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32、第3王女は真実を明かす【ウィルヘルミナ視点】

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「原因は王妃陛下よ。
 姉様、子どもの頃から……変な男たちにつきまとわれてたでしょ?」

「……いや、知らん」

「え、それも知らないの?」


 同じ王城の中にいても、そんなに気づかないもの?
 兄様の顔は、心なしか青ざめて見える。


「城に出入りする貴族とか令息とかに、いやらしい目的でつきまとわれてたのよ。
 逃げ回って大人に助けを求めて……なのに王妃陛下は結局、そういう男たちをみんな無罪放免にした。
 そいつらは周りの人間にこう言い訳したの……『王女殿下から誘ってきたんだ』って。
 その噂が広まれば、また男たちが集まって……の悪循環」

「……信じられない」

「でしょうね。
 周りの大人たちも、『血のつながった母親である王妃陛下が無罪放免にしたのだから無実なんだろう』とか無責任に信じたわけよ」


 そうしてアルヴィナ姉様の悪評は広がった。
 平民たちの耳に入るまでに。


「あと……兄様にも責任の一端はあるんじゃない?」

「俺に? 何が?」

「考えてみれば、これまで妙に兄様が中心になる式典とか催事とか、前例のない視察とか、無駄に多かったわよね」

「……つまり?」

「あれってきっと、目下跡継ぎ見込みである兄様をあちこちで国民に御披露目してたのよ。顔を売れば、人気は上がる。
 そうなるとそのぶん、兄様の政務の量を抑えることになったり、裏方の仕事が発生したりするでしょ」

「……アルヴィナにその皺寄せがいったと?」

「そう考えれば、姉様の異常な仕事量は納得がいくわ。
 国民たちの間での噂、知ってる?
『アルヴィナ王女は国民の前に出てこない。仕事もせずに男遊びしているんだ』って。
 国民って、姿を現す頻度が高い=仕事をしている、って思いがちだものね」

「……………………」


 しばらく沈黙してからダンテス兄様は
「……知らなかったんだ……」
と呟いた。


(あれ? なんか……ずいぶん、ショック受けてる?)


 このあたりのこと、もっと早く話しておけば良かったかしら。

 まさか兄様がアルヴィナ姉様の悪評を信じていると思ってなかったから……。


「ま、まぁ……知らなかったにしたっても今から謝るのも遅いでしょうけど?
 あ、そういえば……アルヴィナ姉様の結婚式にはきっと兄様が代表で出席することになるんでしょう?
 その時にでも、今までのこと、少しぐらい謝れば?」


 と、私が自分を思い切り棚に上げて言うと、「それなんだが」とダンテス兄様は話を変える。


「アルヴィナのことだが、ベネディクト王家から連絡がきた」

「あ、結婚式の日取りが決まったのね?」

「────結婚式を終えたそうだ」

「は……??」


 私はつい、口をポカンと開けてしまった。

 いや、確かに、王位継承権を持っているうちほど命を狙われるリスクは上がるだろうから、早めに結婚式を済ますだろうとは思っていたけど。でも、でも??


「陸路で出発してまだ3週間弱よ?
 で、ベネディクト王国でしょ?
 やっと王都についたぐらいじゃないの?」

「いや。あちらは恐ろしく速い乗り物を持っているらしい。
 なんでも馬車が1日で走る距離を1~2時間で走れるとか」

「へ……!? なにそれ!?
 それにしたって、結婚式を終えてもそんなにすぐにこっちに報告できる?」

「ちなみに結婚式を終えたのは一昨日で、昨日の朝、結婚証明書の発行だと。
 ベネディクト王国とその属国は、電信なるもので瞬く間に国をまたいで情報を伝達するらしい。
 受け取ったこちら側も通信用魔道具や腕木通信セマフォアで迅速に王都まで情報を伝えたわけだが、やはり速さが違う」

「なんか頭がくらくらしてきたわ……」

「魔法抜きで国力の差がありすぎる。
 もはや魔法なんて時代遅れなんだろうな」


 ダンテス兄様が、皮肉な笑いを浮かべた。

 確かに。魔法は、使いこなせる魔力を持った人間自体がそもそも希少だし、それなりの訓練も要る。

 わたしたち兄姉妹きょうだいの中では、魔力の強い王妃を母に持つアルヴィナ姉様が突出していて、次に、唯一の王子としてかなりの訓練を受けたダンテス兄様。
 その2人を除くとちょっとした魔法しか使えない。


(知らなきゃダメだわ、他の国を。
 せっかくこれだけ兄妹がいたんだから、もっと留学とかしておけば……)


 そう考えて、自分が1年後には結婚して国を出てしまうことを思い出す。

 何を考えても思い付いたとしても、私には、この国での未来というものはないのだった。


「ああ、そうだ。腕木通信セマフォアといえば、北方からも連絡が来ていたな」

「!! ……なんて?」

「支援物資が無事到着し、配分が始まっていると。
 暴動もなく、死者も抑えられそうで、皆、王家の支援に感謝しているそうだ」

「……そう。だったら、王妃に恨まれた甲斐はあったかしら」

「そういえば、北方にはおまえの母親がいたな」

「……ええ」


 母からのお礼の手紙が、今朝届いた。
 領民たちは大変だが、それでも支援物資がもうすぐ来ると聞き、みんな励まし合ってがんばっているという。

 手紙にはいつものように、領民たちの暮らしが詳細に書かれていて、

『……アルヴィナ殿下からあなたがこのお仕事を引き継いだことを誇りに思います。
 しばらく会いには行けないけれど、身体に気をつけて。
 愛しているわ』

と結ばれていた。

 私なら絶対に逃げ出したりしないと踏んで、姉様はこの大仕事を私に引き継いだんだろう。


 ────おかげで王妃の嫌がらせ、酷いけど。


「じゃあ、俺はそろそろ」

「仕事に戻る?」

「いや、イルネアの様子を見てくる。囚人用の服で、風呂にも入れず食事もまともなものじゃなく、そろそろ精神的におかしくなっても不思議じゃないからな」


 確かに。
 地下牢の近くを通ると、よく、
『なんでこの私がこんな目に遭うのよ!!』
『ドレスを!化粧品を!宝石を持ってきて!!』
『今日も夜会があるのよぉっ!!』
などというイルネア姉様が泣きわめく声が聴こえる。

 ……どちらかというとあまりに牢番が大変そうなので、この間差し入れを持っていったぐらいだ。


「あの人がひどい目に遭ってるのは私はむしろざまぁみろって感じだけど(本音)、罪に関してはほぼ確実に濡れ衣でしょう? このままでいいの?」

「……おまえは気にしなくていい」


 素っ気なく言って、兄様は私の部屋を出ていった。


   ◇ ◇ ◇
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