冷遇王女の脱出婚~敵国将軍に同情されて『政略結婚』しました~

真曽木トウル

文字の大きさ
5 / 90

5、王女は任務を課せられる

しおりを挟む
   ◇ ◇ ◇

 我が子にほとんど関心のない父……国王陛下から呼び出されることはめったにない。
 まれに呼び出されるときはお叱りか、クロノス王太子殿下にハニートラップを仕掛けろとか、そういう話ばかり。
 誉められたことも、抱き締められた記憶もない。

 だから、きっと何か嫌な話なのだろうと思っていた……が、


「でかしたぞ、アルヴィナ。ベネディクト軍の将軍をつかまえるとは。
 この好機を逃さず、ベネディクト王国に入り、王太子クロノスに近づいてその身体で篭絡ろうらくせよ」


 ────やっぱり嫌な話だった。


「恐れながら国王陛下。
 わたくし、これよりホメロス将軍とするのですが」

「やはりそなたに抜けられると実務的に困るのでな。
 そなたの元婚約者がウィルヘルミナに変えたいと申し出てきた時、これ幸いと婚約解消したが……。
 それでも今回の千載一遇の好機には替えがたい」


 国王陛下のずれた返答。
 話を聞いてないのか、あえて無視をしているのか。


「ですから、わたくし、結婚を」

「王妃とならずとも良い。
 将来の王の意志決定を左右できる愛人となるのだ」


(──────無理!!!)


 そもそも男の人が恐いのに、夫でもない人を誘惑しろと? どうやって??


「……恐れながら国王陛下。
 申し訳ございませんが、それは不可能です」

「ああ、ホメロス将軍の目を欺くのが難しいということだな?」

「いえ、それもございますが」

「確かに警戒はしているであろうな
 海千山千の腹黒宰相の孫であり、将軍ともあろう者。
 敵国の王女を妻にしようというのだ。
 それだけの利を狙ってのことだろうからな」

「……………………」


 思わず、言葉に詰まる。

 それは、そうだ。
 イーリアス様だって私が王女でなければ、会ったばかりの悪評だらけの、しかも酔っ払った女に求婚なんてしなかっただろう。


「結婚後、折を見て必要な人員を送り、王太子クロノスと近づける画策をさせよう。
 良いか、そなたは妻である前にトリニアスの王女なのだ。
 その身体は、この時のために神が授けたもの。
 王女として、身をもって祖国に尽くすがよい」


 ……だけど。
 たとえ利用しようとしているのだとしても、私を身体でしか見ない父や兄や祖国より、ずっとイーリアス様の方がいいと思えてしまう。


 それでも国に身も心もすべて捧げることのできない私は、王女失格なのだろうか?


「良いな、アルヴィナ。
 絶対に篭絡するのだぞ。では下がれ」


 命令だけ下して、私の返事を聞く気のない国王陛下は私を部屋から追い出した。


 廊下で、胸を見下ろし、ため息をつく。

 結婚相手でもない男性を誘惑しろ?
 ……想像しただけでゾッとして、頭がおかしくなりそう。

 ────それを私に命じたのが実の父親だという事実に、涙が出そう。


「王女殿下」


 声をかけられ、顔を上げる。
 イーリアス様が廊下で私を迎えるように待っていた。


「お話は終わりましたか」

「……はい。ベネディクト王国に嫁ぐに当たっての心得のようなお話でしたわ」

「お顔色がよろしくないようですが」

「少し、厳しいお話も多かったものですから」


 歩きながら思う。
 本当に残念。もしも私がこの方と同じ国の一貴族令嬢で、なんのしがらみもなく夜会でお会いしたなら、普通に好感を抱いたはず。
 ただ、もしそうだったらこの方は私になど求婚してはいなかったかもしれないけれど……。


(いえ、その場合は他の男性と同じように、私のことを胸でしか見なかったかしら)


 もしもイーリアス様までそうだったら、嫌だな……。


「王女殿下」

「はい」

「もし何か、困っていることがあれば、相談していただけますか」

「は……い、いえ! 困っていることなど、ありませんよ?」


 危ない!
 反射的に『はい』って言いかけた!

 もし彼がいまの会話に〈誓約魔法〉をかけていたら『困っていること』をすべて彼に言わなければならなくなるところだった。


(─────いや、さすがにそんな高度な魔法を無詠唱で使うのは無理なのかな?)


 だけど、彼は和平条約に関して、トリニアス側にまったく気づかれずに〈誓約魔法〉をかけられたわけだし。


「心配なさらないでください。
 本当に大丈夫ですから」


 そう言って、私は無理矢理ほほえみ、誤魔化した。


   ◇ ◇ ◇


 書面ができ次第、私は急ピッチで仕事を引き継いだ。
 仕事の引き継ぎ先は、23歳の第1王子と、第2王女から第4王女の、成人(我が国では16歳)している兄妹4人だ。
 加えて、重臣たちにもそのサポートを依頼する。


 その中で、私のことを嫌ったり軽視したりしていた重臣の何人かが、

「アルヴィナ殿下……ここまでお一人でたくさんのお仕事をなさっていたのですな……」

と、軽く絶句していた(それもうちょっと早く気づいてほしかったんですけど)。


 国を動かすためには誰かがやらねばならない、必要な仕事。
 兄も重臣たちも、引き継ぐ上で特に不満は言わなかった。

 第2王女と第4王女は、仕事が増えるのを嫌がって逃げようとするので、
「国王陛下の指示です」
と強調して、どうにか教え込んだ。

 妹たちの中で意外と一番大丈夫そうだったのは、第3王女、私の元婚約者と婚約したウィルヘルミナだった。
 ある程度独学で勉強していたらしい。
 ちなみに私の結婚を受けて、彼女の結婚は1年先に延びたそうだ。

 ウィルヘルミナは万人の目を引く美少女だ。
 殿方からは引く手あまた。
 なのに、なぜわざわざ私の婚約者を奪ったのか?

 理由は聞かなかったけど、一応心配だったので
「自分の意思だったの?」
と聞いてみた。


「……べつに、押し付けられたとかじゃないわ。
 全部私の意思」
だそうだ。

 ウィルヘルミナに対して思うところはあった。
 だけど、イーリアス様の登場により、私の中で元婚約者に対する感情はほぼ0に等しくなっていたので、


「あなたが嫌がってるのに押し付けられたということじゃないのなら、いいわ」


と返すと、なぜか黙ってうつむいていた。


   ◇ ◇ ◇


 一連の引き継ぎが終わり、私の荷物も整い。
 ベネディクト王国へと出発する日がやってきた。


「国王陛下へのご挨拶は終えたので、あとは王妃陛下へのご挨拶ですね」

「そう……ですね」


 私を産んだ母親。
 そして私を一番憎んでいる人。


「お部屋に向かいましょうか」

「いえ、あの……王妃陛下には、私1人でご挨拶してもよろしいでしょうか?」

「かまいませんが……よろしいのですか?」

「……はい」

「お部屋の前までお送りして問題ありませんか」

「ええ」


 王妃陛下は、私の結婚相手のことなど関心はないだろう。
 同席してイーリアス様まで嫌な思いをすることはない。

 ────そうして。


「失礼いたします」


 その日私は数年ぶりに、王妃陛下の部屋に入った。
しおりを挟む
感想 38

あなたにおすすめの小説

転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。

ラム猫
恋愛
 異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。  『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。  しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。  彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…

ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。 一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。 そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。 読んでいただけると嬉しいです。

聖獣の卵を保護するため、騎士団長と契約結婚いたします。仮の妻なのに、なぜか大切にされすぎていて、溺愛されていると勘違いしてしまいそうです

石河 翠
恋愛
騎士団の食堂で働くエリカは、自宅の庭で聖獣の卵を発見する。 聖獣が大好きなエリカは保護を希望するが、領主に卵を預けるようにと言われてしまった。卵の保護主は、魔力や財力、社会的な地位が重要視されるというのだ。 やけになったエリカは場末の酒場で酔っ払ったあげく、通りすがりの騎士団長に契約結婚してほしいと唐突に泣きつく。すると意外にもその場で承諾されてしまった。 女っ気のない堅物な騎士団長だったはずが、妻となったエリカへの態度は甘く優しいもので、彼女は思わずときめいてしまい……。 素直でまっすぐ一生懸命なヒロインと、実はヒロインにずっと片思いしていた真面目な騎士団長の恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID749781)をお借りしております。

【完結済】隣国でひっそりと子育てしている私のことを、執着心むき出しの初恋が追いかけてきます

鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
 一夜の過ちだなんて思いたくない。私にとって彼とのあの夜は、人生で唯一の、最良の思い出なのだから。彼のおかげで、この子に会えた────  私、この子と生きていきますっ!!  シアーズ男爵家の末娘ティナレインは、男爵が隣国出身のメイドに手をつけてできた娘だった。ティナレインは隣国の一部の者が持つ魔力(治癒術)を微力ながら持っており、そのため男爵夫人に一層疎まれ、男爵家後継ぎの兄と、世渡り上手で気の強い姉の下で、影薄く過ごしていた。  幼いティナレインは、優しい侯爵家の子息セシルと親しくなっていくが、息子がティナレインに入れ込みすぎていることを嫌う侯爵夫人は、シアーズ男爵夫人に苦言を呈す。侯爵夫人の機嫌を損ねることが怖い義母から強く叱られ、ティナレインはセシルとの接触を禁止されてしまう。  時を経て、貴族学園で再会する二人。忘れられなかったティナへの想いが燃え上がるセシルは猛アタックするが、ティナは自分の想いを封じ込めるように、セシルを避ける。  やがてティナレインは、とある商会の成金経営者と婚約させられることとなり、学園を中退。想い合いながらも会うことすら叶わなくなった二人だが、ある夜偶然の再会を果たす。  それから数ヶ月。結婚を目前に控えたティナレインは、隣国へと逃げる決意をした。自分のお腹に宿っていることに気付いた、大切な我が子を守るために。  けれど、名を偽り可愛い我が子の子育てをしながら懸命に生きていたティナレインと、彼女を諦めきれないセシルは、ある日運命的な再会を果たし────  生まれ育った屋敷で冷遇され続けた挙げ句、最低な成金ジジイと結婚させられそうになったヒロインが、我が子を守るために全てを捨てて新しい人生を切り拓いていこうと奮闘する物語です。 ※いつもの完全オリジナルファンタジー世界の物語です。全てがファンタジーです。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

転生したら地味ダサ令嬢でしたが王子様に助けられて何故か執着されました

古里@3巻電子書籍化『王子に婚約破棄され
恋愛
皆様の応援のおかげでHOT女性向けランキング第7位獲得しました。 前世病弱だったニーナは転生したら周りから地味でダサいとバカにされる令嬢(もっとも平民)になっていた。「王女様とか公爵令嬢に転生したかった」と祖母に愚痴ったら叱られた。そんなニーナが祖母が死んで冒険者崩れに襲われた時に助けてくれたのが、ウィルと呼ばれる貴公子だった。 恋に落ちたニーナだが、平民の自分が二度と会うことはないだろうと思ったのも、束の間。魔法が使えることがバレて、晴れて貴族がいっぱいいる王立学園に入ることに! しかし、そこにはウィルはいなかったけれど、何故か生徒会長ら高位貴族に絡まれて学園生活を送ることに…… 見た目は地味ダサ、でも、行動力はピカ一の地味ダサ令嬢の巻き起こす波乱万丈学園恋愛物語の始まりです!? 小説家になろうでも公開しています。 第9回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作品

死に戻ったら、私だけ幼児化していた件について

えくれあ
恋愛
セラフィーナは6歳の時に王太子となるアルバートとの婚約が決まって以降、ずっと王家のために身を粉にして努力を続けてきたつもりだった。 しかしながら、いつしか悪女と呼ばれるようになり、18歳の時にアルバートから婚約解消を告げられてしまう。 その後、死を迎えたはずのセラフィーナは、目を覚ますと2年前に戻っていた。だが、周囲の人間はセラフィーナが死ぬ2年前の姿と相違ないのに、セラフィーナだけは同じ年齢だったはずのアルバートより10歳も幼い6歳の姿だった。 死を迎える前と同じこともあれば、年齢が異なるが故に違うこともある。 戸惑いを覚えながらも、死んでしまったためにできなかったことを今度こそ、とセラフィーナは心に誓うのだった。

このたび、あこがれ騎士さまの妻になりました。

若松だんご
恋愛
 「リリー。アナタ、結婚なさい」  それは、ある日突然、おつかえする王妃さまからくだされた命令。  まるで、「そこの髪飾りと取って」とか、「窓を開けてちょうだい」みたいなノリで発せられた。  お相手は、王妃さまのかつての乳兄弟で護衛騎士、エディル・ロードリックさま。  わたしのあこがれの騎士さま。  だけど、ちょっと待って!! 結婚だなんて、いくらなんでもそれはイキナリすぎるっ!!  「アナタたちならお似合いだと思うんだけど?」  そう思うのは、王妃さまだけですよ、絶対。  「試しに、二人で暮らしなさい。これは命令です」  なーんて、王妃さまの命令で、エディルさまの妻(仮)になったわたし。  あこがれの騎士さまと一つ屋根の下だなんてっ!!  わたし、どうなっちゃうのっ!? 妻(仮)ライフ、ドキドキしすぎで心臓がもたないっ!!

【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!

白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。 辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。 夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆  異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です) 《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆ 

処理中です...