冷遇王女の脱出婚~敵国将軍に同情されて『政略結婚』しました~

真曽木トウル

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23、第3王女は疲弊する【ウィルヘルミナ視点】

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   ◇ ◇ ◇


 ────第1王女アルヴィナの出発から11日。トリニアス王城。



「で、殿下!」

「ウィルヘルミナ殿下ぁ!!」


 アルヴィナ姉様が枠組みを作ってくれていたとはいえ……北方の被災者支援の仕事はヘビーだった。
 重臣たちの助言を得ながら連日睡眠時間を削って取り組み、どうにか山場をこえて。
 ……で、少し休もうと部屋に戻ったところで、侍女2人が私の部屋に駆け込んできた。


「……何かあったの?」

「殿下、第2王女イルネア様が……!!」


 胃がキリキリと痛んだ。
 またあの人か。


「聞かせて。
 何があったの?」

「はい。
 いま、こちらのお部屋に……!」


 バン!! と、乱暴な音を立てて扉が開かれ
「ウィルヘルミナ!!」
と神経質な金切り声が部屋の中に響いた。


「イルネア姉様……どうなさいましたか?」

「なんてことをしてくれたの!!
 どうして私のドレスの予算が凍結してるのよ!」

「…………姉様。侍女が周囲にいますわ」

「侍女なんていようが関係ないわよ!!
 説明しなさいよ!!」


 もう。イルネア姉様付きの侍女たちが後ろで泣きそうな顔してるじゃない。
 王女がさらしていい醜態じゃないわ。


「……あなたたち」


 睡眠不足で頭もクラクラ、精神的にかなり限界ぎみなところ踏ん張って、私はどうにか、自分の侍女たちに微笑みかけた。


「姉様と行き違いがあったようだわ。
 話をしたいから2人にしてくれる?
 イルネア姉様付きの侍女たちも連れて」

「「は、はいっ!!」」


 彼女たちは、心配げな顔をチラリと見せながら、イルネア姉様付きの侍女たちも連れて部屋を出ていく。

 パタン、と扉が閉められるか閉められないかのうちに再びイルネア姉様が眉をつり上げる。


「どういうことなのか、説明しなさいよ!!」

「外に聞こえるわよ?
 王家の新規服飾購入の予算は、国王陛下にお願いして、全員分凍結させたわ。宝飾品と旅行関連もよ。
 災害に見舞われた北部がいま深刻な食糧不足だという情報が入ったから、支援物資に追加の食糧を加えるためのお金が必要だったの」

「バカじゃないの!?
 蓄えも作ってなかった無能な農民たちなんて飢え死にさせときなさいよ!!
 自己責任だわ!!」

「……お願いだから外でそれ言わないでよ。一応あんた王女よ?」


 ああもう、胃だけじゃなく頭も痛くなってきた。
 ぐっ、と腹に力をいれて踏ん張る。


「人道的な話だけじゃないわ。
 ここで農民の大量死なんて起こせば長期間税収が減るし土地が荒れる。
 飢えた人々は生きるために他の土地に流れて、犯罪に手を染めざるを得ない状況に追い込まれ、広範囲で治安が悪化する。
 悪化した治安を元通りにするのにどれだけかかると思っているの?
 何より、国民に対して国の信頼を損ねることになるのよ」


 言い返すと、難しい話には頭がついていかなかったのか、イルネア姉様はぽかんとする。


「そもそも姉様、これまで相当予算超過してきたじゃない。人前に出るもの全部公務扱いにして。
 一回しか袖を通してないドレスがどれだけあるのよ?
 いまあるドレスをちょっと直して着れば全然問題ないでしょ?」

「ほんとバカなの?
 貴族たちの前で同じドレスを2度着るなんて、王家の名誉に関わるでしょう!?」

「は? ドレスにばかすか税金使ってる方が、よっぽど関わるわよ」

「なんですって!?」


 イルネア姉様は私の顎を掴み上げる。


「いいことウィルヘルミナ。
 王妃陛下がおっしゃってたわ。
 王家の一番大事な仕事は、君臨すること。
 国民に存在感を示すことよ。
 そして姿を現す際には最上の私でなければならないの。
 それを、一度着たドレスを、また着ろだなんて……!!」

「国民の前に姿を現すのも大切な仕事ね。
 でもそれって国が回ってこそなのよ?
 私たちは何よりまず、国を回さないといけないの」

「何でもいいから!
 取り消させなさい!
 新しいドレスが必要なの!
 アルヴィナの結婚式だってあるんだから!
 古いドレスで、あのお美しいクロノス王太子殿下の前になんて出られないわよ!!」

「誰か出席するとしてもイルネア姉様じゃないわよ……。
(というか出ても相手にされないわよ……)」


 後半はさすがに言わないであげたけど、あーもう面倒くさい。


「支援物資輸送の第1陣はもう王都を出たわ。
 第2陣第3陣のために、いまもみんな物資をかき集めてる。
 もう私に取り消す権限はないから、国王陛下に言って」


 チッ、と舌打ちをすると、イルネア姉様は私を突き飛ばし、荒々しく部屋を出ていった。


(……なんであれで、王女のつもりなのよ!?)


 私より年上のくせして、まったく、あの姉は……!


(というか、あの人、仕事ちゃんとやってるのかしら??
 この前突っ返した仕事も……)


 軍事関連はイルネア姉様の管轄だけど、元帥たちの動きが微妙に怪しいみたいだし……。
 何かあったら、わけもわからないまま責任取らされるわよ?


(……って、人のことは人のことよ。心配するのはやめよう)


 今でも慣れない仕事や、無責任に人の時間を奪ってくる婚約者や、王妃からの圧力に吐きそうなのに、他人のこと心配する余裕なんて……。


 コンコン、と、扉がノックされた。


「大丈夫よ。どうぞ」


 入ってきたのは侍女たちだった。


「あの……ウィルヘルミナ様……ご無事でいらっしゃいましたか?」

「心配をかけたわね。姉様は帰ったわ」

「良かった……申し訳ございませんでした」

「仕方がないわ、王女相手だもの。
 あなたたちは何もされなかった?」

「はい」


 ……ホッとした。
 イルネア姉様がよく自分付きの侍女に酷いことをしていると聞いていたから。
 アルヴィナ姉様が注意をしてもまったく聞かなかったのよね。。。


「…………僭越ながらウィルヘルミナ殿下」

「なぁに?」

「昨日、王妃陛下にお呼び出しをされていたことも心配しておりました。
 酷いお言葉を言われたりなどなさいませんでしたか?」

「…………まぁ、そうね」


 王家の新規服飾購入の予算の大半は、イルネア姉様と王妃が使っていた。
 姉であるアルヴィナ姉様を呼び捨てして悪口を言いまくるほど王妃に心酔していたイルネア姉様は、王妃の真似をしていたのだ。

 2人は服飾費だけじゃなく遊興や旅行やら身の回りの品々にもお金を使っていて、そういった浪費を国王はずっと苦々しく思っていたらしく、今回の私の提案に、渡りに船とばかり飛びついた。

 その際、王妃との対立を避けるために、国王は私の名前を強調したのだ。


 ────昨日。
 呼び出した私を王妃は、酷く冷たい眼差しで睨みつけた。


『あなたには目をかけていたのですけれどね』


 そう言って、はぁ、とため息をつき、


『もうあなたを娘とは思いません』と宣言した。


 背筋が凍り、息が止まる思いがした。
 今後王妃から、どんな酷い報復があるのだろうか……。


(罰として婚約解消とかだったら逆に万々歳だけど…………いや、ないわね)


 あとから、王妃周りの侍女たちに話を聞いて知った。
 もともとアルヴィナ姉様の婚約自体、王妃から姉様への嫌がらせだったようなのだ。

 姉様には、年齢ももっと近いそれなりの国の王子との婚約打診も来ていたそうだが、何だかんだ理由をつけて王妃が邪魔をして断り、15歳年上の属国の公子(そして中身がアレ)との婚約を取り付けた。

 さほど国益にかなっているとも思えないその婚約は、絶対に、自分よりも好条件の相手とは結婚させたくないという執念ゆえだったのではないか……と。

 おそらく国王は王妃の意図には気づいていないだろうとも。


(…………私は完全に、自分から大外れのくじを引きにいったわけね)


 実感して、あまりの自業自得っぷりに、自嘲の笑みを浮かべた。


   ◇ ◇ ◇


 ────ところがこの2日後、ベネディクト王国からアルヴィナ姉様直筆の手紙が届き、王城は大混乱に陥った。

 アルヴィナ姉様の暗殺未遂、そしてその犯人がベネディクト人を装ったトリニアス人であったことを報告し、『戦争の火種とすることを目的としたものではないか』という姉様自身の見解まで書かれていた。

 真っ先に疑われたのは、いまだベネディクト王国との再戦を狙うトリニアス王国軍の元帥。

 だけど、王家など自分が都合よく使うための駒としか思っていない元帥が一枚上手で、さっと証拠をでっちあげて、イルネア姉様に罪を擦り付けた。


「……知らないわよ、そんなこと!!
 牢なんて嫌よ!
 クロノス殿下に会えないじゃない!!」


 姉様が悲痛な声を上げて牢獄に連行されていくのを、第4王女エルミナが、薄ら笑いを浮かべて見ていた。


   ◇ ◇ ◇
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