赤。灼熱の太陽を表しているって聞いたことがあります。

赤ですか……。なんだか嫌な予感がします。料理はちょっぴり辛くて、美味しいけどね。

テーブルの上の料理もあらかた食べ終え、残ったものはマジックポケットにガイソンが入れられるようにしてくれました。ついでに珍しい食材に、これからの旅路用の食料も補給してくれました。
もうお腹がパンパンに詰まっています。一口も入りません。気持ちも穏やかに眠くなってきました。

「ずいぶん欲張って食べましたねえ」
ブラウンが白い目でチクリと嫌味を言いますが、食べたもん勝ちです。

「こんな素晴らしい料理なら、毎日食べ過ぎてしまいますね」
王子も満ち足りた様子で微笑みました。

ガイソンは王子に褒められて嬉しそうです。
マカミはペロペロと舌を出し、手で顔を撫でています。ガイソンのスペシャルなご飯をもらって、大満足な様子です。なんか毛並みがつやっつやしてませんか? 確かにシャンプーしたばかりですけど……、恐るべしガイソンの美容食。

「マカミはいったい何を食べたの?」
「守護神さまですからね、アリス様とさほど変わりませんが……。冒険者がとってきたという魔力がこもっているという噂の一角獣の肉が手に入ったので、そちらも献上しました」

「え?」
マカミ、食べたの? ねえ? 一角獣だよ?
思わずマカミの眼を見つめます。
「わふぅ」
マカミはだるそうに返事をしました。お腹いっぱいで眠そうになっています。

「食べないのももったいないですしね……。アリス様も召し上がるなら、ローストして、薄切りにして、マジックポケットの棚においておきましょう。この食材、食べていいものか、わからなくて……、手が出せなかったんです。マカミに聞いたら、召し上がるというので、お出ししたのですが……」

ガイソンが魔石でできた冷蔵庫から一角獣の肉を出してきました。ピンク色をした塊ですが、表面はキラキラと七色に輝いています。

「おおお、光っている」
王子もびっくりしています。

「そうなんですよ。噂では食べられると聞いていたのですが、実際食べていいものかもわからなくて……。ただ、売るに売れず、困っている冒険者から、見るに見かねて買い取った次第です。肉はまったく腐らないようですよ」

「え? そうなんですか」
ブラウンも驚いていると、ナディがうなずきます。

不思議な一角獣の肉を手に入れましたが、いつか役に立つ日が来るんでしょうか。とりあえず、一部ローストしてもらうことにしました。せっかくのお肉ですからね。命は大切にいただくことにします。

もちろん、王子も、ブラウンも、私も、みんなで頂くことにしますよ。一蓮托生?です。マカミが食べてもなんともなさそうですし、色つやがよくなるくらいですから、おそらく害はないでしょう。楽しみ?ですね。

王子とナディたちに別れを告げ、二階の部屋に戻ってきました。明日の出発の準備をしなければいけません。

だいたいの生活必需品はブラウンが揃えて、補充しておいてくれていますが、私もきちんと自分に必要なものを確認します。

「そろそろお嬢さまは休まれた方がいいと思います」
ブラウンが私の部屋をノックして、顔をのぞかせました。ブラウンはわたしの部屋の隣にいます。

「はーい。おやすみ、ブラウン」
「おやすみなさいませ」
ブラウンは部屋に戻っていきました。

ここの屋根裏部屋は、星が見えるのよね。ふふふ。久しぶりだから、行ってこようかな。
自分の部屋を抜けて、王子の部屋の前を通り、屋根裏部屋に通じる階段をそっとのぼります。

「アリス様、ブラウンが寒くないようにって言ってましたよ。夏でもこの辺りは海風で夜は冷えるんですよ」
1階の片づけをしていたナディが階段を忍び足で登る私の姿を見つけたみたい。階下から声が飛んできました。

ブラウン、なんでもお見通しか!

仕方なくもう一度部屋に戻って、羽織るものを探して、上着を着ていると、マカミがのっそりと起きてきました。

「星を見に行くけど、行く?」
「ワフ」
マカミが小さく返事をしました。これで暖かい毛皮がゲットです。でも、屋根裏部屋に続く細い階段……、マカミは登れなさそう。

「マカミ、小さくなって。抱っこしてあげる」
マカミは小さくなりました。

小さくなってもマカミは暖かいなあ。
ぎゅっと抱きしめながら、屋根裏部屋に向かうと、階段はすでに冷えていました。
海からの風の音がします。かなり外は風が強そうです。

天窓を開けようとしますが、建付けが悪くなっているみたい。力いっぱい押しても開きません。

えええ? こんなことってある?

マカミを下におろして、ガチャガチャやっても開きません。これって力技の案件? いや、なんか違ってる? びくともしません。

マカミは、ここにいるのが飽きたようです。あくびをしながら、眠そうにしています。
えー、寝ないで。マカミ、寂しいでしょ。

ガチャガチャとガラスの窓を押したり引いたりしていますが、全く動きません。
がーん。ここで諦めないといけないのでしょうか。

「わふう」
小さく鳴くと、マカミはどこかへ行ってしまいました。温かなベッドのある、私の部屋に戻ったに違いありません。そしてそこですぐに気持ちよく寝るんですよ、きっと。

なんだか星とかどうでもよくなってきました。もう一回だけやって、ダメなら、部屋に帰って寝ちゃおうかな。

若干いじけ気味で、もう一度チャレンジしてみます。
これがラストということで、思いっきり力を込めてガタガタとやっていたら、ぬっと腕が現れました。

「ちょっと貸してごらん。ほら」
簡単に窓をスライドさせてくれました。

がーん、そうだった。ここの窓は特殊だったんだ。思い出して少し恥ずかしくなりました。

「星を見るんでしょ? 夜は海のそばだから寒いだろう? 背中を温めてあげる。はい、どうぞ、アリス」
王子が私の背中から抱きしめています。

ひー、王子に後ろから抱きしめられている……。これは恥ずかしいです。カーッと血が熱くなってきて、心臓がバクバクします。

「寒いから長くはダメだよ……」
王子が耳元でささやきました。もう星どころじゃありません。茹でダコです。意識が飛んできそうになります。

後ろを振り向くと、王子の顔がすぐそばにあるし……。もう、どうしたらいいんですか。

……。恥ずかしくて悶絶したいけど、できません。

かちこちに固まった私は王子に抱かれたまま半時ほど星空を見上げていました。
この格好、思い出すと顔から火が出そうです。




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