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◇18◇ ひまわり畑のヘリオス。
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「花でも見ながら話そうぜ」
「は、はい!」
「……てか、気になってんだけど、何でずっと敬語?」
「ま、まぁそれは……雇用主ですし?」
「雇用主はうちの母親なんだけど」
「い、いいじゃないですか!
ひまわり、本当にきれいですね。ヘリオスに似合います」
「なんじゃそりゃ」
「いえ、本当に」
ひまわり畑はとてもきれいだった。
私たちの背よりもはるかに高く伸び、太陽のエネルギーを存分に吸収したかのようなパワフルな魅力で、輝くように咲き誇っている。
ここでは毎年ひまわりを育て、種を食用にしたり、油を搾ったりするそうだ。
咲いているだけで無視できない存在感。
花はそろって東を向いている。
その中をヘリオスが通ると、まるで花たちまでがヘリオスに恋焦がれているみたいに見えた。
「ええと、その……さっきの話ですけど」
声をかけると、ヘリオスが振り向いた。
「手のひら返されるのは誰でも嫌かな、って思って」
「え?」
「そんだけ。俺もあったから」
「…………」
手のひらを返された、と言えば、確かにそうだ。
私は今までお父様お母様の言うことを聞く良い子として、これまで生きていたし、少なくともお母様からはそう言われることも多かったと思う。
アルマからも、弟のルドルフからも、使用人のみんなからも頼りにされていた。
社交界で出会った貴族令嬢の友達ともいい関係を築いていたと思う。
だけど、あの夜会の日から、私の評価は180度変わった。
みんなあの日から、私のことを嫌いになった。
「…………どうした?」
足が止まってしまった。
ヘリオスが気づいて駆け戻ってくる。
「悪ぃ。やなこと思い出させちまったか」
「大丈夫です」顔を上げ、私は無理矢理でも笑うことにした。「教えてください。ヘリオスはどういうことがあったのか」
「ん? ああ。よくあるやつ。家が置かれてる状況が良くなったり悪くなったりとか、それに加えて長男か次男か――で、態度コロコロ変えられるやつな」
おっと。ちょっと説明ざっくりしすぎです。
「しかし、みんなそんなに、跡継ぎがいいかね」
ズキッ、と胸が痛くなった。
昔の自分の言動を言い当てられたみたい。
やっぱり次男で跡継ぎじゃないヘリオスは、社交界でひどい扱いをされるのかな。
手のひらを返された、というのは、きっと成長過程でのことだろう。
貴族の子は、互いの親の身分、誰が長男で跡継ぎ、誰が次男で跡継ぎじゃない、というのを残酷なほど早く吸収して覚えていくから。
「……ヘリオスは悪くないですよ」
「ん? ああ。俺もそう思う」
「ヘリオスは良い人で、素敵な人です」
「……ん?」
「身体を張って助けてくれて、優しくて、めちゃくちゃ強くて、オーラが後光が差してて、こんな素敵な人に、手のひら返す人の気持ちなんて、わからないです!」
「あ、ああ……いや、もういいから」
「字も綺麗だし! 足も速いし! 馬車の運転うまいし! 教科書とか物持ちいいですし!」
「……帰ろうぜ」
夕映えの中、お城まで私たちは、何種類ものお花畑を通り抜けながら、帰った。
ヘリオスの耳が少し赤くなっていた気がしたけれど、夕焼けの中なので、あまり確証は持てなかった。
◇ ◇ ◇
ちなみに城に戻ると、他の使用人の皆さんから
「ヘリオス様とどんな話したの!?」
「何した!? どこまでした!?」
と勢い良く聞かれ、あ、そういう期待のもとでの盗み聴きだったのね……、と察したのだけど、まったくご期待に沿えず申し訳ございませんでした。
◇ ◇ ◇
「は、はい!」
「……てか、気になってんだけど、何でずっと敬語?」
「ま、まぁそれは……雇用主ですし?」
「雇用主はうちの母親なんだけど」
「い、いいじゃないですか!
ひまわり、本当にきれいですね。ヘリオスに似合います」
「なんじゃそりゃ」
「いえ、本当に」
ひまわり畑はとてもきれいだった。
私たちの背よりもはるかに高く伸び、太陽のエネルギーを存分に吸収したかのようなパワフルな魅力で、輝くように咲き誇っている。
ここでは毎年ひまわりを育て、種を食用にしたり、油を搾ったりするそうだ。
咲いているだけで無視できない存在感。
花はそろって東を向いている。
その中をヘリオスが通ると、まるで花たちまでがヘリオスに恋焦がれているみたいに見えた。
「ええと、その……さっきの話ですけど」
声をかけると、ヘリオスが振り向いた。
「手のひら返されるのは誰でも嫌かな、って思って」
「え?」
「そんだけ。俺もあったから」
「…………」
手のひらを返された、と言えば、確かにそうだ。
私は今までお父様お母様の言うことを聞く良い子として、これまで生きていたし、少なくともお母様からはそう言われることも多かったと思う。
アルマからも、弟のルドルフからも、使用人のみんなからも頼りにされていた。
社交界で出会った貴族令嬢の友達ともいい関係を築いていたと思う。
だけど、あの夜会の日から、私の評価は180度変わった。
みんなあの日から、私のことを嫌いになった。
「…………どうした?」
足が止まってしまった。
ヘリオスが気づいて駆け戻ってくる。
「悪ぃ。やなこと思い出させちまったか」
「大丈夫です」顔を上げ、私は無理矢理でも笑うことにした。「教えてください。ヘリオスはどういうことがあったのか」
「ん? ああ。よくあるやつ。家が置かれてる状況が良くなったり悪くなったりとか、それに加えて長男か次男か――で、態度コロコロ変えられるやつな」
おっと。ちょっと説明ざっくりしすぎです。
「しかし、みんなそんなに、跡継ぎがいいかね」
ズキッ、と胸が痛くなった。
昔の自分の言動を言い当てられたみたい。
やっぱり次男で跡継ぎじゃないヘリオスは、社交界でひどい扱いをされるのかな。
手のひらを返された、というのは、きっと成長過程でのことだろう。
貴族の子は、互いの親の身分、誰が長男で跡継ぎ、誰が次男で跡継ぎじゃない、というのを残酷なほど早く吸収して覚えていくから。
「……ヘリオスは悪くないですよ」
「ん? ああ。俺もそう思う」
「ヘリオスは良い人で、素敵な人です」
「……ん?」
「身体を張って助けてくれて、優しくて、めちゃくちゃ強くて、オーラが後光が差してて、こんな素敵な人に、手のひら返す人の気持ちなんて、わからないです!」
「あ、ああ……いや、もういいから」
「字も綺麗だし! 足も速いし! 馬車の運転うまいし! 教科書とか物持ちいいですし!」
「……帰ろうぜ」
夕映えの中、お城まで私たちは、何種類ものお花畑を通り抜けながら、帰った。
ヘリオスの耳が少し赤くなっていた気がしたけれど、夕焼けの中なので、あまり確証は持てなかった。
◇ ◇ ◇
ちなみに城に戻ると、他の使用人の皆さんから
「ヘリオス様とどんな話したの!?」
「何した!? どこまでした!?」
と勢い良く聞かれ、あ、そういう期待のもとでの盗み聴きだったのね……、と察したのだけど、まったくご期待に沿えず申し訳ございませんでした。
◇ ◇ ◇
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