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7、王女は初めて汽車に乗る
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◇ ◇ ◇
トリニアス王国とベネディクト王国の間には、両国から叙爵を受けた小さな公国がたくさんある。
言い方は悪いが、大国2国の緩衝地帯になっているのだ。
私たちはその中央を突っ切る街道を移動した。
馬車で5日半、街道沿いのお宿に泊まりながら。
初めは、少し眠って起きては(ああ、こんなに寝てしまったっ)と焦った。
それに、仕事が終わらず間に合わなかった悪夢を何度も見ては跳ね起きた。
どうしようどうしよう……と思いながら起きては、宿屋にいる状況に混乱して、しばらくしてから
(……あ……そうだわ。引き継いできたのだった……)
と思い出す。
仕事を何もしなくていい状況になかなか慣れない。
それでも、少しずつ、眠れる時間は長くなっていく。
体調が良いというのはどんな状態か、もうずっと長いこと忘れてしまっていたけど、移動中もイーリアス様は毎日私を気遣ってくれる。
やがて私たちは、トリニアスに叙爵された国の領域を出て、ベネディクト側に入っていく……。
◇ ◇ ◇
出発から6日。
早朝宿を出て、ほどなくして馬車から降りるように言われ…………私は『それ』を初めて見て、驚いた。
「…………なんなのですか、これは!?」
その大きすぎる物体に、度肝を抜かれた。
とにかく大きくて、長くて、艶々と輝いている。
まるで馬車の、人が乗る部分だけが延々と長く伸びて続いたような……。
先頭部分には、なんとも奇っ怪な、煙突つきの鉄の車があった。
「汽車は初めてですか。乗り物です」
「乗り物!?」
……これ、乗り物?
建物じゃなくて?
確かに、よく見ると、個々の箱にも車輪がついている……けれど。
「この汽車はまるごと我々の移動用です。荷物は寝台車に、馬車と馬は後部の貨物列車に積み込みます。まずは乗り込んでみてください」
「え、ええ」
(馬も牛もついていないのに、どうやって動くんだろう。
それよりもこんなにたくさんの重たい箱が、動くの?)
疑問に思いながら、私はイーリアス様に案内されるまま、ホームという一段高くなっているところから“汽車”の中に乗り込んだ。
「……え」
驚いた。
そこには優雅なサロンのような空間が広がっていた。
城の部屋とくらべればコンパクトではある。
けれど、装飾は美しく、並ぶ調度品は、いずれも最上だ。
「座っ……てみても、よろしいですか?」
「ええ、どうぞ」
ソファに掛けてみる。
ゆったりと座り心地がよい。
ますます『乗り物』に乗っている感じがしない。
壁には大きな窓。
カーテンを開けてみると、びっくりするほど透明度の高い板ガラス。
(ガラスひとつとっても、圧倒的な技術の差があるわ……)
窓に触れながら、思わずため息をついた。
テーブルを挟んで反対側に、イーリアス様が座る。
すると…………。
「わ、わ!! 動きました!!」
不思議な感覚だ。
自分が今いる部屋自体が、スーッと動いている。
「外をご覧になってみてください」
「わ………………!!」
流れていく。景色が。
田園風景、それから街道。
ただただそれらが、馬車などより遥かに速いスピードで後ろへと去っていく。
「すごい、すごいです!! こんなに速いんですか??」
私は思わず窓ガラスに貼りついて外の光景を追ってしまう。
「こちらの汽車は王族や要人の移動、それから外国からの要人を迎えるときに使用しております。
汽車自体は我が国でもまだまだ珍しいのですが、いずれは国中に鉄道網を走らせる所存です」
「すごいすごい!! いま、これはいったい何の生き物が牽いているのです?? もしかして、ベネディクトにはドラゴンやワイバーンがまだ生息していたりするのですか??」
「生き物ではなく、蒸気機関という機械を動力とした車が牽いているのです」
「ジョウキキカン……?」
「この汽車は休みなく走りますので、向こうについたら、じっくり見ていただきましょう。きっと興味深くご覧いただけると思いますよ」
景色が流れる流れる流れる。
田園、市街、自然……。
目に映るのはどれも知らない光景。
窓から外を眺めているだけでもとても楽しく、いとおしいような時間が過ぎていく。
車輪と重い車体が奏でる金属音。
そこにシュッシュッシュッシュッと不思議な音がブレンドされた力強い走行音。
馬車の優しいそれとはまったく違うその音が、まるで初めて聴く音楽のよう……。
「お茶を用意させましょう」
「ええ。あの、しばらく外を見ていてもよろしいですか??」
「外、ですか?」
「はい。見ていて、とても楽しいのです!」
トリニアスの国内は多少は見てまわったけれど……もうここは外国。
似ているところもあれば違うところも多くて……。
(こんな速さの乗り物もあって……世界って私が思っているよりも、とっても広いんだわ。そしてこんなに美しい……)
月並みかもしれないけれど、そんな風に思った。
まるでトリニアス王城にいたときに見てきたものがすべて灰色がかってでもいたかのように、汽車の窓から見る景色の鮮やかさが私の心を打つ。
心が解きほぐされていくのを感じた。
────ついつい時のたつのも忘れて見いってしまい、その間に、時計の針は結構まわっていたようだ。
「昼食の時間ですので、そろそろご案内しましょう」
とイーリアス様に声をかけられる。
「ああ、どこかに停まってお食事をするのですか?」
「いえ。食堂車がございます」
「食堂車?」
「どうぞ、こちらへ」
「え、ええ……」
イーリアス様に案内されるまま、サロンのような部屋(一つ一つの細長い部屋を、『車両』とイーリアス様は呼んでいた)から、ひとつ後ろに行ってみる。
すると……。
「ここが食堂車です」
「わぁ……!」
「食事は三食ここでいただきます」
そこにはやはり、乗り物の中だとはとても思えない光景が広がっていた。
トリニアス王国とベネディクト王国の間には、両国から叙爵を受けた小さな公国がたくさんある。
言い方は悪いが、大国2国の緩衝地帯になっているのだ。
私たちはその中央を突っ切る街道を移動した。
馬車で5日半、街道沿いのお宿に泊まりながら。
初めは、少し眠って起きては(ああ、こんなに寝てしまったっ)と焦った。
それに、仕事が終わらず間に合わなかった悪夢を何度も見ては跳ね起きた。
どうしようどうしよう……と思いながら起きては、宿屋にいる状況に混乱して、しばらくしてから
(……あ……そうだわ。引き継いできたのだった……)
と思い出す。
仕事を何もしなくていい状況になかなか慣れない。
それでも、少しずつ、眠れる時間は長くなっていく。
体調が良いというのはどんな状態か、もうずっと長いこと忘れてしまっていたけど、移動中もイーリアス様は毎日私を気遣ってくれる。
やがて私たちは、トリニアスに叙爵された国の領域を出て、ベネディクト側に入っていく……。
◇ ◇ ◇
出発から6日。
早朝宿を出て、ほどなくして馬車から降りるように言われ…………私は『それ』を初めて見て、驚いた。
「…………なんなのですか、これは!?」
その大きすぎる物体に、度肝を抜かれた。
とにかく大きくて、長くて、艶々と輝いている。
まるで馬車の、人が乗る部分だけが延々と長く伸びて続いたような……。
先頭部分には、なんとも奇っ怪な、煙突つきの鉄の車があった。
「汽車は初めてですか。乗り物です」
「乗り物!?」
……これ、乗り物?
建物じゃなくて?
確かに、よく見ると、個々の箱にも車輪がついている……けれど。
「この汽車はまるごと我々の移動用です。荷物は寝台車に、馬車と馬は後部の貨物列車に積み込みます。まずは乗り込んでみてください」
「え、ええ」
(馬も牛もついていないのに、どうやって動くんだろう。
それよりもこんなにたくさんの重たい箱が、動くの?)
疑問に思いながら、私はイーリアス様に案内されるまま、ホームという一段高くなっているところから“汽車”の中に乗り込んだ。
「……え」
驚いた。
そこには優雅なサロンのような空間が広がっていた。
城の部屋とくらべればコンパクトではある。
けれど、装飾は美しく、並ぶ調度品は、いずれも最上だ。
「座っ……てみても、よろしいですか?」
「ええ、どうぞ」
ソファに掛けてみる。
ゆったりと座り心地がよい。
ますます『乗り物』に乗っている感じがしない。
壁には大きな窓。
カーテンを開けてみると、びっくりするほど透明度の高い板ガラス。
(ガラスひとつとっても、圧倒的な技術の差があるわ……)
窓に触れながら、思わずため息をついた。
テーブルを挟んで反対側に、イーリアス様が座る。
すると…………。
「わ、わ!! 動きました!!」
不思議な感覚だ。
自分が今いる部屋自体が、スーッと動いている。
「外をご覧になってみてください」
「わ………………!!」
流れていく。景色が。
田園風景、それから街道。
ただただそれらが、馬車などより遥かに速いスピードで後ろへと去っていく。
「すごい、すごいです!! こんなに速いんですか??」
私は思わず窓ガラスに貼りついて外の光景を追ってしまう。
「こちらの汽車は王族や要人の移動、それから外国からの要人を迎えるときに使用しております。
汽車自体は我が国でもまだまだ珍しいのですが、いずれは国中に鉄道網を走らせる所存です」
「すごいすごい!! いま、これはいったい何の生き物が牽いているのです?? もしかして、ベネディクトにはドラゴンやワイバーンがまだ生息していたりするのですか??」
「生き物ではなく、蒸気機関という機械を動力とした車が牽いているのです」
「ジョウキキカン……?」
「この汽車は休みなく走りますので、向こうについたら、じっくり見ていただきましょう。きっと興味深くご覧いただけると思いますよ」
景色が流れる流れる流れる。
田園、市街、自然……。
目に映るのはどれも知らない光景。
窓から外を眺めているだけでもとても楽しく、いとおしいような時間が過ぎていく。
車輪と重い車体が奏でる金属音。
そこにシュッシュッシュッシュッと不思議な音がブレンドされた力強い走行音。
馬車の優しいそれとはまったく違うその音が、まるで初めて聴く音楽のよう……。
「お茶を用意させましょう」
「ええ。あの、しばらく外を見ていてもよろしいですか??」
「外、ですか?」
「はい。見ていて、とても楽しいのです!」
トリニアスの国内は多少は見てまわったけれど……もうここは外国。
似ているところもあれば違うところも多くて……。
(こんな速さの乗り物もあって……世界って私が思っているよりも、とっても広いんだわ。そしてこんなに美しい……)
月並みかもしれないけれど、そんな風に思った。
まるでトリニアス王城にいたときに見てきたものがすべて灰色がかってでもいたかのように、汽車の窓から見る景色の鮮やかさが私の心を打つ。
心が解きほぐされていくのを感じた。
────ついつい時のたつのも忘れて見いってしまい、その間に、時計の針は結構まわっていたようだ。
「昼食の時間ですので、そろそろご案内しましょう」
とイーリアス様に声をかけられる。
「ああ、どこかに停まってお食事をするのですか?」
「いえ。食堂車がございます」
「食堂車?」
「どうぞ、こちらへ」
「え、ええ……」
イーリアス様に案内されるまま、サロンのような部屋(一つ一つの細長い部屋を、『車両』とイーリアス様は呼んでいた)から、ひとつ後ろに行ってみる。
すると……。
「ここが食堂車です」
「わぁ……!」
「食事は三食ここでいただきます」
そこにはやはり、乗り物の中だとはとても思えない光景が広がっていた。
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